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山が崩れ落ちる それはバリーが己の信念に反した行いだと気付いた証
急いで山を下ろうとするが さすがに途中から落ちている感覚だと知る
シルバーに捕まるチューと登山でヘロヘロのアオは為す術がない
と思ったそんな時 岩を蹴って飛んでくる歴戦の剣闘士
「無事か皆!?」
「「「 ラタトゥイユ~~!! 」」」
華麗に着地する彼のかっこよさは
少年のシルバーの目がギラギラ輝かせるほどだった
ハンネやミオ達と合流すれば その後は呆気なく
全員の体が光り出して その現象はレイツェルが答えてくれた
「お別れの時間だね!」
さっぱりとして全ての旅を締めくくる一言
しかし少年のシルバーにとってやり残したことが
「レイツェルさん……」
「んぁ?」
「ごめんなさい…… 俺は自分より弱い生き物をイジメてました……」
「……フェへ!! いいんだよいいんだよ~ そんなこと~~!!」
ちゃんと謝られたレイツェルは嬉しそうにはしゃいでいる
チュー達は 結局は魔女猫も自分達と同じ生き物なのだろうと納得する
「ミオ! ちょっと二人だけで話さないか……」
「……だったら保育園で話そうよ ちゃんと現実の世界で話し掛けて」
「っ…… それは……」
「さっき謝ったのはここが夢の世界だから? なら許してあげないから」
そう言い残してミオは消えようとしている
必死に違うと言いたかったシルバーは いざという時に勇気が出ないまま
そのままミオと一緒に光の粒となって消える 元の世界に戻ったのだ
「さて…… 俺達も帰ろうか……」
チューが咄嗟にお礼を言ったのは
「ありがとうラタトゥイユさん!!
貴方にはいつも助けて貰い 今回無事に解決出来たのは貴方の功績によるものです
現実の世界に戻っても また何処かで会えると良いですね!!」
「何を言ってるんだ相棒!! 俺達はバディだ!! 心はいつも繋がってる!!」
「……そうだね 君はもう僕達の仲間だ!!」
「俺も出会えて良かったぜ ……お前らの助けになれて嬉しかった」
そう言い残してラタトゥイユも消えた
そんなタイミングでハンネから予想外の一言が投げかけられる
「あれイタ助でしょ?」
「「 えっ?!!! 」」
「アンタらホント…… なんで声で見分けがつかないわけ?!!」
最後に怒るだけ怒って消えるハンネ
残されたのはチューとアオとレイツェルだけになった
「まさかイタ助君だったとは……」
「あんな奴に少しでも憧れそうになったのは俺の人生の恥だぜ……」
「ヒェッヒェッヒェ! それが夢の世界という物
現実では叶えられない自分の仮の姿を演じれる
こういう世界は現実の世界にもあると思うけどね
まずは囚われないこと されど何処で何をしようにもちゃんと生き抜くことだね
そうすれば自分の抱いた夢が 過去・現在・未来が自然と実を結べるもんさ!」
ただ満足気に高笑いしているレイツェルにもチューはお礼を言う
「レイツェルさんも…… お世話になりました」
「あたしぁ何もしてないよ 目が覚めたらまた ただの野良猫なんだからね」
「また会えたり出来るんですか?」
「目覚めた場所によるね 前世の記憶が残るってのも難儀だよ
だけどアンタのいる世界にもアタシはいる それだけの事さ」
レイツェルは消えた
そして自分達も帰ろうとしたとき
不意にチューは後ろから肩を叩かれる ミーナだった
「もう行くんだね」
「ミーナ……」
「……じゃぁ俺はさっさと帰るとするわな!!」
あのアオらしからぬ極上の気遣い
ペロペロと毛繕いしながら何も言わずに帰っていってしまった
「こういう時に気が利くんだか利かないんだか……」
「フフッ…… 良い仲間を持ってるんだね 嫉妬しちゃうな……」
「君は…… 僕が作り出した妄想だ
そんな君に何かを言うのもあれだけど 会えて良かった」
「……」
「それだけ言いたかったんだ…… それではさよならです」
チューは自分の意思で夢の世界を断ち切ろうしたが
それを踏みとどませる威力の ミーナの抱きつきに困惑してしまった
「っ…… ミーナ…… よしてくれ…… 離してくれ……」
「チュー…… 私ね……」
チューから離れるミーナは 胸に手を当てて目を瞑る
その身体は白く光り出し 今にも消えそうとなっていた
「君は…… 君は一体……」
「まだ気付かない? ……せっかく水色のチョッキを作ってあげたのに」
「そんな…… まさか……」
「チューが話してくれた昔話には 私の知らない未来があった……」
片手で作った握り拳を もう片方の手でギュッと握る
震えているようにも見えたが その顔には笑みと涙が
「今の貴方のそばには もう私はいないんだね……」
「っ……」
「だけど安心出来る あんなに素敵なお友達がいるんですもの
あのチューが…… 群れを成すことを毛嫌っていたチューが……」
「これも…… 俺が作り上げている幻なのかな……」
「そう思ってくれて構わないよ だってもうチューの隣に居られないし」
手に汗が滲む 真実を確かめようがない
だけどこのまま消えたくないと思ってしまっていた
ーー片付けていいのか…… これはたかが夢だと決めつけていいのか……
僕は…… 俺は…… 俺は……
何をしにこの夢の世界に来たんだ……
世界が崩壊を始めた すっかり馴染んだ国も空も
時空の狭間に投げ捨てられるかの様に消えていく
足場も崩れて宙に浮くチュー達
時間が迫られる おそらく目覚めが悪くなる強制送還が頭を過ぎる
ーー俺は…… 俺は……
大量に流れる涙を手で拭う
その水滴を見たチューは正直になろうと意を決した
「俺は…… お前と…… 別れたくなかったんだ……」