シーン8
どうしてだろう……?
良く知っているみっつの後ろ姿を千秋は視ている……千秋が一歩前に進むと、同じだけ後ろ姿も進み距離は縮まらない。
「春香ちゃん、立夏ちゃん……晴夜兄ぃ……」
名を呼びながらまた一歩進むと、やはりみんなも一歩進むので距離は縮まらない。
千秋もみんなと並んで歩きたいのにそれが出来ない。 どれだけ一生懸命に走ろうとも絶対に追いつけないのが悔しくて……悲しくて……。
――千秋を置いて行かないで、晴夜兄ぃっ!!!!!――
「……あき……千秋?」
目を開くとガラス窓越しの景色……「……起きたか千秋?」っていう声に顔を右へ向けると、そこには冬子お姉ちゃんの顔があった。
「……あれ? 千秋寝てたの……?」
ここは冬子お姉ちゃんの車の中で、千秋はお姉ちゃんにお家まで送ってもらっていたんだった。
「千秋のお家に着いたの?」
「……ん? ああ、そうなんだが……」
なんだろう? 何か言いたそうなお姉ちゃんの表情が何だか心配そうに見えた。
「……いや、何でもない……」
不思議に思いながらシート・ベルトを外してドアを開くと車を降りて、それから振り返って「ありがとうね、お姉ちゃん」といつも通りにお礼を言った。 そして何気なく顔を上げるとすっかり暗くなった空には星が瞬いてた。
「……千秋、あのな……」
「……ん? 何?」
冬子お姉ちゃんの返事はすぐには返ってこなかった、千秋には言おうか言うべきじゃないのか考えているよう見えたから、じっと待った。
「……えっとな? とにかく心配するな千秋……誰もお前を置いてはいかない、私も春香も立夏も……もちろん晴夜もだ」
お姉ちゃんの言葉に漠然とよく分からない不安を感じた……そういえばさっき怖い夢を視ていたような気がするんだけど。ひょっとしたらそのせいなのかな。
よくは分らなかったけど、お姉ちゃんを心配させたくないから「うん」と返事をした。
「……そうか、ならいいんだがな……」
優しい笑顔を千秋に見せて「じゃあ、また明日な。 おやすみ千秋」
「うん、おやすみ~」
笑顔を作ってお姉ちゃんの車が走っていくのを見送った後に再び不安を感じてきたけど、千秋は気が付かない振りをしてお家に入った……。




