シーン7
放課後に私は春香と立夏を屋上へと呼び出した。
揃ってやって来た二人に「悪いな、テスト勉強もあるだろうに」と謝りながら缶の紅茶を渡した。 それを受け取ったが蓋を開ける事もなく、私の顔を見つめてきた。
「話というのは他でもない、晴夜の事だ」
「……ですよね」
「……だよねぇ……」
当然というか二人も気が付いていたようだ、晴夜が今日ずっと怯えた様な思いつめた表情を時折見せていたのをだ。 いきなり本人に聞くのも選択ではあったが、あいつの事だから素直に言うとも思えない、なので春香と立夏というわけだ。
「私が見ている限りでは、昨日までは何もなかったように思うが?」
「うん……春香ちゃんは?」
「わたしも、心当たりはないと思う……」
晴夜を一番近くで見ているはずの二人でも気が付かなかったとは思えないから、つまりは昨晩に何かあったと見るべきか。 しかし、一緒に暮らしている立夏でも分からないとなると、何か大事が起こったわけでもないだろう。
「……分かった、もう帰っていいぞ。 晴夜にもそう言ってくれ」
晴夜には少し雑用をさせていた、それはあいつを一人にさせていいものか分からなかったからだ。
「あ、それと……」
「分かってます、何か気がついたら冬子さんにちゃんと知らせます」
立夏も「うん!」と頷くのに、私は「ああ、頼む」と言って二人を行かせた。
「……我ながら過保護な気もするが……」
ふと空を見上げると、朝とは打って変わって気持ちよく晴れ渡っていた。
「……どうにもすっきりしない、嫌な予感がする……立夏が帰って来て、その立夏と春香が晴夜に気持ちを伝えようとしているこのタイミングに、どうしてこうなる?」
考えすぎであればそれに越した事はない。 晴夜にだってもともと悩みはあるだろうし、今回のそれも何かのきっかけで少し思いつめてしまっているだけかも知れない。
しかし、些細な変化と気にも留めずにいて後になってからあの時に……と後悔するよろは良いと思うのだ。 そして、それは一人のニンゲンとしては間違ってはいないという自信はある……が……。
「教師としては身内を贔屓しすぎだな……まったく……」
学校の先生になるというのは昔からの夢で、何だかんだとそれを叶える事が出来たのは努力をしたからだし適正もあったのだろうとは思ってはいた。 だが、こうも弟達ばかりを気にしてしまっていては教師としての公平性に欠けているなと思う。
「私は教師向きではないという事だな……しかし、選んだ道を中途半端で放り出すわけにもいかないしな……」
晴夜達が……いや、来年になればやって来るであろう千秋まで卒業したとしても私は教師を続けていくのだろうと、そんな風に考えた。
――――――
今日も帰宅してからのテスト勉強……はいいのだが、今日は自分の勉強机ではなく折り畳みのテーブルを拡げてそれを三人で囲んでいた。
「ねえ、春香ちゃん。 ここなんだけど……」
「えっと、そこはね……」
つまりは俺と立夏、そして春香の三人でテスト勉強というわけである。 俺自身は何度も断ったのだが、二人で団結してラストスパートだからと強引にこられると断り切れなかった。
「せーや、手が止まってるよ?」
「……んなこと言ったてな……」
二人共、妙に俺の事を構おうとしている気がする、その理由が分からずに困惑するしかない。
「いったい、どうしたんだよ……?」
春香と立夏は顔を見合わせると、俺を睨むように凝視しながら……。
「それはこっちのセリフです」
「それはこっちのセリフだよ」
……と、言われた。
「どういう事だよ?」
立夏と春香は顔を見合わせてから、二人して俺を睨むように見つめてきた。
「せーや、何か悩んでる?」
「……え!?」
「わたし達が気が付いてないと思うのかな?」
思わずギョッとなって身を引いてしまう、普段と変わらない穏やかな笑みを浮かべながらも、その中に怖さすら感じさせる真剣さがあった。 そして二人が何を言いたいのかは分かった、気にしないようにしていたつもりだったがそうはいってなかったようだ。
だが、だからといって正直に話すという気にもならない。 何しろ四季かどうかはさておいても、幽霊っぽいものを視たかも知れないなんてなぁ……。
そう”視たかも”なのだ、なのにどうして俺はこうも気にしてしまうのだろう。
「……せーや?」
立夏の声に我に返る。
「……わたし達にも言えない事なの?」
「ああ、ちょっと言えないかな……だいたい、隠し事をしてるのは二人だって同じだろ?」
俺の事を心配してくれてるのは分かるんだけ、あまり追及されたくないので、そんな少し意地の悪い事を言ってしまう。
「……う……」
「それを言われちゃうと……」
予想通りに言葉に詰まったようだ、ずるいよ……と言わんばかりの顔で見つめてくるが仕方ない事だ。
この後は、この事に触れられないまま勉強会は続いた……。




