シュレディンガーの猫
「ねえ、『シュレディンガーの猫』って聞いたことある?」
タクミは落ち着いた口調で質問して、ミナの話をさえぎった。
「箱の中に、猫と、50%の確率で放射線を出す放射性物質と
放射線を感知すると毒ガスを出す装置を一緒に入れて観測する
有名な量子力学の思考実験なんだけど……」
ミナの目を見つめながら真面目な表情で続ける。
「その実験ではね、箱を開けるまでは、
猫が生きている状態と死んでいる状態が重なりあって存在していて、
箱を開けることで、どちらかの状態に収束するんだよ」
そこまで言って、ミナが手に持つスマホに目を落とした。
「だから、あり得ないような話に思うかもしれないけど、
ある意味、ミナが僕のLINEをこっそり見ることで、
浮気をしたという状態に収束したとも言えるんじゃないかな。」
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「一回、死んで。」