シーン6
ずっと机に向かっていた俺は、顔を上げると大きく息を吐いた。
「こんなもんかね……まあ、今回も人並みの点は取れるだろう」
どこか情けない言いようにも思えるのだが学校の勉強の価値とはそんなものだった。
将来にまったく役に立たないものじゃないとは思っても、所謂社会のエリートになって出世しようとかいうような人間になりたいという欲もないが、落第生にはなりたいくはないというちっぽけなプライドはあるのだ。
「……俺ってちっぽけな人間だよなぁ……」
春香のようなしっかりした人間にもなれず、立夏のように趣味らしい趣味を持ってるわけでもなく、千秋のような純粋な心の人間でもない。 ましてや冬子姉さんのような立派な大人になれる自信もない。
「四季が生きてたら呆れただろうな……婚約解消されたって文句も言えないか……」
ぼやきながら机に突っ伏す、一応は真面目に頭を酷使したからか眠気が襲ってきた。
「……寝るか……」
ダルさを感じながら立ち上がってベッドに向かおうとして、そういえば朝方にかけて雨が降るとか言ってた気がするので、眠る前に雨戸を閉めておこう。
窓を開けると外の冷たい空気が顔に触れた、空を見上げてみると暗闇に包まれた空には星の一つも見えなかった。 「……こりゃ明日は雨の中登校かねぇ……」とぼやきながら雨戸を閉めて、そして窓も占めるとガラスに俺の眠たそうな顔が……。
「…………!?」
外気の冷たさ以上に寒気を感じて眠気が一気に吹き飛んだ、一瞬だったが俺以外の顔が写し出されたように見えた……。
「……顔?……不気味な顔……女の子の顔……知っている顔……?……」
錯覚かと思った次には、心霊現象と言う言葉が頭に浮かぶ。 天国や地獄とかともかく、霊魂の存在自他は多少は信じてはいる。
そして霊魂という言葉から次に出てきたのは……。
「……しき……四季なのか……?」
今はこの世界に存在しない少女の名前だった……。
―11月12日―
「……きて……起きてよ~~!」
聞きなれた少女の声に目を開けると、そこにはやはりよく知る顔があった。
「……立夏……?……あれ?」
「あれ?‥…じゃないよせーや、あんまり起きてこないからおばさんに起こして来いって頼まれたんだよ?」
幼なじみのどこか嬉しそうな声を聞きながら身体を起こして、「……起こし……目覚ましは……」とその姿を見つける前に「止まってた……てか、セットし忘れたんじゃない?」と教えてくれた。
「そうか……」
「もう、うっかりさんだねせーやも、電気も付けっぱなしだし……」
苦笑の声を聞きながら昨夜の事を思い出す、窓ガラスに映った四季らしき影を見た後は、恐ろしくなってそのままベッドに潜り込んだのだった。 無意識のうちに窓へ顔を向けると、そこには俺と立夏の姿だけが映っていた。
「雨戸はちゃんと閉めたんだねぇ……まあ、早く起きてごはんたべちゃってよ。 今はまだ小雨だし早く学校に行っちゃお?」
俺が頷くと立夏は部屋を出て行った。
「……四季の幽霊だって……そういう冗談なんてさ……」
ありえない……とは言えなかった、四季が俺を恨んで成仏出来ないでいるとしてもおかしくないと思えたからだ。 俺があの時に遅刻などしなければ死ぬ事の無かった少女は、こんな彼女に好きになってもらう価値もなかった男のせいで死んだ四季だ。
「……祟り殺されても文句も言えないか……」
そう言ってはみたが、次の瞬間には言いようのない恐怖が込み上げてきて身震いしていた……。




