2
お口で器用に暖炉へ薪を投げるサンタは動物とは思えないテキパキな家事捌き
ロッキングチェアで寝ているのはアオ
豊満な体はお餅の様に潰れ 顔は肘掛けに乗り出していた
せっせと働くトナカイの姿を目で追っていると
「はいお待たせしました……!!
キャットフードは無いからホットミルクで大丈夫だよね?」
「猫舌は配慮したのか?」
「そりゃぁ吾輩は紳士ですもの!! 気遣いなど朝飯前さ!!」
一舐めしてご満悦の表情のアオにニッコリ笑うサンタ
そこそこの一軒家に動物二匹だけの有意義でカオスな空間は珍しい
時間が進むに連れてアオのサンタに対する興味は増していく
「そんで? 本名は何て言うんだよ?」
「……」
「赤鼻トナカイでサンタクロースって……
いくらなんでも荷が重すぎるだろぉ?」
「……〝ナカイ〟」
「トナカイだからナカイなのか……?」
「うちの飼い主も安直過ぎるでしょ?
別に気に入らない訳ではない だけど吾輩はサンタを襲名したのだ
元の名は遠い昔に捨てたのさ!」
「そもそも子供の家にプレゼントを置いて行くのは仕事なのか?」
「〝ふるさと納税〟みたいなものだよ
子供から両親へ欲しい物を促され
サンタは寄付金とリストを受け取り
物を用意して届けに出向くだけさ!」
「プレゼントはどうやって?」
「……いいだろう!! 助けて頂いたお礼にお見せしましょう」
地下室にアオを誘うナカイは
普通の家にはまず無い複雑な製造機器が敷かれていた
近くには土嚢袋がパンパンに積まれており
されど凄みが増す分 稼働されていない巨大な機会は淋しさを与える
「まさかプレゼントは自家製だと?」
「そういうこと これは特殊な機械でね
あそこに積んである土嚢袋の中の〝寒天粘土〟を入れる」
器用に腕で袋を挟むナカイに逞しさを感じたアオ
大きな物音と共に円錐形の入り口に放り出される粘土は
プレスされ 物によっては引き延ばされ そして捏ねられて
流れ作業は全自動 型を取れば塗料で彩られ
あっという間に店に売られる玩具の完成だ
「食べ物などは砂で解決出来ないから
自治体を通して各菓子店などに注文し
こちらで受け取るという中継ぎをしているんだよ」
「……玩具屋の主人は泣いているな」
「別にこの仕事に大した利益は無いよ
直接渡したい家庭もあるし サンタを信じない子供も多くなってるしね
大体子供が寝ているときに職務を全うしなきゃいけないんだから……
そりゃぁ廃れて迷信扱いになりますってもんよ」
「……ちなみに粘土で作られていることはバレないのか?
店で売ってるのと違ったら苦情殺到だと思うんだが?」
「そこは大丈夫だよ……
むしろアレルギー持ちのお子様とかには粘土で出来た玩具の方が
何かと親御さん達に安心されるという好感が持たれているんだ」
「ちゃっかり考えてやがるぜ……」
「その上頑丈なもんだから苦情が来たことなど一度もありません!!」
隙を見せないナカイに
その大きさ故の圧を感じたアオは彼を大人と見ることにした
「しかしこれだけ設備が整っていても肝心の私がプレゼントを運べていないのさ……」
「ドジ踏んでたし 帰り道も分からないんじゃぁな……」
「あぁ…… 動物にサンタは務まらないか……
飼い主とパートのオバちゃん方がいる時はなんとか出来ていたんだがな……」
「飼い主は帰りが遅いとして パートのオバちゃんは働きに来ないのか?」
「……まぁ今回は無理だったってことで」
「いやいや…… のんべんだらり暮らしてる俺が言うのもなんだが
金を貰っておいて依頼を放棄するのはどうかと思うんだが?」
「もしかして猫さん…… 手を貸してくれるのかい?」
「アオって名前だ…… 仕方ねぇ電話借りるぞ」
アオは地下室の階段を登って
玄関に置いてある黒電話に肉球を差し伸べる
傍らに置いてある ナカイと若い女性が彼に抱きついて写る写真立てが気になったが
受話器を両耳に ヘッドホンならぬヘッドフォンを装着させた
そしてお掛け先は言うまでもなく
『もしもし?』
「……クソッ 母親じゃ連絡取れねぇ」
『猫の鳴き声がするわね…… こんな夜中にイヤだわ……』
通話は一方的に切られたが
アオは負けじとかけ直す すると
『もしもしぃ!! もしかしてアオ!!!?』
「おぉミオか?! 良かった出てくれて……」
『姿が見えないから心配したんだよ?! も~何処にいるの?!』
「ちょっと野暮用だ それよりあのネズミ野郎に伝えて欲しいことがある」
『まぁ汚い言葉…… やり直し!!』
「……チューに ……頼み事があるのです」
『はい何でしょう?』
「今から言う場所まで向かって俺の昔馴染みに招集を掛けて欲しいんだ」
『ふーん…… 〝しょうしゅう〟って言えばいいのね! 分かった!!』
「すまねぇ…… あとミオ!! 夜更かししてねぇで早く寝るんだぞ!?」
『うん!! メリークリスマスアオ!! 早く帰って来てね!!』
ヘディングで受話器を元に収めると
アオは再び地下室へと戻る
「プレゼントは何個出来ているんだナカイ?」
「半分に分けたよ 空からでも落せば労が増すからね」
「今回は何件分あるんだ?」
「十個だよ だから五個ずつ慎重に運ぼうと思ったんだ」
「あと五個の単純作業だけならアイツらに出来るか……」
玄関前に音も無く現れる二匹の影
ジャンプしてインターホンを鳴らし
ピンポンの音を耳で感じ取ってナカイは扉を開けた
「ちわす!! こちらにボスがいると聞いて馳せ参じました!!」
「ボス?」
「おぉ来てくれたなテンザン!! コジマ!! 早速仕事に取り掛かってくれ!!」