シーン7
自分の気持ちを伝えてしまおうかとう誘惑を、春香は振り払う。
そうすれば晴夜が自分との未来を選んでくれる可能性もあるという期待はしないでもなくても、それはとても卑怯な事に思えたからだ。 目の前の少年に恋心を抱いていても、彼の婚約者である少女もまた春香にとって大事な友達なのだ。
この状況で二人の間に割って入るなど出来ようはずもない。
ちらりと立夏を見れば、同じことを考えているもだろうとは、彼女の迷いの表情で明らかだった。
「そもそも……俺は四季に好意を持ってもらえるような男なんだろうか?」
「せーや!」
「晴夜君っ!!」
立夏と春香の怒声に、晴夜は唖然となった。 ずっと一緒にいた少女達だったが、こんな声は初めて聞いたように思う。
「それは言っちゃだめだよ晴夜君!」
「せーやは四季ちゃんが好きになった男の子なんだよ、そのせーやが自分には価値がないなんて……四季ちゃんに失礼だよっ!」
それは間違いなく本心であるが、何よりも自分が好きになった男の子だった故の感情の爆発であったのだろう。 もしも、晴夜の考えを肯定すれば、あるいは晴夜は四季に相応しくないのだから、もう四季の心を開放してあげようというやり方もできたのかも知れない。
しかし、自分達にとっても四季にとっても大事な男の子の価値をそのために否定するような事は出来るはずもない。
そんな二人の心は知る由もないが、勢いに押されたかのように「ご、ごめん……」と晴夜は謝っていた。
四季はふと思う、エターナがその気になれば”もう一人の四季”を誰にも知られないように消滅させる事は可能だったのではないかとだ。 そうすればこんなややこしい事にはならず、晴夜は自分の願いを受け入れてくれたと思うのだ。
そして、その疑問を言葉にして伝えてみる。
「出来たかも知れませんね……まあ、ご主人様はそういう事はしませんけどね、よくも悪くもですが」
主人より先に答えたアインは、最後のあたりでは苦笑を浮かべていた。
「良くも悪くもって……まーアインの言う通りなんだけどさ……誰かを好きだって心、それは絶対になかった事になんてしちゃいけないよ。 晴夜が四季の願いを拒絶するにしても、しっかり心は受け止めなきゃいけない」
それも前へと進むためには必要な事なのかなと考える、星空 四季という少女の願いに対して晴夜自身が答えを出さないといけないという事なのだろう。
「これか先の未来、晴夜が誰かと恋人になって、その誰かとも別れがあって、また新しい誰かと恋人同士になってもね、あなたが晴夜の”最初の婚約者”である事は永遠に変わらない」
「……?」
「晴夜も春香も立夏も千秋も……それに冬子、あなたもでしょう?」
不意に話を振られた冬子は驚きながらも、すぐにその意味を考えてみて、はっとした表情をした。
「もちろんです。 私達がもみな、四季の事を忘れるなんてありえない」
いったい何を言っているのだろうと四季は首を傾げた、元よりみんなが自分の事を忘れるとは考えていないからだ。
「四季……お前は怖がったんだな……晴夜が他の子と結ばれてしまえば、自分が晴夜にとって必要な存在でなくなる事を、私達の幸せな中から星空 四季という存在がいなくなってしまうのをだ」
「それって……」
「そうしないためにはずっと晴夜と共にいるしかない……独占欲や嫉妬だけではないのですよ」
大人達が何を言いたいのかをようやく四季は理解した、そして自分の、自分達の、星空 四季の本当の望みをだ。 それを晴夜に伝えなければいけないのだが、自分で行くわけにもいかない、もしも四季を知っている人物に遭遇でもしたら騒ぎになってしまうからだ。
「冬子さん、お願いしていい?」
「ああ、お前の頼みを断るわけないだろう?」




