シーン2
「……魔女?……エターナ……?」
いったい何が起こっているのか理解も出来ない思考で、その名前には聞き覚えがあるように感じる晴夜。 それは春香や立夏、千秋も同じようで自分同様に彼女の名をつぶやく声が聞こえた。
「……信じられないだろうがな……本当だ。 永遠さんの本当の名前はエターナで、魔法という力を使えるんだ……」
そこで冬子が一人だけ落ち着いていると気が付く。 もっとも、自分と比べればという話であり、冷静でいるというよりも動揺や困惑を抑え込めているという風に見えた。
「冬子姉さん……は、知ってた……?」
「ああ……とは言っても、私も知ったのは最近だがな?」
肩をすくめながら、「それに、私もまだ全部を知らされてもいない」と付け加えた。
「……あれ? 改めてって言った?」
「千秋ちゃん?」
「あ……そういえば?」
千秋の言葉の意味に気が付いた立夏がエターナとアインを見つめ、「……どっかで会ってる……気がする?」と気が付く。
冬子はちらりとエターナ達の反応を伺った後に、「ああ、会っている。 海でな」と教えた。
「海……そうか、あの時の二人……」
「エターナさんとアインさんだった……」
「晴夜、春香、そうだよ」
この悪戯を成功させた子供のような笑いと、やれやれと肩をすくめる姿は、確かに海に遊びに行った時にも見たものだった。
「あーでもね? ”永遠”も”エターナ”もどっちもあたしの本当の名前だからね?」
永遠は自分を生んでくれた両親が、エターナはもう一人のお母さんが付けてくれた名前だと言ったエターナは、晴夜達が何か言う前に「まーそれはいいとして……」と言ってしまえば、詳しい事情を聞くタイミングはなくなった。
「最初に説明しておくとね。 今、この家の周囲に”結界”を張っているの、それがある限り外からあたし達が何をしているかは視えないってわけ。 更に、あたしが認めない限りは誰も入る事は出来ないし出ることも出来ないよ?」
「さらっととんでもない事を言ってないか?」
当然、晴夜には魔法の事はさっぱりだが、ゲームやアニメなんかのイメージだと高位の魔法の類に感じる。 同時に、要するにこの場でエターナに何をされようとも逃げ出すどころか、助けを呼ぶ事すら出来ないという事になる。
「まーね。 あたし、魔法は結構得意だからね~」
運動が得意なことを自慢するかのような無邪気な笑いは、彼女に悪意があるとは感じさせなかった。 それに隣人として接してきた永遠は、信頼に値する人物だと思える。
「困惑するのは分かりますが、ひとまず受け入れてはもらえませんか? このままでは話が進みませんからね?」
アインの声は優しげではあったが、晴夜らを見回す紅い瞳には有無を言わさないような力強さがあった。 しかし、それは力で従わせようというようなものではなく、言うとおりにするのが正解なのだと自主的に思わせるような感じだった。
「……そうだな、魔法であろうが何であろうが目の前で起こっていることは現実なのだ……私が保証するよ」
「そうですね……あなた方の目の前で炎が燃えているとして、今はそれが魔法でも化学ででもどっちでもいいでしょう。 ただ、炎の存在を認めてもらえさえすればいいのです」
冬子に頷いて見せてアインがそう言う。
「そうですね……現実に目の前で起きてしまえば……」
「認めるしかないよねぇ……」
「うん……」
少女三人が言い合うと「ああ……そうだな」と晴夜も頷く、もちろん完全に納得も出来てはいないが、確かにこのままでは埒が明かないだろうからだ。 それが正解とは理解しつつも、状況に流されているだけでは?とも僅かに感じてもいた。
「おっけ~。 じゃあ、始めようか」
満足そうな笑顔を浮かべたエターナは、「……じゃあ、出てきていいよ四季」と縁側へと顔を向けて言った。 あまりにも自然に出てきた名前に、晴夜達はすぐには理解できなかったが、わずかな硬直の後に一斉にギョッと目を見開き彼女と同じ方向に視線を集中させた。
いつからいたのか、そこには幼い少女の姿があった。 肩くらいで揃えた茶色い髪の少女は、不安そうな茶色の瞳で少年や少女達を見返していた。
「……四季……なのか?」
間違えるはずはない、自分達の目の前から消え去った当時そのままの星空 四季の姿であった。
「久しぶりだね、みんな……で、いいのかな?」
「……えっと……四季ちゃんの……お化け……?」
驚きはあっても怯えた様子は感じない千秋の声に、晴夜は四季の身体の輪郭がおぼろげであり半透明であるのに気が付いた。
「う~~ん……どう説明したらいいのかな?」
困った様子でエターナを見やる四季、つられるように自分も彼女へと視線を移していた。 「……そうだねぇ……」としばし思案する銀髪の魔女を様子に、「……いや、それくらい考えておいてくださいよ……」とアインが呆れていた。
「そうだなぁ……最初からきちんと説明した方が手っ取り早いかな?」




