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両手を広げて 妖艶に腰を横に振って歩いてくるダンサー
目の前のポールに手をついて クルクル回る姿は男性客の目を虜にする
「ナイスバディーな姉ちゃんだなぁ」
「おそらくNPCっていう人物なんでしょ? 僕達には関係ないね」
「あぁ…… どれだけ別嬪でも姿が人間じゃぁな」
四方に振りまくお色気ムンムンの覇気を配る踊り子は
カウンターに黙って座っている 無関心の二匹のもとへと近付いてきた
「可愛い坊や達がつまんなそうにしてるわね!」
「いえいえ…… お構いなく……」
踊り子はチューに顔を近づけるなり 軽くウインクすると
「僕達は動物ですので ヒトの魅力はちょっと……」
「あら…… 私が分からないの? ヒドい子ネズミちゃんね……!」
「えぇ…… ですので貴女を待っているお客さん達のもとへ戻って下さい」
「……本当に分からないのチュー? 声は変えていないんですけど?!」
「えっ?」
「ハ・ン・ネ!! この名前に見覚えあるかしら?!」
なんと麗しい踊り子の美女の正体はハンネだった
ショーが終わり 控え室で改めてチュー達は説教を食らう
「ホンッッッッッッと信じられない!!
アオはまだしもチューよ!? 師匠の声を忘れるの?!!」
「ごめんなさい…… ホントにごめんなさい……
しかしハンネ…… 何故に夢の世界で人間の姿なんだい?」
「憧れてたからよ…… 私だって女の子なの! 文句ある?」
「滅相もございません……」
類い希な美貌で素の怒り方を見るところ
仕立屋兼情報屋のハリネズミことハンネと認識せざるを得ない
ある意味チュー達の探し人でもあった情報屋を前に質問してみる
「ハンネはどれくらいこの夢の世界に?
僕達はカワセミ姫について聞きたいのだけど……」
「ミオお嬢さんでしょ? ご明察よ」
「やっぱり…… だとしたらあの演目は僕達に解るように……」
「さて…… 盲目のチューさんのお返しは?」
「お返し?」
「情報はギブアンドテイク…… いつまでも甘やかさないわよ?
私の得になる情報を下さいな」
「……情報ではないけど ラタトゥイユという頼もしい仲間がいる
そっちも単独で収集活動してくれているから それまでツケにしておいてくれないか?」
「フン……」
「それともう一つツケで質問があるんだがハンネ
君はレイツェルという魔女をご存じかい?」
「あぁ都市伝説の…… 名前だけなら有名よね」
「どうも彼女がこの世界と関わっているかもしれないんだ
ハンネは夢の世界で出逢ったりしていないかい?」
「魔女を見たことは無いけど レイツェルって客なら今この店で飲んでるわよ?」
「「 何だって?!! 」」
急いでチューとアオは店内へと戻った
それも灯台もと暗し さっきまでチュー達が座っていたカウンターの隣で
悠々快適にお酒を楽しんでいるではありませんか
「レイツェルさん!」
声を掛けるチュー しかしその音を掻き消す呼び声が掛かる
「こんなところで逢うなんて奇遇ね 私の熱狂的ファンさん」
そのネズミは夢の世界のミーナだった
「っ……」
「当然この前の晴れ舞台も見に来てくれてたのよね?」
「今は取り込み中なんだ…… 後にしてくれないか?」
その冷めたセリフに異を唱えたのは まさかのレイツェルだった
「せっかく愛しのオナゴが声を掛けているのに失礼な紳士だねぇ~
レディーにそんな塩対応で本当に良いのかい? 後悔しないのかい?」
「っ……」
ミーナはどこぞの知らぬ老婆にお礼を言う
すると目線は忽ちチューに そのキラキラした目は自分の拒否権を無くさせた
「実は私ね! 大きな舞台に出演させて貰えることになったの!
〝氷と炎の使い魔達〟 この国のお姫様が考えたのよね!
オーディションで大抜擢よ! あっ勿論地下街出身ってことは隠してるんだけどね!」
「そっ…… そうなのか……」
「それで夜まで暇なんだけどさ……
君はこの国の出身だったんだね 買い物したいんだけど付き合ってくれない?
舞台で花柄のワンピースを着てみたいから 試しに私服で欲しいんだ!!」
「……っ!!」
チューは思わずレイツェルを睨み付けた
「これがもし…… 貴女の意図的な悪意なら 僕は貴女を許さないですから」
「ヒェッヒェッ!! 何か勘違いされているのなら忠告しとくよ
ここは今 夢の世界だ 精々目が覚めるまで至福の一時を楽しみなされ!」
「くっ…… 貴女には聞きたいことが山ほどあるというのに……」
そんなチューの手を引っ張るミーナは
チューを連れ出して店の外へと飛び出していった
席を外そうとするレイツェル しかし自分の目の前にはアオとハンネが
逃げられないように彼女を囲んでいた
「知ってること…… 話して貰いましょうか?」
「逃げられねぇぞ……
アラートが流れている時の猫には言葉を選んだ方が身の為だぜ?」
「ほぅん…… 別に逃げようと思ったことは無いんだけどね~~」
レイツェルは棒椅子を回転させ 床に杖を突いてバランスを取る
どこまでも余裕を感じさせる彼女が語る一つ一つがハンネとアオの解釈を捻らせた
「ここは夢幻が収束する霊験あらたかな世界
子供はイマジネーションな未来を 大人はノスタルジックな過去を
君達はそれに完全に囚われてはいないようだね 言うなれば現在
それら三拍子が圧縮されて映し出されているのが夢の世界だ
これを創り出したのはアタシでも 誰でもない
判ることは 人が夢を見ることが自然なことのように
この世界も自然と必要とされて生まれた 生き物の拠り所なんだろうね」