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シーン3


 エターナがそこにやって来たのは本当に偶然だった、 彼女やアインが生きる世界は晴夜達が生きるこの世界とは別の次元にある。 そんな場所から遊び気分でやってこれるのがエターナであり、実際にこの日も行ったことのない場所を散歩したいという気まぐれでやって来ていた。

 ファンタジックな白い服を纏い、太陽光に輝く銀髪の上に黒い毛の猫を乗っけて歩く姿は、普通に考えれば目立ち通行人の注目の的だろう。 しかし、この世界のニンゲンには”視えない”ため誰一人として二人を気にする者はいない。

 不意に足を止めて、「……誰かいるねぇ……」と呟くエターナ。

「……はい?」

 主人の見つめる先は車道を挟んだ反対の歩道だ、そこには人影はない。 何者かが姿を消し潜んでいるのかと思い気配を探るがやはり何も感じない、魔法こそ苦手だが戦士としては優れた感覚のアインは、しかし主人の言葉は疑わない。

「この妙な感じは……やってみるかぁ……」

 目を閉じ精神を集中させ、意識を”誰か”に向けて心で語りかけてみる。 それ魔法を使ったわけではないが、ある種の魔法めいた現象の域に達しているのは、魔法の力を操る者としての能力の高さ故だろう。

 アスファルトの上に降りてエターナの様子を見守っていたアインは、しばらくして目を開き自分を見下ろしてきた顔を見返し「……どうです?」と問う。

「……ホシゾラ シキ、女の子だよ」



 そのままではいつ消滅してもおかしくなかった四季を、エターナはアインの許諾を得て彼女の中に入れると事情を聞いた。

 四季はこの場所で事故死した事、それは自分の能力で視えてしまった大好きな男の子の死を回避する為であった事、その後にどういうわけか今の状態になってしまったのだと話した。

「四季には力があったの、未来を視る力がね」

 それは言葉の通りではあるが、おそらく晴夜達が想像する程に大仰で便利ではない、 自分の意志とは無関係に断片的な未来を視させられるという方が正確だ。 

「それって……四季ちゃんも魔法を使えるってことなの?」

「そう考えていいよ千秋、あなた達の世界のニンゲンにもそういうヒトは存在する……んで、その力が妙な風に働いて四季の”心達”をこの世界に残したの」

 四季と呼んでも差し支えはないが四季そのものではないという奇妙な存在なのだ。 あるいは、いわゆる幽霊と認識されているのは、四季のようなものなのかも知れない。

 今まではアインの中にいる事で消滅を防いでいたものを、エターナの魔法で一時的に半実体化した状態にして晴夜達と話せるようにしていると説明する。   

「何でもありだな……」

 そんな感想を口にしながら、晴夜は四季を見やると、「……だよねぇ?」と苦笑していた。 それが間違いなく四季のものだと本能で理解出来る晴夜は、「……本当に四季なんだな……」と思わず口にしていた。

「うん、そうだよ晴夜くん」

 無邪気な表情を見せた直後、「ちょっと待った!」と立夏が声を上げた。

「えっと……事情は何となく……でも、なんでなの!?」

 晴夜達は彼女の言葉の意味が理解出来ずに首を傾げる。

「どういう事だ立夏?」

「え~とね、冬子姉ぇ……ほら、永遠さんって何年も前からせーやの隣だったわけでしょ? それって、四季ちゃんもずっとせーやの家の隣にいたって事だよね?」

 それからエターナを見やると、彼女は頷いて肯定した。

「……そうか、やろうと思えばもっと前に出来ていたはず……か」

 自分の常識を超えた出来事に見舞われていたとはいえ、立夏の言ったことに思い至らかったのを不覚だと思う冬子。 

「もしかして……立夏が帰って来るのを待ってたのか?」

「でも晴夜君……立夏ちゃんがいつ帰ってくるかなんて……あ! そういう魔法?」

 春香の思い付きに対して、「あははは……さすがに無理だよ」とエターナは肩をすくめた。 四季のように未来を視る力が、魔法が使えるのだと思ったのだろう。

「それって、エターナさんが出来ないすごい事を四季ちゃんは出来る?」

「そうだね、あたしに出来ないことを四季は出来るのは間違いないよ、千秋」

 無邪気な顔を千秋に向けたエターナは、次の瞬間には「まーそれはいいとして……と表情を引き締めた。

「あたし達が待つ必要があったのはね、もう一人の四季の存在だよ」

 四季の死後の残された心はもう一人いた、それはずっと晴夜を自分のものにしていたいという感情だった。 幼い故に思春期のような情熱的な恋心というものはなかったが、その想いは純粋なものであったのも事実だった。

 将来、晴夜と結婚しお嫁さんになるのは自分であり、他の誰かであってほしくないという想いは、彼をずっと独り占めしたいという負の側面もあるのだ。

 結果、その心は晴夜に入り込み、今でも彼の心を縛っている。

「ん~~~? 縛っているは大袈裟だったかな? 四季に対する贖罪の気持ちと、そして誰とも恋人になるわけにはいかないって気持ちは間違いなくあなた自身のものだからね」

 それでも少なくない影響はあるだろう、そしてその四季の心はもう一人の四季の声を遮断するという事もしてみせていた。 彼女が晴夜の内にある限り、もう一人の四季の声は届かない。

 それ故に、行動を起こせずにいた。

 もっとも、それはこの事実が分からなかったからであり、原因さえ分かればどうにかする手段はエターナにはあった。

「……だから今……なのか……?」

 愕然となっている晴夜に、「そういう事だよ」と頷くエターナ。

「晴夜くん……」

 大好きな男の子の未来を救いたいと願う少女は、自分とは真逆の願いを持つもう一人の自分に複雑な想いを抱いていた。 何故なら、男の子を不幸にするであろう想いもまた”星空 四季”のものなのだから。

 何か言わねばと前に進み出ようとすると、ブレスレットの嵌められた腕に遮られた。

「……エターナさん?」

「……んで晴夜……いや、あなた達はこれから答えを出さなきゃいけない。 一人の少女がこの世界に最後に残した想いに対する答えをね……」

 子供のような無邪気さが消え、迫力を感じさせる瞳に見据えられる。 この世のものにしては異質さに感じられる蒼さに、少年少女達に緊張が走った。




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