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【連載版】鳩時計の裏っ側 二次  作者: 滝翔
第三弾 ムゲンの望郷
20/41

8


劇は何事も問題無く進行していき

自分の出番が終わって裏に戻ると決まって舞台袖でミーナの演技を見守るチュー

こうも思っていた もし台詞を噛んだりして彼女が困っていたら

すぐに飛び出してアドリブでもなんでもやって助けてやろうと

それ程までにチューは 常にミーナから目を離せなくなっていた


『無事に氷の騎士は炎の怪物を退治して 国に平和が戻る

しかし王様は 王様だけではなく民までもが 氷の騎士に感謝はしませんでした

氷の騎士もまた異形の姿をした怪物だったからです

災いをもたらす小さな芽であろうとも 無視出来ない国の人達は

あろうことか氷の騎士を追放してしまうのです』


門を潜る氷の騎士役のチューのもとへ駆け寄る姫役のミーナ


「待って下さい!!」


「……」


「この国は貴方様に感謝していませんでした……

……感謝していたのは私だけだったのかもしれません」


「俺は大丈夫です 短い間でもこの国の為に励めたこと…… 後悔してません」


「……私は後悔しています

姿形が違っただけで 誰とも群れることが出来なかった一人ボッチの貴方を

遠くから見ているだけで手を差し伸べられなかったことを」


「っ…… 何をおっしゃってるんです 俺にとって君はいつも光だった」


「えっ……?」


台本には書かれていないチューの台詞に裏方達も困惑する

それでもチューは言葉を止めることなく ミーナもミーナでアドリブで応対した


「ヒトと喧嘩しようとも 野良猫と喧嘩しようとも

自分の境遇に不満を持ち ふて腐れていた時も

君は常に心配してくれて…… どれだけ煙たがれようと傍にいてくれた……」


チューの目からは 涙が


「あれから無意味に血を流したりはしていない 本当だ!!

君が手当てをしてくれて 水色のチョッキをプレゼントしてくれて

二度と喧嘩しないと約束したあの日から 俺は……

僕は自分の人生を投げ出したりはしてません!!」


「チュー…… フフッ ではこれからも私の傍に居てくれますか?

氷の使い魔として私の傍から離れず この国を守って下さい」


「……願ってもないことです」


無事に幕は下ろされ

セットの裏では軽い打ち上げが行われていた

話題の中心はやはりチューのアドリブだろう


「脚本はカワセミ姫直々にお作りなさってるんだぞ?!

……もしもお気に召さなかったら ワシらは解散の危機に」


「それならおそらくは……」


非常口が開け放たれて そこに現れたのはミオだった

レイツェルフロンティアの姫が突然現れたことによって場は混乱する


「ひ…… 姫様……!!」


全員がひれ伏す そんな中で一匹だけ

チューはやっと会えたミオに駆け寄った


「もしかして私を助けに来てくれたの? チューさん!」


「僕だけじゃない…… ちゃんとアオ君もいるよ」


既に仲が良かったのかと思わせる姫とネズミの会話に

一同は呆気に囚われ 置いてかれていた

そこへ 着替えを済ませたミーナがやってくる


「紹介するよミオお嬢さん…… その…… ミーナだ」


「お初にお目に掛かります

この度カワセミ姫の書かれた物語のヒロインを努めさせて頂きました

新人子ネズミ女優のミーナと申します」



「えっ…… ミーナさんってもしかして……」



チューは軽く頷いた

以前 チューから昔話を訊いていたミオはすぐに察知する

そしてチューはミーナや監督さんに事情を説明した


「今夜はお世話になりました ですが僕達は行かなければなりません」


「行くって…… え? カワセミ姫も?」


「はい…… 僕達は目覚めなければならないので ずっとここに居座るわけにはいきません」


監督に理解を追いつかせないまま

チューはミオの肩に乗って外へ出ようとしたとき

同じく状況に整理がついていないミーナは呼び止める


「待って……」


ミオは足を止めた 後悔は無いと思っていたチューは振り向いてしまう


「あなたチューって名前なのね……」


「……」


「素敵な名前!! ……また何処かで会いましょ!!」


「っ…… はい…… 願ってもないことですよ」


一人と一匹はネオンが眩しい街の外へと駆け出して行った

残されたスタッフ達は未だに呆けていたが ミーナは何故か淋しげな表情をしていた

後からやって来たミオの執事と名乗る方が慌てた態度で尋ねてきたが

行き先を知らないスタッフ達には答えようがなかった




場所は戻ってハンネが踊っていたバーへと戻る

賑やかな空気は一変して 事態は急展開を迎えていた


「ハァハァ…… 俺への嫌がらせかドブネズミ!?」


「おやおや…… これはまた妙なところでの再開だね

偶然なのか必然なのか…… でもアタシはアンタを恨んじゃいないよ」


「ウソ付くな!! こんな…… しゃべる動物に訳の分からない世界

お…… 俺があの時に蹴った缶がお前に当たったから その復讐なんだろ??」


魔女レイツェルに噛みついているのは人間でシルバーという少年だった


「お前そんなことしてたのかよ……」


少年を知るアオも呆れて 眉間にシワを寄せる表情をしていた

ハンネやバーテンダーのマスターは必死に落ち着かせているが


「こんな悪夢を見せやがって…… ふざけるな……

ふざけるなぁ! 早く目を覚まさせろ!!」


「ヒェッヒェッヒェ!! そんなの無理だよぉあたしゃぁ!

だってこの世界は誰の物でも無いんだからぁ」


「そんな訳ないだろぉ?! いいからさっさと元に戻せよ!!」


シルバーの最後の発言に関してはアオも同意だった


「魔女猫に会えれば解決すると思っていたが

本当に現実への帰り方は知らねぇのか??」


「この夢の世界の感覚は不思議とメルヘンとゲームに染まってるからねぇ

何かしらのハッピーエンドを迎えるか……

よく訊くラスボスを倒すとかじゃないかねぇ……」


「ラスボスって……」


勘を働かせるアオとは対象的に

完全に体育座りで蹲っているシルバーは泣き言を漏らしている


「どうして俺がこんな目に……

動物をイジメたからか? 動物を汚いって言ったからか?

……ミオに悪口を言った自覚はあったさ でも…… でもさぁ……」


「まぁ全部の発言を改める必要はあるわね」


ハンネは溜息混じりにその言葉を投げかける

事態は一向に進まないと思われたその時

王都全体に響き渡る地鳴りが 店内にいる全員を震撼させた



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― 新着の感想 ―
[一言] くぅぅぅ! このチューとミーナのやり取り……特殊な夢の世界と劇の中というやり方、私には絶対に書けない。悔しいけど、こんな2匹が見られて嬉しいです。
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