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【連載版】鳩時計の裏っ側 二次  作者: 滝翔
第一弾 氷と炎の使い魔達
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「ホルッホルゥ!」


12回目のハトの鳴き声で今日も目覚めるチュー

常夜灯じょうやとうが差し込む明かりを太陽の代わりに良い朝だと口にしてみる


「さて! 今宵こよいは何を頂いて……」


一人暮らしのチューともう一匹のネズミ


「やぁ! 久しぶりだねチュー」


「……君は」


勝手に揺り椅子ロッキングチェアに座ってくつろいでいるシルクハットを被るネズミ

チューは着替えるなりハーブティーを二匹分用意すると机の上に並べる


「今は何をしているんだい…… 〝ハーメルン〟」


「君と同じさ! だからまたこうして巡り会えたんだろ?」


ピクピクとその長い鼻で香りを楽しむハーメルンは一啜ひとすすりするなり

小さな器を戻し チューの方へと顔を上げてニコッと笑みを送る


「美味しかったよチュー 生活には困ってないようだね」


「えぇ…… ……なぁハーメルン!」


「さて! ではチューにこの家を案内してもらおうかな!」


「……いいだろう」


チューが支度している間 ハーメルンは自分の持ってきた荷物の中身を整理している


「随分と大荷物だな…… 長旅だったのか?」


「ンァ?! ……いや長旅ではないが ネズミが外に出ようものなら過酷かこくになるだろ」


「……確かにそうだが持ってくるには少々大き過ぎると思ってな 土産みやげか?」


「ンハハ!! まぁそんなところだ」


互いに準備が完了し 特製の扉から鳩時計の内部へと入った


「ほぉ…… こりゃすごい! お前が退屈しないわけだ」


「少々不便だが…… 上の部屋まで登ってくれ」


上を指すぼんやりと明るい場所を指示するチュー

ハーメルンもまたネズミの身体能力でハトのいる部屋へは苦労しない


「いやはや 運動不足にならずに済むな」


「やぁホワイトレディー! 今宵は騒がしくしてしまって申し訳ない」



「………」



一早く外に出てストレッチをしていたハーメルンがチューの所に引き返す


「なんだよチュー 俺にも紹介させろ」


「ハハッ ……度々すまないねぇホワイトレディー こちらはハーメルン 僕とは腐れ縁くされえんの旅人さ」


「よろしくぅハハァ!! 今度二人でお食事でもいかがかな?!」



「……………」



「彼女は僕に対してもそうだが ドライなのさ」


「ほぅ! じゃぁ俺が先に手を出せた暁には また一つステータスアップだなぁ」


「いいから早く行くぞ」


ウキウキ気分のハーメルンに困り気味のチューではあったが

何やらこの二匹には それなりの繋がりがあるらしい

床へと降りる二匹は地に足を着けたと同時に殺気に気付いた


「下がれハーメルン!!」


「シャァァ!!」


この家の番犬ならぬ番猫のアオが暗闇に目を光らせて登場


「なんだよチュー もう一匹いたんだったら紹介して食わせろよ」


「なんだよこの野良猫は…… どこから侵入してきた」


予期はしていた事態だが 今日もまたミオに抱っこされて動けないケースを望んでいたチュー


「ハァ…… アオ君 今日は見逃してくれないかい?」


「……なんだよ急用か?」



「話に耳を貸すんだこの猫……」



アオのあまりにも人道的な態度にハーメルンはさっきとはまた別で動揺どうようする


「一応紹介するよハーメルン 彼はアオ君と言ってこの家のペットなんだ」


「ペットになった覚えはねぇ 俺は一匹狼だ!!」



「……猫なのに?!」



自分の知らない犬猿けんえんの仲を越えて繰り返されるネズミとネコの穏やかなやり取り

やってることは〝いがみ合い〟と〝じゃれ合い〟だが ハーメルンはつい口に出す


「仲が良いんだな」 


「良くはない!!」 「良くはねぇ!!」



「またケンカしてるのアオ!! ……あれ? チューさんのお友達?」



またしても反対方向からヒョッコリ出てきた人間の子どもミオだった


「……人間とも仲が良いのか?」


「まぁね…… 起こしてしまって申し訳ありません ミオお嬢さん」



「それは別に大丈夫だよ それより そのシルクハットのダンディーなネズミさんを紹介してよ!」



ニコニコと屈んでハーメルンを見ては嫌悪感けんおかんを感じさせる素振りのない

その愛嬌あいきょうあるミオの印象に彼は人知れず フワフワの胸部を軽く握った


「そういえば彼を紹介するのはアオ君にもまだでしたね

彼は〝ハーメルン・ペドフィリア〟 私と同じで外の世界を冒険している者でしてね

互いが旅人 故にどこかでバッタリ会うことも多くて

たまに出会っては町の風景をながめながら昔話で盛り上がったりしてたのさ」


「そうなんだ! よろしくハーメルンさん!」



「…………よ よろしく」



灰色に似合わない頬を赤らめる彼をよそに

ミオは前と同じように戸棚からチーズを持ってきてくれた


「はいどうぞ!」


「「 ジュルリ!! 」」


「チューさんとハーメルンさんの再会のお祝いだよ!」



ーー天使だ!!



二匹のネズミは心の中でシンクロする


「それじゃぁ私達はいつものようにここいらで戻りたいと思います」


「うん! お休みなさい!」


「しかし毎度毎度チーズを貰ってママさんは何も言わないのかい?」


「何も言ってこないよ?」


「……それならいいんですがね アオ君はチーズ食べないのかい?」



「チーズ味のネズミを二匹 食う予定だから楽しみにしてるぜ!!」



「ヒィィィィィィ!! 恐縮です!!」


お尻をブンブン振ってるアオに怯え縮こまるハーメルン

そんな彼を助けるのはこの状況に慣れてしまっているチューだ


「さっさと行きますよ……」


「お前なんで目の前にネコがいるのに怖がらねぇんだよ!!」


後ろ首の柔らかい皮を掴んで引っ張っていくチューは去り際に一礼を忘れない


「ケッ!! またこの家が騒がしくなるのかよ」


「さっ! 私達も寝ようね!」


「嫌だぁ! 離せぇ!」


「もう! なんで一緒に寝ようとすると いつも逃げちゃうの?」


ミオはアオを強引に抱き上げて部屋に帰る





一方二匹は鳩時計の裏側へと帰宅


「いやぁ~~ 近年まれに見ぬ驚きだったぜ」


「だろうな…… 僕も最初は驚きの連続だよ」


「まさか人間とネコと仲良しなんて 本でも出せよチュー こりゃ売れるぜ!?」


「ハハ…… 気が向いたらな

お前も悪い気分じゃなかっただろ? 人間の子どもに好かれていたお前が一番な」


「……昔の かなり思い出したくない話はやめちくりぃ」


ハーブティーを入れ直すチューは今度はチーズをつまみにセットで机の上に並べる


「なぁチュー」


「何?」


シルクハットをクルクル尻尾で回しているハーメルンはとある提案してきた


「明日さ 俺の住処すみかに来ないか?」


「…………君を〝もう一度〟信用しろと言うのかい?」


「やっぱり覚えてたんじゃねぇかチュー 〝ハーメルンのホラ吹き事件〟」


「忘れるわけないだろ…… 僕達は追い出されたんだよ 〝人間ではなく君に!!〟」


「本当に謝る!! ……すまん!!」


立ち上がって深々と頭を下げるハーメルン


「あの時は人間達に上手いこと利用されてたんだ だから俺が皆を誘導ゆうどうして……

だけど誘導して別の場所に住処を移してもらっただけだ 傷ついてはいない!!」


「その誘導した中には飼い主が可愛がっていたネズミだっていたんだよ?」


「……」


「僕らと変わらない仲間だったよ 人間に愛されるハムスターじゃない

引き返そうと一度でも外に出たそんな彼を見た通行人は どういう行動に出たかわかるよね?」


「っ……!」


「横たわる亡骸を二度も三度も…… 目を覆いたくなったよ でもそれが僕たちと人間との生活の仕方だ」


「チュー…… 俺は……」


「……明日に向けて早く寝よう」


「え?」


「行くんだろ…… お前の住処に 自分の家を自慢し合うのも恒例こうれいだった」


「チュー……」


ベッドを彼に譲り 自分は床に掛け布団一枚で就寝する

しかし時折ベッドの方から聞こえてくるすすり泣く寝言で一睡もすることができなかった


「ごめんなさい…… ごめんなさい ごめんなさい……」


「…………」


翌晩 二匹は支度を調えてハーメルンの家があるという下水道へと入っていく


「ここの臭いはディナーのセッションに好ましくない」


「ネズミがそう言ってくれるなよ」


奥に進むと明かりが見えて来た

地上へ出ると どうやらハーメルンの家とは路地裏のようだ


「地下道を進む意味はなかったんじゃ?」


「そこらの人間は信用していない 下水道は安全だ」


チューは辺りを見回す いかにもな殺風景な隘路あいろ

端の壁にもたれて生気を失ったかのような住人は二匹を気にもとめない


「こういうところは好きになれない」


「現実だ…… 俺達ネズミが同情しねぇでどうするよ」


不気味にも空いてる真ん中の道を歩いて行く二匹

少しすると大きな建物同士に挟まれた小さな一軒家に着いた


「ここだ」


「ほぉ!」


中々の住処すみかとなる建築物を眺めている二匹の前に大きな人影が

恐る恐るチューが背後を振り向くと


「まぁお友達? ハーメルン!!」


薄汚れたパンと腐りかけのリンゴを袋イッパイにして担いでいる少女が一人


「やぁ! ゴミ溜めに咲く一輪の金色の花〝ラシーネ〟!!」


「やぁラシーネ! 僕はチューと言います 以後お見知りおきを」



「わぁお客さん!? どうぞ上がってって!!」



全身茶色の汚れに似合わない金色の髪とあどけない顔立ち

ラシーネは客と見れば なりふり構わずチューをもてなしてくれた


「……信用するに値する人間の子 だろ?」


「間違いないね!」


お邪魔するチューはラシーネとハーメルンに誘導ゆうどうされて二階の部屋へと案内された


「大したものは出せないがゆっくりしてってくれ」


「コラ! 食料を持ってきたのは私! 感謝してよね」


「それを言うなら俺だって少しずつよそから拝借はいしゃくしてくるだろう?!

一階に置いてあるパンパンのリュックを見たか? 大収穫だいしゅうかくだったぜぇ!! 土産込みだ!」


「それね…… ドロボウっていうの」



「うっ……」



ラシーネの一言にチューも刺さるものがあった


「まぁ盗んででも生活していかなきゃならないって点ではネズミ達

そしてこの裏町の住人達も例外じゃないんだけどね」


「じゃぁこの食料もですか?」


チューがそう聞いた途端 身体がヒョイと宙に浮く


「働いてるの!! ちゃんと!!」


「それは失礼しました ブロンドレディー」


「わかればよし!! まぁネズミさんは人間社会で働くことは出来ないから大目に見てるよ」


最後にチューを机に降ろし 軽く人差し指ででて出て行った


たくましい子だ」


「あぁ! それでなぁチュー」


「ん?」


びんのキャップに注がれた水を飲み干すハーメルンは窓の外の遠くの景色を見て言う


「近いうちに俺はここを出て行こうと思うんだ」


「……また旅しに行くのか」


「そうだ…… なぁチュー 一緒に行かないか?」


「……」


「俺達が組んだらさ! もっといろんな世界が見れると思うんだ! 船乗ろうぜ船!!」


「ハーメルン……」


「なぁどうだ!?」


「悪いが今は遠慮しておく 今はあの家でも十分冒険しているし

一つ屋根の下でも様々なイベントが起ることを それこそ人間の子どもと一匹のネコが教えてくれたんだ」


チューが断ると ハーメルンは残念そうに落ち込み始める


「なんで…… お前は家の屋根裏で満足するタマじゃなかっただろ?」


「それが理由じゃないよ 君とは長い付き合いだ 隠し事はしないで言う」


チューは立ち上がりそのままハーメルンに背を向ける


「一度信頼を失った相手には もう一度向き合う為の時間が必要なんだよ」


「チュー……」


「見送りには行く 日が決まったら連絡をくれ」


階段を一段ずつ飛び降り 出口に向かおうとすると

その大きな扉を開けてくれたのはラシーネだった


「あらお帰り? またおいで!」


「お言葉に甘えて! ……アイツのことよろしく頼みます」


「うん! 良いコンビでしょ私達」


「……えぇ!」


チューは食べ物のお礼をして裏町を後にした


ーー間違えるなよハーメルン

人間とネズミ 両者から信頼を得ようとしたお前の動機どうきは優しさからなんだと知っていたさ

だけどな 鳥と獣の間で寝返りを続けたコウモリは孤独を味わうことになるんだって覚えていて欲しい

まだまだ先の事かただの妄言かもしれないが 危険をおかしてまで選択を見誤みあやまらないでくれ




……今日はあまり 良い夢が見れそうではないな





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