シーン4
―11月11日―
ホーム・ルームが終わり放課後になる。
通常ならこれから部活なのだが、中間や期末テストを間近に控えた時期は俺達だけではなく大半の部活は休みか、あるいは時間を短縮しての活動となる。
「……さて、帰るかな」
「そーだね」
「うん、帰ろうか」
両隣の立夏と春香の声を聞きながら立ち上がるのは、いつも通りの事なのだが……「ああ……」と返す声がどこかぎこちないのは自分でも分かった。 ここ最近はこんな調子なのは当然二人も分かっているだろうと思う、でも立夏も春香もまるで気づいていないという風に接してきている。
「……相変わらずって感じだな……じゃあな」
すでに鞄を持った快斗に、「ああ、じゃあな?」とあいさつを返して俺も机の横に掛けてある鞄に手を伸ばす。
「せーやは帰ったら真面目にテスト勉強?」
「あーそうなるな、やっぱ……」
赤点ギリギリの落第生というわけでもないが、人並み程度の点数は取りたいのでそれなりには真面目にやっている。 あまり成績が悪いと親にもうるさく言われるし、自分でもみっともないとは思っているからだ。
まあ……休憩と称してついついゲームや漫画に手が伸びもするのだが……。
「そういえば、晴夜君と立夏ちゃんは一緒に勉強とかしてるの?」
「ん? いや、流石に一人でやってるよ」
小学校の頃は偶に三人で一緒に宿題をやるような事もあったけど中学生にもなるとそういう事をしようとは思わない。 春香はもちろんの事、今は同居人になっている立夏であってもだ……まあ、お互いに分からない事を聞き合うくらいはあったが。
「そうなんだねぇ、ん~~?」
思案顔になった後に春香は俺と立夏を交互に見てから、「じゃあ、みんなでテスト勉強でもしてみる?」と提案してきた。
「……は? 何だって急に……?」
「偶にはいいんじゃないかな?」
「あーそうだねぇ……」
立夏は乗り気なようだ、俺も悪いアイデアではないとも思うのだが……。
「いや、俺は止めおくよ……」
二人が驚いた顔をして、どうして?という顔をしたので、「一人で集中してじっくりとやりたいからさ……」と続けたが、どこか言い訳っぽいと自分で感じる。 実際のところ自分でもこのモヤモヤした気持ちの正体は分からない……あえて言うなら春香達と少し距離を置きたいと思っているような気がする。
しばらく俺の顔を見つめてた春香が「……そっか」と口を開くと、「じゃあ、しょうがないね?」と立夏も続く。 二人の少し残念そうな様子に悪いなと思うが、仕方ない事だと自分に言い聞かせた……。
――――――
「……段々と冬らしい寒さになってきたようですね」
道路の端っこを歩きながら言ってくるアインさんに「みたいだね……」と答える、今の僕は暑さとか寒さとかは感じないんだけど、偶に見かける通行人とかの服装でそう思えるんだ。
アインさんは永遠さんと一緒にいる事が多いけど偶にこうしてひとりで散歩したりもする、僕的には今は散歩って気分でもないんだけど同居人として厄介になっている身としては多少は我慢しないとね。
「……今日は妙に生徒が多いですねぇ」
アインさんの言葉に周囲を見渡すと、確かに学校帰りと思える中学校の生徒達の姿があった、今日みたいに偶に散歩に使う道だから今見えているこの人数が多いというのは分かる。
「今日はみんなして部活動が休みなのでしょうか……ああ、テスト期間……いえ、テスト前だからですね」
「テスト……中間……じゃなくて期末テストだっけ?」
晴夜くん達はともかく僕にはまったく縁がないものだけど知識としては持っているよ、大変だなぁ……って思う反面、僕もみんなとそういうのを経験してみたかったって思う。
「ええ、今の時期だとそうですね。 人間の学生というのも大変という事です、しかし、大人になり大人として生きていくのはもっと大変というものです」
僕に言い聞かせているかのような言葉だけど、僕はもう大人になる事は出来ない。
「だからこそ子供は時に子供のままでいたいと願いものです。 ですが、どんな形であれ子供のままではいられません、いつかは状況の変化を受け入れなくてはいけない……そういうものです」
「状況の変化……?」
「彼らや彼女らもやがては中学を卒業し大半の者は高校へと進学するでしょう、更にそこから大学を通るにしろ通らないにしろ社会へ出て行くことになります……その変化についていくためには嫌でも大人になっていかなければならない」
アインさんの言葉の意味は全然分からないという事もないけど、それは実感を伴うのじゃないし、実感を伴って感じる事は絶対にないだろう。 でも……晴夜くん達は違う、みんなはそれこそアインさんが言ったような人生を歩んでいく……。
それを応援していきたいと思う一方で、その中に僕がいない事に複雑な感情を抱いてしまう。
「……とはいえ、性急に変化してもいい事はありません。 急な変化は時には歪みを生じさせますしね……しかし……」
「しかし……?」
アインさんは不意に歩みを止めると空を見上げた……。
「しかし……時には否応なく変化しなくてはいけない事もあるものなのですよ……」




