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【連載版】鳩時計の裏っ側 二次  作者: 滝翔
第一弾 氷と炎の使い魔達
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「ホルッホルゥ!!」


12回目のハトの鳴き声で目を覚ます時計の裏側に住むネズミ

名前はチューと言います

彼はネズミでありながらオシャレさん


「さて! 今日も食料調達をさせて頂きますか」


パジャマからチョッキのベストに着替え

大きなリュックを背負い 手袋とくつく 

ロープとナイフを腰にくくりつけて ようやく準備オッケーだそうです


「キャベツ一枚 きゅうり一切れに…… この前は戸棚にチーズも見かけたが……」


かじって作ったお手製の扉を開くとガラガラうるさい時計の内部へと足を踏み入れる

人間のすごさを思い知らされる歯車の組み合わせ

そんな内部構造を階段の様に登るチューはハトのいる部屋へとお邪魔しました


「やぁホワイトレディー!! 調子はいかがかな?

ちなみにこのチョッキのベスト 最近気に入って私の中でベストファッションなんだ

ベストなだけにね!」


「………………」


「……うん! 失礼するよ こんな冗談が言えることを神に感謝!!」


彼女はチューに対していつもドライのようだ

されど決まった時間にその歌声を聞かせてくれる彼女はとても仕事熱心と言えるだろう


ーー結婚するならあなたみたいなお人を選ばせて欲しい


彼女のステージドアから出てきたチューはロープで下まで降り

いつも通り目に見える物 全てを大きいで括れる家内をチューは素早く移動する


キッチンに辿り着いた彼は ネズミのごとく引き出しをあさ

シンクの端に溜まる食べやすくされている細々とカットされた野菜を拾って

イソイソとリュックに詰め込めるだけ押し込んだら即退散そくたいさん これが鉄則てっそく


ーーなにせネズミ一匹いただけで見せる人間の反応と来たら…… だけど


「あ…… チューさんだぁ おはよう」


ネズミに話しかけるこの少女はこの家の一人娘だ 名前はミオ

夜中によく起きてくることが多々あり 初対面も発見される形でチューと出会う


「今夜も食料を訪ねて三千里さんぜんりですか?」


「私の歩幅で三千里はいささか厳しいですよミオお嬢さん」


「フフフ!!」


フリフリが何段にも咲いているルームウェアのワンピースを着ているミオはイスを持ってきて

戸棚の前に置いたかと思えば 引き戸を開けて目に見えるチーズが乗った皿を持ってきた


「はいどうぞ!!」


「……ジュルリ」


「絵本で読んだの ネズミはチーズが好物って書いてあったから

チューさんも喜ぶかもと思ってとっておきました」



ーーこの子は天使であったか



「ありがたく頂戴ちょうだいしましょう! 夜も遅いので今日はこの辺でお開きですね」


「うん! 私もチューさんにチーズ渡したくて起きてたの」


「泣かせてもらおうじゃないか 枕をらして 良い夢が見れそうだ」


「それじゃぁお休みなさいチューさん 最近はアオを抱いて寝るのが楽しみなの」


「ほほう…… それではまた明日 大事な約束は忘れてませんよ」


「うん!」


チューは鳩時計の裏っ側へと帰っていき ハーブティーをお供に一時を過ごし

昼に起きるように布団の中へと潜っていった




一回りして12回目のハトの鳴き声は響き渡る


「ホルッホルゥ!!」


「おっと…… もうそんな時間ですか」


いつも通りの身支度を調ととのえて外に出るチューは器用に階段を登ってミオの部屋へと出向いた


「おはようリトルレディー」


「おはようチューさん ちゃんと起きれたんだね」


「レディーとの約束は優先してますので」


差し出されたミオの両手に乗るチューはエレベーター気分でベッドに到着した


「うん…… いつにも増してフカフカなベッドだ この地を天国と呼びたいんだが……」


くつろぐチューだが今この至福の一時をもう一匹の大きな生き物とシェアしていることを無視できない


「やぁアオ君 昨日はミオお嬢さんが羨ましいことをしていたようだね」


「気色悪いな!! 俺は地獄だったよ!!」


「ほう…… 地獄なのに一夜を共にできるなんて 君はなんて忍耐の強いネコちゃんなんだ」


「うるせぇ!!」


フカフカの天国でいつも通りのケンカが勃発ぼっぱつ

しかし今日はミオの為に来ているチュー なので今から始まることにケンカしてる場合ではない


「はい! 今日のお人形さんの衣装が決まりました 始めますよ~」


「とういうことだアオ君 休戦協定が強いられるな」


「ケッ!!」


チューはミオに見つかった日から度々お人形さん遊びに付き合わされている

見つかったことを親に言わないで欲しいという口約束から始まったお付き合いだが

お人形の衣装の生地を貰える欲となんだかんだで楽しい気持ちがあり 今では後者が正直のようだ


「キャーー!! 助けてコオリの騎士ナイト様ーー!!」


おっと何かが既に始まっているようだ


「ミオお嬢さん どうされました?」


「私じゃなくて困ってるのはお人形さんなの!! キャー! 助けてチュー様ーー!」


「了解した してどうされましたかな?」


「ホノオの怪物アオに食べられてしまいますー! 助けてーー!」


「炎の…… 怪物ねぇ……」


チラッとこちらを仏頂面で睨んでいるアオに思わず吹いてしまった


「何か言いたげだなネズミ野郎……」


「すごく似合ってるじゃないかアオ君! 君らしい役だと僕は思うよ」


「シャァァァ!!!!」


ケンカ再び しかし物語の設定上ミオは大喜び


「食ってやる!!」


「なんですと?! ちょっとアオ君! 本気にならないで」


あまり見ることのないネコの鋭い牙がチューに迫る

毎度のことで慣れたチューは もちろんかわすことは容易い


「頑張ってコオリの騎士様~~!!」


ミオさんもご満悦まんえつの様子

ちなみに激しく荒立てて親に見つからないのかという心配については問題ない

ミオの父親は仕事で母親は買い物中だ

母親が帰ってくるまでの大人が知らない戦いが今 繰り広げられているのだ


「観念しろクール振ってる氷のネズミ野郎!!」


「それはどうかな炎の怪物さん…… ププッ……」


「……しっかり笑いやがったなてめぇ!!」


机に登るチューに大ジャンプで襲いかかるアオ

ベッドを通ってカーテンに逃げるネズミにネコは待った無し

しかしカーテンに誘ってこそ チューが勝機を確信する作戦だった


飛びかかって来たアオはカーテンに爪を引っかけて身動きが取れなくなってしまったのだ



「チューさんが勝ったぁ!!」



「クソッ…… こんなネズミ一匹」


「まだまだだねアオ君 〝窮鼠きゅうそ、猫を吊す〟とはまさにこのことさ」


「夜になったら覚えていろよ」


「…………そうじゃないだろアオ君」


チューとアオは人形の両手を上げてバンザイ三唱しているミオの笑顔を見つめていた


「私達の主が楽しんでくれているんだ これがベストって奴じゃないのかい?」


「……俺はまだ小娘を飼い主だと認めたわけじゃねぇからな」


「素直じゃないよねぇ~~」


ミオによってカーテンからずり降ろされたアオはベッドの上で大人しく丸まる


「いやぁしかし いつものオママゴトじゃなかったのは驚きでしたよミオお嬢さん」


「最近面白い絵本見つけたの!! 【コオリとホノオのつかいまたち】って名前なんだけどね

ある国のお姫様が〝ホノオの怪物〟に連れ去られてしまったの

国中の兵隊さん達がその怪物からお姫様を助けようとするんだけど勝てずに追い返されたんだって

悲しむ王様だったんだけど そこに現れたのが怪物を追っ払える怪物だったの

もう一匹は〝コオリの怪物〟と呼ばれて 見事ホノオの怪物を倒したんだって」


「ほぉ…… 主人公が人でないという所が興味深い話ですな」


「だけどその国はお姫様を助けてくれたコオリの怪物に報酬ほうしゅうを渡すことなく

酷いことに国中から差別されて追い出されちゃったんです

コオリの怪物はただ何も言わず国から出て行こうとすると 門の前に変装したお姫様が

お姫様はすれ違うコオリの怪物を引き止め こう言いました

〝この国はあなたに感謝していませんでした 感謝していたのは私だけだったようです〟」


「「 ………… 」」


チューとアオはただマジマジと聞いていた


「こうしてお姫様はコオリの怪物を自分の使い魔にすることを提案しました

人知れず影で繋がった友情 改心したホノオの怪物をも仲間にするお姫様は女王になった後も

一人と二匹の特別な時間を この間柄あいだがらでしか話せない秘密を唯一の楽しみとして幸せになりましたとさ」


小さな手とモフモフの手から拍手が送られた

ハッと我に返ったアオはそっぽを向くがチューは思わず感想を言う


「コオリの怪物のむくわれない話かと思えば 実はお姫様の心の強さが描かれたお話なんですね」


「そう! 私でも弱い人を助けられる人になれたらなって思うの!」


「……素晴らしいと思います」


目を閉じて人としての強さを希む彼女にチューはふと笑顔になっている


「ではそろろそママさんが帰ってくる時間ですので私はこれで」


「うん! ありがとうチューさん!」


「アオ君もまたお会いしましょうね!」


「次会うときはてめぇは俺の胃袋の中だ そして吐き戻してやる」



「ハハ……! お手柔らかに」



チューは鳩時計の裏側へと入っていく

外の世界は ミオが住むこの家はイベントが尽きない毎日だ



「そうか…… ミオお嬢さんはああいう子なのか……」



〝 なにしてるの? 〟


〝 初めましてリトルレディ 僕はチューと申します 以後お見知り置きを 〟


〝 私はミオ ねぇチュー チューはここでなにをしているの? 〟


〝 ミオお嬢さんだね 僕はちょっと冒険をしているんだよ

 この大きな世界で誰にも気付かれず目的を果たす それが冒険さ 〟


〝 私に見つかったわ 〟


〝 そうだね だからお願いがあるんだミオお嬢さん

僕のことは君のご両親には黙っておいてくれないかい? 〟


〝 じゃあ 私と遊んでくれる? 〟


〝 いいともいいとも 〟


〝 じゃあ黙っててあげる 〟



ーー今日も今日とて…… 良い夢が見れそうだ



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