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【連載版】鳩時計の裏っ側 二次  作者: 滝翔
第四弾 サンタ・ク・ローズの奇跡
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三角で緑のツリーは一週間前から同じ場所

リビングの飾り付けは 保育園から帰って来ての一番の楽しみ

玄関を開ければいつもと違う一年跨いでの冬景色

家に帰ればこれまた違う 装飾が彩るクリスマスシーズン


「ローストチキンを焼くからもう少し待ってて頂戴ね!」


「はぁい!!」


少女ミオは猫を膝に乗せて椅子に座っている

期待を膨らませる目線の先は何も置かれていないテーブルだった

床板に届かない足をプラプラ揺らす居心地の悪さは猫を苛立たせ


「おいミオ…… 足の揺れが気になって仕方ねぇぜ……」


「今日は特別な日なの! アオにはデリシャス缶詰だよ!」


「……マジか」


次々と並べられるご馳走の真ん中には勿論クリスマスケーキが

ロウソクに火が灯されるだけで目で高揚振りを表すミオは

自分の年齢の数だけ刺してくれた七色のロウソクに息を吹きかけた


町はすっかりホワイトムーヴで星を隠す程の輝きで満ちている

住宅一つ一つに家庭があり それら小さい光が統一されてイルミネーションに

二階の窓からでも覗けばシャンパン片手にこの芸術品に心酔するのも仕方がないというものだ

そう感想を述べながら玩具のグラスに注ぐ赤ワインと縁にチーズを刺すお洒落なネズミ

この家のほんの少しの空間を拝借して冬を越す彼の名はチュー


「やぁホワイトレディー 聖夜の雪景色はまるで君の様に純白で

火が着いてしまう恋心に今日だけは白い吐息で鎮火してしまいそうだよ

……寒いからあまり窓辺に浸るのも良くないな」


チューはミオと仲が良い

だけど家族と一緒にいる場所へは顔を出すこと叶わないのだ

なんせ食卓にネズミが出て来たら不衛生極まりない

だからチューは人知れずお一人様を楽しんでいた


時間が進めば止まることのない秒針の如く外も暗くなり始め

ミオ達家族も賑やかだったのが嘘のようにそれぞれ就寝に入ろうとしていた


「長靴は用意出来たのかいミオ?」


「うんパパ! サンタさんへの願い事もちゃんと入れたよ!!」


「そうか…… じゃぁサンタさんはプレゼントを置いていくだけだな」


お休みの挨拶を伝え ミオは深い眠りへと誘われる

早めに寝なければサンタは来ないと言われているからだ


人が静まり返る中 目が覚めて暴れ出すのがコイツだ


「さて…… 今日もあのネズミをいたぶってやろうかねぇ~~」


猫のアオは前足とお尻を引き伸ばして

一度も成功していないチューを狩りに出向くもはや恒例行事

閉め切った扉を器用に手と頭でグリグリする中

聞こえて来る筈のない上空から 鐘の音が鳴り響いた


シャンシャン♪ シャンシャン♪ シャンシャンシャンシャン♪


窓の外を見るアオ

目の前の空中には木のソリを引くトナカイが現れた

右往左往にあちこち飛び回りながら次第にこちらに近付いてくる

どんどんシルエットも大きくなり 月明かりが窓を隠す頃には


ズボッ


いきなり急降下したかと思えば

昼間にミオと作った雪だるまに突撃していったではないか


「……なんだアイツ」


「ブヘアァ!! ……空を駆けるのも楽じゃない

試乗もサボるから感覚も覚えてやしない」


煉瓦の出っ張りを器用に足掛げにして

クッションの役割も果たすフワフワの雪上にダイブしたアオ

猫の足跡が向かう先は勿論この怪しいトナカイだ


「おめぇ空から来やがっただろ? ……何者なんだ?」


「吾輩は赤鼻のトナカイで有名なサンタクロースです!!」


「はぁ?! サンタは赤と白ずくめの爺ぃだろうよ

なんだってトナカイが名乗ってやがるんだ?」


「……時は神話の時代に遡る」


「長くなるなら興味ねぇ 家に帰らせて貰う」


「……ぶえっくしょん!!!!」


「トナカイも風邪引くのか? 悪いけどその図体で家には寄せられねぇな」


「ハァハァ…… 一旦家に帰らせて貰おうとするか

プレゼントは身を焦がしてでも届けなければならないのだが……」


赤鼻からツララを垂らすサンタは

さもしく重いソリをズルズル引き摺り

老齢が露になる身体はとても絵本の様な馬力あるトナカイには見えない


「ちゃんと家に帰れるのか?」


「分からない…… というか届け先にも迷う体たらくだ……

サンタの代は私で潰えることになりそうだな……」


「無理すんなよ 住所を教えてくれれば俺が手綱を握ってやる」


ソリに乗り込むアオは生まれて初めて夜空を遊泳する

走行速度が上がると鳴るベルの音が鬱陶しいのは我慢だが


「このベル なんとかなんねぇのか?」


「速度制限だよ

これ以上うるさくなる其れ即ち!

速度オーバーで警察のご厄介になるからね!」


「……そうなんかぁ」


サンタの家は然程遠くない

というよりこの街の一番高い丘に構えるごく普通の民家だった


「普段から視界に入る場所に住んでいたんだな……」


「そりゃぁ吾輩は摩訶不思議な生き物では無いですもの」


「空はどうやって飛んでいるんだ?」


「さぁ一緒に暖炉で温まろうじゃないか!!」


まるで触れさせないサンタはアオを連れて家の中を案内した

自分が住むミオの家の二倍の大きさ 豪邸だ

しかし灯りは玄関先の誘蛾灯のみ


「お前一匹だけが住んでいるのか?」


「ちゃんと飼い主はいるよ

ただまぁ…… 帰ってくるのが遅いんだ」



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― 新着の感想 ―
[一言] どうも原作者です! 読むのが遅くなりすみません(><) またまた書いて下さりありがとうございます! 1話目からとても魅力的なトナカイ登場に胸が踊ります。アオも丸くなったものだ…初期なら問答…
[良い点] >猫のアオは前足とお尻を引き伸ばして なにげに猫の生態がリアル( ´ ▽ ` ) [一言] 鳩時計の連載再開ですね。今度はどんな物語か楽しみにしています!
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