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シーン8


 時計を見れば、約束の十二時が迫ってきていたが、晴夜は未だに答えを出せないでいた。 いっそサイコロなり鉛筆でも転がして決められればと、そんな考えすら浮かんでくる。

「誰か教えてくれよ……俺は……どうしたらいいんだよ……?」

 情けない声を出したという自覚はあった、それでも答えを教えてほしかった。

 春香も立夏も、もちろん千秋も何も言わない……言う事が出来ない。

 沈黙が支配し始めた部屋に、「晴夜、入るぞ?」と聞こえた女性の声は、彼には救いの声にも聞こえた。 全員の視線が集中した扉が開き、姿を現した冬子。

「冬子……姉さん?」

「その顔……やはりまだ答えは出ていないか……」

 晴夜が「……ごめん」と謝ると、「いや、当然な事だよ」と肩を竦める冬子だ。

「こんな問題、大の大人だって簡単に答えをだせはしないさ。 ましてや、こんな短時間ではな」

 エターナの方が無茶を言っているのは明らかなのだが、晴夜にしてみれば自分が不甲斐ない男だと考えてしまっている。 彼女に悪意があるようには思えないのだが、物事に対する感覚というものが自分達とズレているように思えた。

「いや……違うか……」

「違う……?」

 怪訝な顔になる冬子に、「ああ、こいつにはもう正解は分かっているんじゃないか?」

 晴夜が驚きの表情になり、女の子三人は顔を見合わせる。

 実のところカマをかけてみたようなものだったのだが、反応を見るに当たっていたようだと分かる。

「だが、正解と分かったところで正解を選択出来るとは限らない……テストの答案のようにいくものではないさ、人間の生き方というものはな」

 唖然となり姉を見つめながら、彼女が大人であり教師であるのだという事を思い出していた。 そして半ば無意識に「姉さん、俺はどうしたらいい?」と聞いていた。

 冬子はすぐに口を開かずに弟の顔を見つめている、その表情には彼を気遣うような優しさはっても、決して情けないと蔑むようなものは感じられない。

「晴夜……春香達も聞いてくれ、四季の最後の願いを……」

「四季の最後の願い……?」

 冬子は頷くと、ゆっくりと口を動かし始める……。



     ――晴夜くん、幸せに生きて……そして僕の事を忘れないで――

 

  

 驚きに目を見開き硬直した晴夜だったが、やがて勢いよく立ち上がり「そういう事かよ……」と顔を向けた先にあったのは壁であるが、冬子にはその更に先にいるであろう少女を見ていると分かる。

彼の中にいる四季は、決して嫉妬や独占欲という負の感情だけであるのではないのだろう。 婚約者である少年の幸せを願いつつも、その幸せのうちに自分の事を忘れ去られてしまうとう怖さのもあったのだろう。

「冬子姉さん。 俺、行ってくるよ」

 力強い声を出す弟分に満足しながらも、まだ伝えなければいけない事があるので静止した。

「晴夜、お前の事も大事だがな、春香にもきちんとケジメを付けさせてやってはくれないか?」

「……え? 私?」

 いきなり名前を出されて驚く春香。

「私達の中ではもう終わった話ではあるが、やはり本人が現れてしまってはな……そうもいかない様子なのでな?」

「それは……」

 春香は分かったようだが、晴夜達はまだ何の事か分からずにキョトンとしている。 冬子はどうしたものかと言う風に肩を竦めた後に、「春香が四季に謝らなければいけない事があるという事だよ」と説明した。

 それで全員が理解した。

「でも……今は晴夜君と四季ちゃんの事だし……」

「いや、春香と四季にとって大事な事じゃないか?」

 どんな形であれ死者と再会してケジメを付ける機会が訪れるなんて奇跡だ、二度とこんな機会はないだろう。 確かに一度は決着を付けた問題ではあるが、確かに本人に謝れるならそれが一番だ。

 そして、この機会を逃せば、春香はずっと後悔し続けるだろう。

「四季にとって大事なのは俺だけじゃない……春香も立夏も千秋も、冬子姉さんだって大事な仲間なはずだ」

 それでもまだ迷っていた春香は仲間達見渡せば、みんなが力強くうなずく。

「うん……ありがとう、晴夜君……みんな……」

「春香の方はこれで良しとしてだ……」

 冬子の表情が悪戯っぽい笑いに変わったのに、妙に嫌な予感を感じた。

「あー……この際というのもあれだがな? 最後くらい婚約……いや、彼氏いらしい事をしてやったらどうだ、晴夜」

「それって……?」

 まだ分かってなそうな様子に、鈍感と呆れると同時にそれもまた晴夜らしいのかもとも思える。

「それはな……」

       

 

 

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