シーン9
―11月21日―
「……ふむ? 幽霊は存在するのかねぇ……?」
縁側にならんで腰かけている婚約者と恩人に背中を僕は視ていた。 もう少し近づきたい気もするんだけど、アインさんは丸くなって寝ている……というか寝たふりをしているのでそうもいかない。
「はい、あ……別に深い意味はなくて、何となく……ですよ?」
急に永遠さんに相談があるってやって来た晴夜くんだけど妙な言葉を口にしたなぁ……。幽霊って……まさに僕の事なんだよね……まあ、流石に僕の事に気がついてとかはないと思うけど。
「確かに幽霊はいるかも知れないねぇ……でもね、それはきっとあんたの思っているようなもんじゃないよ?」
「……?」
「肉体が滅べば精神……魂も滅びる、あるいは輪廻転生もあるのかも知れない……けどきっとそれは単なる精神のエネルギー体みたいなもんで”そのヒト”そのものじゃないんじゃないかい?」
えっと……どういう事なんだろう……?
「肉体と魂はふたつでひとつ、どちらかが欠ければそれはヒト……いえ、命ある生命体ではないだろうという事です」
僕の心を読んだかのようにアインさんが解説してはくれるけど、それでもやっぱり分からないや。
「それは……じゃあ、誰かの魂が恨みを晴らすためにこの世に留まるというのはありえない……?」
「魂はね。 でも”心”はそうじゃないのかもよ?」
晴夜くんが「心?」と首を傾げるのは、僕も同じ心境だ。
晴夜くんが先を促すように黙って永遠さんを見つめているが、永遠さんも言葉を発しない。 ひょっとしたら目を伏せて何か考えているのかも知れない。
「晴夜、この世界には一人の少女があんたに対して抱く負の感情は存在する……」
勢いよく立ち上がって「それって……!?」と声を上げた、僕も自分の身体があったらきっと同じだったと思うくらいに驚いている。 永遠さんのいうのが四季だとは分かるんだけど、僕は決して彼に対して悪意はないんだから……。
だから、「……どういう事だろう?」ってアインさんに聞いてみたけど……。
「さあ……私にも分かりませんね?」
……って答えたのは本当に知らないのか、僕には言えないからなのかどっちなのかは分からない。
「でもね、それ以上にあんたを心配して助けようってする心も存在しているのもまた事実なんだからね?」
「えっと……?」
困惑する晴夜くんに永遠さんは意味深な笑いを浮かべた後に、「一人で抱え込んで、一人で解決しようとするもんじゃないって事さね?」と言った。
「……あ…えっと……そういう事……?」
「そういう事だよ?」
キツネにつままれたような様子の晴夜くん、意味深な風に言っておいて当たり障りのない普通の結論だったからなんだろうけど……でも、永遠さんの場合は更に何か深い意味がありそうなんだよねぇ……。
だけど、それはきっと僕達にとって悪い事じゃない。
それは僕には永遠さんに任せるしか出来ないからじゃなくて、僕がこの人を信頼出来るって思っているからだ。 一緒に過ごしてきた時間の中で、この人は決して誰かを不幸にしようなんて思わない人なんだって分かってるから。
――――――
自室に戻るとベッドに腰かけて、「……あの人らしい言いようだったけど……」と呟いてみた。
「結局……余計に分けわからなくなったな……」
四季の霊の存在を肯定されたわけではないが、否定をするでもなかった。 そして、それが悪霊のようなモノ的な言い方もしたが、そうじゃないようにも聞こえた。
永遠さんに話しただけで解決するとは思ってはいなかったが、期待した展開でもなく、どちらかと言えば期待外れと言う感じだ。
しかし……。
「近いうちにね、あんたと四季の心の問題を解決しなきゃいけない時がくる……だから、今は待っておきなさい」
……と最後に言われた言葉の意味は何なのだろう?
しばらく考えてみたものの結局答えが出る事はなかった……。




