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街の入り口より少し手前
とある店の前で 手を振ってはペロペロ舐めているアオが待っていた
「よぉ! 一匹で突っ走りやがって 何か収穫はあったのかよ?」
「……特に何も無かったよ」
「ふんっ! こっちは大収穫だ 宿が取れたぜ!」
向きを変えて手をクイックイッと押し出す先には 宿屋と書かれた看板が
「すごいじゃないかアオ君…… でも夢の世界で寝るって」
「現実に戻れないってこともあるだろ
他人の夢と交わって さらに疲れを感じる以上 こっちでも寝て損はねぇぜ!」
「……フッ いつも君の機転には助けられますな アオ君」
「なんだよ気持ち悪ぃ…… まぁいいや ラタトゥイユが奢ってくれるってよ」
二匹は宿屋に入ってラタトゥイユと合流
人間一人 ネズミ一匹 猫一匹 一室取れただけでも広々と寛げた
落ち着いたところでラタトゥイユ主導のもと 話し合いが始まる
イタ「粗方この街を見渡して感づいているとは思うが……」
チュー「うん…… ここではあまり人間を見かけないですね」
イタ「これがどういう事か…… 誰もここに寄り付かないんだぜ?」
アオ「そりゃぁこの下水の臭いに加えて ネズミだらけの街は悪夢だろ」
チュー「アオ君にとってはホテルのバイキングだね!」
アオ「つくづく夢の世界だって思わされるぜ 猫一匹いるのに誰も動じねぇ
むしろ歓迎されてるんで調子狂っちまってるよ」
イタ「始まりの町ニャンダムでは子供から大人の姿が溢れかえっている
これは極めて深刻な問題だ」
チュー「……と言いますと?」
イタ「もしこの夢の世界にゲームで例える〝メインストーリー〟があるとすると?」
アオ「クリアしねぇと終われねぇな」
イタ「俺が君達をここに連れてきたのは そういうことだ
だけど肝心の子供達はニャンダム近辺で満足してしまっている」
チュー「ちゃんと皆が朝起きれるように 僕達でクリアしようってこと?」
イタ「あぁ! 皆が楽しんでいるのは結構なことだが
一生この世界から出られないことを自覚していない」
アオ「そもそもラスボスとかゴールラインがあるなんて 仮説の段階だろ?
なんで確信が持てるんだ?」
イタ「それは今日寝て朝起きれば分かる……」
チュー「……」
何かを察したチューはラタトゥイユに質問する
「あなたは…… いつからこの世界に?」
「行きは良い良い帰りは怖いってな…… 俺は何日もここにいる
閉じ込められていると言ってもいいな」
「夢の中に入るのは一瞬だけど 出ることは簡単じゃないんですね……」
「だから気付いたさ…… 誰かが前に進まないとってな……」
ラタトゥイユとチューの会話にアオが疑問を持ち始める
「だけどそんなに眠らされたんじゃ リアルの世界で騒がれるだろ?」
「時間の流れが違うんだと思うよアオ君 夢は一瞬って言うだろ?
それに加えて過去・現在・未来を この一つの世界で圧縮されているのだとしたら?」
「……その三拍子どっかで聞いたなぁ」
「なんだ? この不思議な出来事に心当たりがあるのか?」
それはチューとアオが夢の世界に来る理由を作った人物 というより猫
その魔女猫についてはチューが説明してくれた
「彼女レイツェルさんは元々存在するか分からない伝説の猫だったんだ
絵本になったりしてたんだよ だけど実際に見た者はいない
自慢気に語る奴もいたんだけど 踏み込んだ話になると曖昧になるのが不思議でね
今思うと記憶から薄れても仕方が無い夢の世界で出逢ったのなら辻褄が合う」
アオ「アイツが黒幕って線があるな…… 目的は見えてこねぇが……」
チュー「彼女がラスボスという存在なら どちらにしても前に進まないといけない訳だ」
イタ「よし!! 今日はここまでだ 疲れを取って明日に出発しよう!!
地下街を抜けて再び地上へ 目指すは王都【レイツェルフロンティア】!!」
アオ「そこに居るじゃねぇか絶対!!!!」
電球を暗くしても 地下街は夜通しで賑やかな雰囲気
こっちの世界のミーナから舞台に招待されていたチューは行かなかった
そう何度も会おうとは思えず 彼女の顔を見れば
〝あの日〟のことがフラッシュバックされて辛かったのだ
「そういえばアオ君」
「なんだチュー?」
「ニャンダムでミオお嬢さんを見かけたかい?」
「それに関しては早とちりだったかもしれねぇなぁ~」
「?」
「ミオの奴…… 元気無かったって言っただろ?
とても今はポジティブな夢を見るって条件は満たせねぇだろ」
「そっか…… でも遅かれ早かれを考えたら
ミオお嬢さんがこっちに来る前に解決した方が良さそうだよね」
「だな…… それが俺達がこの世界に来たメインストーリーだ」
「お休みアオ君 ミオお嬢さんに会えなくて残念だったね」
「ケッ!!」
二匹は安眠に至るまで啀み合っており
それを耳だけで聞いていたラタトゥイユも笑みを浮かべながら眠りに就いた
王都レイツェルフロンティア
白くて大きなお城を取り囲む広い城下町が活気に満ちている
川を渡るゴンドラの従業員に 城の高い窓から手を振る一人の少女
シンプルで可愛らしい純白のドレスに 翡翠のティアラが頭に飾られ
窓辺に座りながら国中を一望なされているのは この国の姫君
「カワセミ姫 ご要望通り近日行われる舞台の演目をリクエスト通りにしておきました」
「ありがとう執事さん!! ……劇団の方達には迷惑じゃなかったかな?」
「姫様直々のご命令ともあって 先方はやる気に満ちておられるように見えましたよ」
ーー……これでチューさん達に気付いて貰えるかな?
少女こそ 紛れもないミオだった