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【連載版】鳩時計の裏っ側 二次  作者: 滝翔
第三弾 ムゲンの望郷
21/41

9


全員は急いで外に出る

辺りは既に真っ暗 そんな月夜に照らされた巨大な影

それはアオ達と別行動をしているチューとミオも見上げていた


「おっきぃ……」


「ヒトですら大きいのに…… 山みたいですね」


山岳の怪物は背伸びをして月を隠すと

自分の身体を興味津々と舐めるように見渡して


〝 おっほ~~い…… なんだこの筋肉ぅ!!? 夢の様だぜ!! 〟


巨躯に似合わないフランクな物言いに

それを見上げる全ての生物達の顔がキョトンとしていた


その自分の身体にテンションが上がる時にだけに出る

怪物の独特の口調に思い当たる人物 いやハムスターを浮かべたのはハンネだった


「もしかして…… バリー?!!」


〝 よぉ~~ その声は情報屋のハンネかぁ?!!

見違えたぜ~~ 色っぽいナイスバディーな女になったじゃねぇかぁ!! 〟


「えぇまぁ…… だけどあなたのその身体は山だけど満足なの?!」


〝 見てくれよこの盛り上がった上腕二頭筋!! はち切れそうな脈の鼓動が聴こえるかい?!! 〟


「山脈なら見えているわ!!」


大声を出さないと聞こえないハンネに対して

鼓膜が破れそうな声の主バリーこと

本名はクリスティーネ・シルフィー・ストラディバリウス


その如何にも禍々しい巨大物を見ていたアオは

もしかしてと思い レイツェルに聞いた


「あれがラスボスか?」


「知らないねぇ……

どう見たってあの巨体の持ち主が

夢見ていた姿を具現化させてるだけじゃないかい」


バリーはその場でポージングを始めた

僅かな動きだろうと足踏みすれば そこ一帯の建物は崩壊し

近辺住民からすれば悲鳴を上げざるを得ない状況だ


「ちょっとバリー!! 落ち着きなさいって!!」


〝 これが落ち着いていられるかってんだよぉ!!

何処までも膨らむ贅肉に 向日葵の種を押し込む生活とはおさらばだ!!

理想のディフィニッションを手に入れたんだ!! この絞った無駄の無い体をな!! 〟


「山に脂肪もへったくれもないでしょ……」


〝 ……えっ? ナイスバルク?! センキュー!!!! 〟


「……駄目ね 完全に新しい自分の筋肉バルクに魅了と心酔しちゃってるわ」


ハンネは大声を出すことに疲れてアオに投げやり状態に

アオもアオでどうすればいいのか もはやレイツェルに問う他ない


そうこうしている間にもバリーはこちらの中心地まで進撃して来ており

被害は拡大する一方だ


「あれがラスボスってことで倒して終わってくれねぇかなぁ魔女猫さんよぉ!」


「だからあたしぁ何も知らないんだよぉ! 疑り深い猫ちゃんだねぇ全く……」


押し問答では解決しないと溜息を吐くアオ

そんなアオは目に留まった一瞬の光景を見逃さない

衝撃で飛んでくる大きな瓦礫の落下地点には合流間近だったチューとミオが


「おい! 危ねぇぞ!!」


走り出しても間に合わず

チューとミオは瓦礫に押しつぶされ

そのまま劇団ヒスイがいる劇場内へと落下物はめり込んだ


「ミオ……」


急いで助けに行こうとするアオ

しかしそれよりもダッシュで駆けて行ったのはシルバーだった


「ミオぉ!!!!」




ホール内部でも騒ぎが生じている

急に外から巨大な塊が衝突してきたのだから無理もない

しかしその落下地点ではチューとミオが無傷のまま座っていた


「チューさ~~~ん!!」


余程怖かったのか ミオからの熱烈なスキンシップ

本来なら光栄と思わんばかりなのだが状況が状況

そこへ駆け付けたシルバーは荒い息を吐きながら近付いた


「大丈夫かミオ!!」


「シルバー君……」


ミオは一瞬目線を逸らしてしまった


「……ゴメン ……ミオ

俺が悪かったよ お前の友達を汚いネズミとか言ってゴメン!」


「……」


「ミオを助けに来たんだ…… 手を取ってくれるかい?」


差し伸べられるシルバーの手のひらを

ほんの数秒見つめるミオは無視して安全な場所に逃げていった

残されたシルバー そしてその傍らにはチューが待っていてくれて


「君の言ってることは間違ってはいない……

汚いネズミだとは 汚いネズミ自身が自覚しているからね!

……でもまぁ ミオお嬢さんを衝動的に助けに来たり

今こうして僕と会話している辺り ちょっとは見直したよ!!」


「……どうも」


「君のような園児がいてくれれば 外に出ているミオお嬢さんを心配しなくて済む」


「……お前は何者なの?」


「僕は…… ただの使い魔ペットだよ?

ミオお嬢さんの家に勝手に居候しているずうずうしいネズミさ」


チューはミオの逃げた跡を追い

シルバーもその後ろを付いて行く

外に出てやっとこさ合流できたチュー達は

あの巨大な山はバリーなのだと教えて貰った


「じゃぁバリーさんを倒せば 現実の世界に戻れるのかい?」


「そうじゃないらしい…… でもあのままにしてはおけねぇよな」


ミオをハンネに託してチューとアオは行動に出る

バーの地下に避難するハンネを 興味津々に見つめるミオは


「ハンネさん…… ママより大きい……」


「ありがと! どこ見て言ってるかは聞かないけど……」


取り敢えず屋根に登る二匹

その後ろからなんとシルバーも付いて来た


「おいおい危ねぇぞ…… 引っ込んでろ!」


「この世界では死なないとわかったし

目的が怪物退治ならむしろゲームをしている俺の出番だ!」


何処から持ってきたのか 勇敢に剣を構えるシルバー

しかしチュー達にとってバリーは知り合いだ

出来るだけ穏便に事を済ませたいところだが



〝 俺がぁ!! 世界のぉ!! ボディビル王者だぁ!! 〟



「悪役っぽいセリフを吐いているぞ アイツがラスボスでいいんじゃねぇか?」


「うーん…… 仕方無いか……」


チューはアオの背中に乗って バリーの懐へと走っていく


「おーい! 俺を置いて行かないでくれぇ!!」


シルバーも必死に付いて行こうとしていた

こんなデカい怪物に普通の攻撃は通用しないと踏んだ二匹は

登れる場所を見つけて一気に頭上まで駆け上がる

勿論シルバーも剣をかぎ代わりにして少しずつ追いついて行く


「ゼェゼェ…… ここが天辺だな……」


「アオ君! 恩に着るよ!!」


チューは精一杯の叫び声でバリーに呼び掛けた


「山は大自然の中で作られた天然素材だ!!!!

ボディビルの世界王者は努力しなくても勝ち取れるのかい!!!?」



〝 ……違うな 俺が間違ってたよ チューさん 〟



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― 新着の感想 ―
[一言] バリーぃ!爆笑 バリー最高ですね!被害ヤバいですし笑ってられる状況じゃないんでしょうが笑いました(笑)ほんっと好きです!
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