シーン10
改めて向かい合う四季と晴夜、どのくらい無言で見つめあっていたのだろうか……。
「これで本当にお別れだね……晴夜くん」
少し寂しそうな声で言う四季に、「ああ……」と頷く彼もまた同様だった。
「……あーそれで……えっと……」
直後に、小声になってもじもじとし始めた晴夜を四季は奇妙に思ったが、この期に及んで怖気づいたという風にも見えない。 何気なく少女らへと視線を移せば、彼女らまた妙な風である。
何やら小声で言い合っている春香と立夏の表情は、何か企んでいるように見え。
少し興奮した様子の千秋は、まるでスポーツ観戦でもしているかのようであり。
冬子はそんな妹達の様子に肩を竦めながらも、弟を応援でもするかのような視線を向けていた。
そんな事に気を取られていた四季は、いつの間にか婚約者の少年がすぐ目の前に迫っていたのにギョッとなって、「せ、晴夜君……?」と思わず後退りしそうになってしまった。
「俺……四季の事を絶対に忘れないから……」
「せい……」
驚きの声を最後まで言えなかったのは、彼女の唇が塞がれてしまったからだ。
「うわ……強引に言ったねぇ……」
「晴夜君らしい……のかな?」
「晴夜兄ぃもやれば出来るじゃん」
「……とは言え、もう少しはムードというものもあろうに……」
いきなりの事態に頭が真っ白になった四季は、幼なじみ達のそんな事を言うのを聞いた。 そして自分がどういう状況にあるのかを自覚したと同時に、唇に触れていた感触が消えた。
「…………あ……」
思わず見つめた少年の顔は、耳まで真っ赤であった。 彼の照れた表情と言うのは記憶にはあったが、ここまでのものは初めてな気がした。
「これは……その……約束の印だ……俺の……その……ファースト・キスの相手は四季だから……」
まだ恥ずかしそうにしながらも、晴夜はしっかりと婚約者の目を見つめて言う。
実のところこれは立夏の提案であるのだが、正直に白状するのは男としてみっともなく思え、黙っておこうと決めていた。
もっとも、四季は少女らの誰かの入れ知恵だろうとは分っていた。 しかし、それも彼らしいと思えるし、彼女ららしいと思う。
そんな幼なじみともっと一緒にいたいという想いを、四季は振り払う。 自分は四季であって四季でない、星空 四季という少女の想いを彼に伝えるためにこの世界に残った、彼女のカケラのような存在なのだから。
「うん……ありがとう晴夜くん」
だから笑顔を返した四季は、晴夜が落ち着くのを待ってから、「じゃあ、今度こそね?」と言った。
「ああ……」
晴夜はそれに頷く。
躊躇いがないと言えば嘘になる、本音を言ってしまえばこのまま四季と一緒にいたいとさえ思う。 だがそれが許されないのも分かってしまっていれば、せめて四季の婚約者に相応しい態度でいようと思うだ。
「……俺は……星空 四季との……」
「僕は……晴夜くんとの……」
二人ともそこで区切り、そして頷きあうと再び言葉を紡いだ……。
「「婚約を破棄します」」




