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シーン8


            ――3月25日――

 

 家から歩いて十数分くらいのところにあるスーパーマーケットはそこそこ広く品ぞろえも良い。 そうは言っても中学生の俺が日々使う食材や日常品を買いに来るよう名事もなく、今日のように母さんに頼まれれば行くというくらいだ。

 「……ん?」

 入口の自動ドアを通って買い物かごを取りに向かうと、そこには見知った黄色い髪の毛の女の子の後ろ姿があった。

 「……千秋か?」

 「……ん? あれ? 晴夜兄ぃ?」

 振り返って見せた顔は間違いなく千秋だった。

 「家の手伝いか?」

 「うん! お母さんにお使い頼まれたの!」

 そう言って服のポケットから取り出したメモを見せてきた、内容を見る限り夕食の食材で足りないものと、ついでの日用雑貨数点という感じだ。 年齢の割には少し幼い印象の千秋なのだが、実際には結構しっかりしているのでおばさんも偶にこういう事を千秋に頼んでいるのだ。

 「晴夜兄ぃも?」

 「ああ、そうだ。 せっかくだ一緒に行くか?」

 答えを予想してた俺が買い物かごをふたつ取るとのと、「うん!」という千秋の返事は同時だった。 そのひとつを千秋に差し出すと「じゃ~いこ~」とかごではなく俺の服の裾をとって歩き出した。

 「……おいおい……」

 苦笑しながらも、偶には可愛い従妹の荷物持ちをやってもいいかと考える。 もっとも、俺のも千秋の買う物もそこまで重くなる量でもないからではあるが。

 野菜売り場でそれぞれのいる物を千秋にかごに入れてもらって歩き出してから、「……そういうば千秋は花見に来るのか?」と一応聞いてみた。

 「うん! みんなでお花見、楽しみだよね~?」

 「ああ、そうだな」

 千秋にとってだけではない、俺にしても花見というのは初めてだ。 散歩程度に満開の桜を眺めながら歩く程度はしていたが、集まって宴会めいた事を俺も両親も面倒がっているからだ。 

 それは春香にしても同じだし、冬子姉さんも花見の宴会をしているという話は聞かない。 まあ、聞いてないだけで実際はどうなのかは知らないが。

 この町から離れていた間の立夏に関してはまったく分からないが、彼女のお父さんやお母さんもそういう事を進んでやるような人達ではなかったと記憶している。

 少しは気にもなるが大して重要な問題でもない、機会があったら立夏本人に聞いてみればいいかと考えた。

 「それにしてもさぁ……やっぱ千秋だけみんなと別なのってつまんないなぁ……」

 「別って学校の事か?」

 調味料の売り場はどこだっけかな?と探しながらこっちも確認してみると「そーだよ」と俺を見上げる千秋。

 「それは仕方ないだろう、生まれた年の違いはどうにも出来ないんだからな?」

 「そうだけどぁ……」

 立夏も帰って来てあの子以外の全員が揃ったというのに、自分だけが違う場所にいるというのが千秋にしてみれば面白くないし寂しくもあるのだろう。 もしも俺が彼女の立場だったら、やはり同じように思うだろう。

 「それにだ、みんなと遊ぼうと思えばいつでも遊べるし、あと一年もすれば千秋だって中学生だろう? そうしたらみんな一緒に登校や下校だって出来るさ」

 もちろん校舎は別々だが、一緒の敷地にいれれば千秋も十分だろうと思った。

 実際のところは今もかなりの頻度で途中まで一緒に登校したりもしてるのだが、千秋は学校に到着までみんなと一緒したいという事なのだろう。 もちろんその後は校舎は別々だが一緒の敷地内でいるなら満足するだろうと思ったのだが……

 「でも どうせなら晴夜兄ぃと一緒の教室がいいよ~」

 ……と言ってきた。

 「いやいや……それは無理だろう?」

 校舎どころか教室かよ……まあ、春香や立夏、それに冬子姉さんも一緒だし、そうも思ってしまうのか。 

 「あ! そうだ! 晴夜兄ぃが留年すればいいんだよ?」

 無邪気な笑顔でとんでもない事を言ってきた、これには流石に「いや、冗談じゃないから……」と小声ではあるが少しきつい口調で言う。

 「どうして?」

 「それはみっともなさ過ぎだろ? 千秋は俺が三年も留年した情けない男って呼ばれるようになってみんなから馬鹿にされてもいいのか?」

 「……それは……嫌だけど……」

 惨めな俺の姿を想像したのか表情を曇らせる、なので俺は明るい表情を作って「だろ?」と言った。 本当なら頭でも撫でてあげたいところだが周囲には大勢のお客もいるし、そもそも今両手は買い物かごで塞がっている。

 「心配するな、俺も春香達もお前を仲間はずれになんて絶対にしないからな?」

 出来るだけ千秋が安心できるような笑顔で言ったつもりだったのだが、「……本当に?」と確認してくるその顔はまだいつもの明るい表情に戻っていない。 なんだかんだで頼りがいのある兄として信頼されている思っていたが、この反応を見る限り俺もまだまだというわけか。

 「ああ、本当だ」

 だから、今度はさっき以上に頼もしそうな声を出して言ってみると、ようやく「うん!」と返事をする従妹に笑顔が戻った。

 


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