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シーン4


「死してなおこの世界に留まってでも晴夜と共にあろうとした四季の想いの強さは分かると思う。 でもね、四季の願いはそれだけじゃない……」

左腕を下すと、四季を見つめた。 一瞬戸惑った四季だが、その意味に気が付き一歩前に進み出る。

 それと同時に不気味な寒気を感じた晴夜が、思わず身震いし「……何だ?」と呟いたのに、その場の視線が集まった。

「どうしたの晴夜君?」

「いや……妙な寒気が……」

 アインが「ご主人様、これは……」と尋ねると、主人である魔女は「まーそうくるよねぇ……」と肩を竦めてみせる。

「晴夜の中の四季の抵抗だね。 彼女にしてみたら今のこの流れは面白いはずはないもんね?」

 エターナの補助を受けている四季とは違い、その四季の方は意思はってもそこに人格と呼べるレベルのものはない。 晴夜はもちろんの事、他者に物理的な害を為すような力もない。 

 しかし、悪夢を見せたりのような精神的な影響を与える事は出来るだろうと説明する。

「だから心配しないでいいよ。 寒気や不快感は続くと思うけど我慢しなさい、あんたは男の子なんだからね」

 本当に大丈夫なのかという不安はないでもなかったが、幼なじみの女の子達の前では、文句を言うのもみっともないと思わせるような言い方に、晴夜は少し渋々という風に頷くしかなかった。

「よし! んじゃ……四季?」

「は、はい……」

 幼なじみの男の子を心配そうに見ていたが、やがて意を決し、力強い瞳で彼を見据える。

「僕は晴夜に幸せになってほしい、それが例え僕以外の女の子とだとしても……」

 死の間際、晴夜が誰とも恋人にならずに生きる未来を視た事を告げる。 それが決して幸せな光景に見えなかったともだった。

「だから僕はこうしてここにいる……晴夜くんを僕のせいで不幸にしないためにね……」

 四季の視た未来は間違っていないと思う晴夜、彼女の力の信憑性ではなく、自分の未来はそうなるのだろうという漠然とした思いはあったからだ。

「だけど! お前が死んだのは俺のせいなんだ……あの日、俺が遅刻なんてしなかったら……」

 四季という一人の少女の未来を奪ったのは自分なのだから、そうなってもそれは当然の報いなのだと思う。 ”婚約者”という約束を守り続ける事だけが自分に出来る償いなのだろう。

「それはちが……」

 四季が何かを言いかけ、そして何かを迷っているように考え込んだ。 どうしたのだろうかと思っていると、「……ふむ?」とアインの声を聴いた。

「晴夜、その時はたまたま四季の方が跳び出したに過ぎないのですよ。 もしかしたらあなたの方が道路に跳び出して車に轢かれていたも知れません」

「それはそうかもだけど……」

「その場合、あなたは四季を恨むのですか? 四季が誰とも恋人にならずに生きていけと望むのですか?」

 それはアインの助け舟だと四季には分かった。 もしも、彼を死なさないために自分から跳び出したと知ったなら、きっと余計に自分が悪いのだと思ってしまうだろう。

 だから言い出せなかったのを、この黒猫のヒトは察してくれたと分かる。 

「そんな事はないよ!」

 力強く答えた晴夜に、「慌てないの」とエターナ。

「感情や勢いじゃない、ちゃんと心と向き合って答えなさい。 はい、深呼吸!」

「何で……?」

 不満に思いながらも言われたとおりにして心を落ち着かせ、もう一度考える。

 先ほどの答えは決して嘘ではない……が、四季が自分以外の男の付き合っているという光景を想像してみて、そこに引っかかるものを感じた。

 その光景の中の四季は幸せそうで、その彼女に笑顔を向ける男も同様だ。 それでいいのだと納得しつつも、針で刺されたような痛みを胸に感じた。

 その痛みの正体を理解するのはすぐ出来ても、認めるには少しの抵抗があった。

「……少し……少しだけ……思う……」

「でしょう?」

 晴夜が四季を恨むはずない、彼女に自分以外の恋人が出来てほしくないという事なのだろうとは、全員が分かった。 

「少しイジワル過ぎですよ、ご主人様?」

 そんな声に現実に戻り顔を上げると、「あははは……」と肩を竦めるエターナ㋾見た。

「誰にだって嫉妬や独占欲という負の感情はあります。 四季にしろ晴夜にしろ、それがニンゲンというものですからね?」

 後半は晴夜に向かって言うアインだ。

 エターナの場合はイジワルではなく、中途半端な答え方が嫌なだけなのだろうが、反応からするにイジワルな言い方という自覚はあったようだ。 

 ちらりと四季を見やると、少し安堵しているようにも見えた。 晴夜が自分の不幸を願うのではなく、嫉妬してくれるくらいに好きでいてくれていると思うのだろう。

 その後に春香と立夏へと視線を移すと、自分の胸に手を当てて何かに怯えている様子だった。 自分達が同じ状況になった時を想像してみて、その答えにゾッとなったのだろうと想像できた。

「……四季の望みは晴夜の幸せか、どう答えるんだ?」

「どうって言ったって……」

 冬子に問われて答えに困る晴夜。 婚約者が何をしたいのかは分かるし、そうする事が正しいのだとも理解出来るのだが、それをするという事が自分にとって大事なものを失うという事を意味するという怖さを覚えているのだ。

 彼女が自分を責めず、未来の幸福を願っていると知っても、婚約の約束は二人の間にある大事な絆である。 例え自らのうちにあるのが少女の負の感情だとしても、それは紛れもなくこの世界に残された少女の心なのである。

 それらを失うという事を、晴夜は酷く怖い事だと感じたのだ。

「……今、答えないといけないのか……?」

 せめて、考える時間がほしい。 いきなり魔法だのなんだとと言われ、二度と会う事のない少女と再会させられ、そのうえこの場で何かを決断しろだなんて無理な要求過ぎる。

「そうだねぇ……ずるずると引き延ばしていいものじゃないよ? 男の子ならパッと決めてほしいなぁ?」

 今晩のおかずでも決めるかのような気軽さに、「それにしても急ぎすぎでしょう?」と冬子が抗議する。

「それもそうですね、今の彼には少し時間が必要だと思いますご主人様?」

 考えても答えが出なかったり、どんな答えを出しても後悔するならばその場の勢いででも決めてしまうのもいいと思う。 しかし、そうではなくアインから見れば出すべき答えなどとうに決まっている問題であっても、その答えにたどり着くには、他の選択肢を迷いなく捨てるには晴夜はまだ幼すぎるだろう。

 しばし考え込んだエターナは、「アインが言うなら、そうなんだね」と頷き、そして天を指さした。 釣られて視線が集中した先には、ただ青い色が広がっているだけだ。

「あそこにお日様がくるまで待ってあげるよ」

「南の空……正午までというわけですか……」

 腕時計で確認するとだいたい三時間くらいだ。 とても十分とは思えないのだが、ならばどの位なら良いのかというのも冬子にも分からない。

「……それでいいか、晴夜?」

「……嫌だ……とは言えないと思う」

 不満ではある、しかし相手が譲歩したのに自分がこれ以上駄々をこねるのもみっともないと思え拒否も出来ないというところだろう。

「まあ……それでいいよ」

 肩を竦めながら言うエターナも、おそらく同じことを考えているように思えた。 

「……それなら……ううん、やっぱ駄目だよね……」

 小さく呟いた声に冬子は気が付いたが、「じゃあ、いったん解散ね?」というエターナに尋ねるタイミングを逃していた。

 


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