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日が昇ったのかは 地下にいる以上は時間帯が分からない
仰向けのアオのお腹を摩るチューは ギラつく爪を華麗に回避して
支払いを済ましているラタトゥイユのもとへと階段を降りた
「一人と二匹で150ケツァルか…… 安すぎだな」
「おはようござまいさすラタトゥイユさん!
……どうかされましたか?」
「どうやらこの世界は一刻も早くクリアして欲しいと願っているようだ
ニャンダムの至る店ではボッタクリに近い値段だったのによ」
「お望み通り先に進みましょう!」
一行は客引きを華麗に躱して出口へとまっしぐら
似たような鉄柵の昇降機に乗り込もうとすると
アオが見知った奴に注目する
その少年は存在を無くすかのよう 壁と同化して蹲っている
「お前は確か…… ミオにフラれてたガキ!!」
「まだフラれてない!! コクってもない!!」
急に姿を消したと思えば ズルズルと少年の服を噛んで引き摺るアオに
いよいよ外道に走ったかと思わされるチューやラタトゥイユの目は冷めていた
「こいつがミオを落ち込ませた元凶だ」
「アオ君の知り合いなのかい?」
身の危険を感じてか 俊敏に起き上がる少年は
話すネズミと話す猫と厳つい剣闘士に圧倒されながらも口で反撃する
「お…… 俺を食っても美味しくねぇぞ!!」
「アオ君並みの悪ガキっぷりだね」
「誰がガキだ! 食うぞネズミ!」
ガミガミ言ってくるアオを一旦無視して
チューは少年に自己紹介を求めた
「俺はシルバー 〝シルバー・スケイズ〟
お前らはミオを知っているのか?
俺は…… あいつと同級生だ」
「それでフラれたんだよなぁ!! その年で随分とマセてるじゃねぇか?!」
「だからフラれてないって!!
……そうか お前らが噂の汚いネズミと猫か!?」
「「 ………… 」」
チューとアオは互いに目を合わせてニヤッと微笑んでいた
「フフッ……! ミオお嬢さんが不愉快になる訳だ」
「っ…… なんだよ」
「いやいや! 僕はチューと言います よろしく」
差し伸べられる小さな手に嫌悪感を抱きつつも握手に堪えるシルバー
チュー達のこれからの行動を伝えると 少年は一歩後ろに下がり
「俺は行かない…… こんな悪夢は覚めるまで隠れてなきゃ……」
「こんなに意識がハッキリしといて不思議と思わないのかい?
ここでやるべき事をやらない限りは夢から目覚めないと
それが僕達の見解なんですよ まぁあくまで憶測ですがね」
「そっか…… じゃぁおお……俺はもうしばらく隠れているよ」
竦んだ足をデタラメに前に押し出して 千鳥足で街中に消えるシルバー
二匹はそれを何と思えばいいのだろうという顔をして見送っていた
「万が一アイツがミオの恋人になったら 毎日試練を課せてやる」
「試練じゃなくて悪戯でしょ? 元とは言え
猫界のボスだったアオ君に目を付けられたシルバー君は可哀想だよ」
雑談も短めに切り上げ 一行はようやく地上へ
次第に大きくなる日の光が 次なる冒険へと誘うかのよう
ニャンダムとは規格外の都市国家に到着した
アオ「RPGっぽくなってきやがったぜぇ……!!」
チュー「ゲームのことはよく分からないけど…… なんかワクワクするね」
イタ「手始めに取るべき手段は情報収集だ
ラスボスがいるとするなら 救いを求める声がチラホラ聴こえてくる筈だからな」
道順が分からない時は酒場に転がり込むのが定石
チューとアオは指示通りに場末の店に聞き込みへ
別行動を宣言したラタトゥイユは独自で調査するとのこと
城下の住民達が賑わっている中での溶け込み切れていない二匹
チューとアオは異世界風に言うなれば異種族のモンスターだ
だけど誰も気にも留めない そんな世界にチューは思うところがあった
「現実の世界もこうだと良いのにな……」
「俺は今のままが良いぜ 頭使って媚びてれば人間共はただで餌をくれる」
「今はミオお嬢さんの餌にしか食いつかないけどね 可愛いよアオ君!」
小さい体を追いかける それより少し大きめの体は
川の石を避ける木の葉の様に人混みをすり抜けていき
チューは そしてアオも少なからず自由を感じていた
そんな二匹の目に入る とある看板の文字が足を止めた
「アオ君…… これって……」
「偶然か?」
それは大きな劇場が中にあるであろう建物に飾られた広告掲示板
〝 今宵 特別な空間に誘われるあなたへ
我々一同はその導き手となって夢の時間を過ごせることを約束しよう
【劇団ヒスイ:オリジナル公演】
演目 氷と炎の使い魔達 脚本 カワセミ姫 〟
それはチュー達に留まらず 周りの人達も話題にしていた
「まさか姫様が脚本を手掛けるとは……」
「どういった内容なんでしょう 楽しみだわぁ!!」
気を配れば王都中が劇の噂で持ちきり状態に
ただチューとアオには 演目の作品名に聞き覚えがあった
「まさかミオお嬢さんがカワセミ姫だったり?」
「……だとしたら危険が及ぶ前に合流してぇなぁ」
事態を重く見たチューとアオは路地裏へ
ラタトゥイユ曰く 人気が無く されど入れば人が集まっている酒場が良いそうだ
さっそく向かい側の小さなダンスホールがあるバーに立ち寄ってみる
キャンドルフォルダーがぶら下がっている ニャンダムの酒場とは違うオシャレな空間
寡黙にグラスを磨くマスターにお姫様のことについて聞こうとするが
「ウェルカム……」
「カワセミ姫のことを聞きたいんですが?」
「シッ! ……今夜の胡蝶蘭はあなた方にトキメいておられます」
「え??」