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〝 うつろう記憶は密集して塊まって
今まさに 真っ白な夢見の世界には着々と
座標を合わせたかのよう出迎えられ
影無き幼い心は真っ直ぐ入り口へと歩いている頃さ
夢を見なさいポジティブに 理想を想い描いてこその借宿さ 〟
来ては早々 不知火の如く魔女は常闇に消えた
その存在感は大きく されどその滾る様な猫には触れること叶わない
「……その夢の世界には僕達も行けるのかな?」
「考えてる暇はねぇだろ…… 得体の知れない場所にミオもいるかもしれねぇ……」
「そうだね! ……ポジティブにか」
そうと決まれば二匹は急いで身支度を調える 向かう先は夢の中なのに
パジャマではなく 普段着のチョッキを着て気を引き締め いざベッドの中へ
しかし勢いづいて布団に潜り込んでも中々寝付けないのが現実
鳩の鳴き声を何回か聴いて 天井を見つめているチューは考えていた
「ポジティブってことは…… あれがしたい これが欲しいってことなのかな……?」
横になれば身支度で散らかった自分の部屋が嫌でも目に入る
そこへ止まったのは 以前にミオから頂いた玩具のタンスだ
その一番下の段 滅多に手を付けない物が納められている箇所に注目する
「もう一度…… 会いたい人…… とかかな……」
その引き出しを開けて 取り出したのは黒ずんだ水色のチョッキだった
何を思ったのかそのチョッキを枕の下に敷き
何かを思い出していたしたチューは いつの間にか深い眠りに就いていた
ーーミーナ
〝 今日は…… うん! 汚していないみたいだね 〟
〝 そりゃぁそうさ!! ミーナが作ってくれた大事なチョッキだからね!! 〟
〝 ……ん? 今日のチュー なんか変?? 〟
〝 え? 変かい? さぁ今日はどこまで買い物に行こうか?
ミーナがずっと行きたかった中心地まで 花柄の布を探しに行こう!! 〟
〝 え?! 付き合ってくれるの?! でも人が多いから…… 〟
〝 おいおい僕は人の住む家に住処を構えてるんだ!!
経験上 人間の行動パターンは予習済み!!
だからさ…… ミーナには傷一つ負わせない自信があるよ!! 〟
〝 今日のチューは頼もしいわ!! かっこいい!! 〟
〝 ハッハッハッハ!! 僕は君のおかげで…… 〟
良い夢を見ていたチューが目覚めると
いつものベッドの上ではなく 雄大な平原の上に倒れていた
「……君のおかげで ……変われたんだ」
立ち上がるチューの周りには誰もいない
少し寝ぼけていたが 急に見慣れない景色に放り出されたことで
置かれている状況を思い出す
「ここが夢の世界 本当に来れたとなると もう少し魔女さんから情報が欲しかったな」
見渡す限りの原っぱ その景色に浮いている遠方にある小さな町を発見
取り敢えず遠目でもしっかり確認しようと目を擦ると
「あそこに向かうしかないか ……アオ君とは合流したいし」
草原を駆けるチューは休憩も挟まずに町へと辿り着く
そこには剣を携えたり 杖を持って歩く住民の姿が確認された
大人もそうだが 気になるのは近くにいる子供達の会話
「おい! 今度は北の山にモンスターが出たらしい! 行ってみようぜ!」
「待ってよぉ~!」
大人だけでなく子供もモンスターを狩る世界なのかと
立て付けが粗い板の隙間から覗いているチューは
とにかく情報が欲しいということで 近くの酒場に注目した
「らっしゃぁい……」
酒場の入り口によくあるウエスタンドアを引く なんてことは身長的に無理だったが
カウンターに飛び移って話しかける自分に 返してくれるバーテンダーを見て安堵する
「この町のことを知りたい」
「ここは始まりの町【ニャンダム】
駆け出しの冒険者には色々初歩を学べる絶好の場所だ」
「ほぅほぅ…… 他には何か?」
「ここは始まりの町【ニャンダム】
駆け出しの冒険者には色々初歩を学べる絶好の場所だ」
「ん?」
何度質問をしても同じ答えが返ってくる
ネズミとロボットのような人間のやり取りが右往左往していると
奥のテーブルから知った声が聞こえてきた
「そいつに何聞いたって同じ事しか言わなねぇぜ! チュー!」
「アオ君……! なんだいその皿の上に山盛りの焼き魚は?」
「良い夢を見ろってあの婆猫が言ってただろ?
一度で良いからこれだけの量を腹に収めたかったんだ
どうせ現実じゃぁ これだけ一度に食ったら死んじまうからなぁ」
「君の食い意地のグレードがここまでなのは初耳だったよ」
アオがバーテンダーの方を指差すと 猫らしからぬ知識が披露された
「あれはゲームでいうNPCって奴だな
あの手の人間…… というよりキャラクターはワンパターンの台詞以外はしゃべらねぇ」
「随分と詳しいじゃないかアオ君」
「塀で寝てると 窓越しの茶の間でゲームしている子供が目に付くんだよ
何が楽しいのか動物の俺らには皆目見当もつかねぇが これから味わえるんだろうな」
「君から説明を受けることになるとはビックリだね」
「ついでにこの夢の世界をよく知る人物を見つけてやったぜ」
アオの鳴き声と共に現れるは 額に傷跡を残す歴戦の剣闘士だった
寡黙そうで口を開くのかどうか怪しいが
アオの呼びかけに対して 即座に近付いてくる部分に関しては信頼が高まる
「紹介するぜ 俺も来てすぐ仲良くなった〝ラタトゥイユ・イタ・スキャバーズ〟だ」
「……よろしくな相棒」
「初めまして! 僕はチューと言います
これからの事含めてよろしくお願いします ラタトゥイユさん!」
握手を求めるチューに何の迷いもなく指を差し出す歴戦の剣闘士
交わされる友好関係はテンポ良く事を運んだ
ラタトゥイユは酒樽を持ち上げ 二匹との出逢いを大いに歓迎した
「アオさんから粗方の事情は訊いている 黙って俺に付いて来い!!」