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シーン7


                                                                                    


             ――9月14日――

 「ボード・ゲーム喫茶をするぞ!」

 いいアイデアの出ないまま翌週を迎え、部室に集まった面々を前に冬子姉さんが宣言すると、俺も含めた全員が「……は?」となった。

 「……ボード・ゲーム喫茶って……何?」

 部長である立夏にも話してなかったようだ。 もっとも、そうやってみんなを驚かせてやろうっていうのが姉さんらしい。

 「そんな難しいものではない、ボード・ゲームで遊んでもらいながら飲み物や軽い食事を提供しようという事だ」

 「また、妙な事を考えますねぇ……」

 瑞樹さの言葉に、俺達程ではないが姉さんの性格を知る快斗が「先生らしいけどな?」と肩を竦める。 見れば千秋が難しい顔をしてる、大変そうだなと思っているんだろうな、自分も手伝う事が当たり前だと考えてるのはあいつらしい。

 「でも……飲み物はともかく何かを食べながらゲームっていうのも……」

 「ゲームのコマやボードが汚れてしまうというのだろう?」

 立夏が頷くと、「その心配はもっともだな?」と余裕の表情。 まあ、その位の事は姉さんも考えないはずないか。

 「食事と言ってもサンド・イッチや菓子類くらいにしよう、それなら手も汚れずに食べられるしな。 どのみちきちんと喫茶店をやるような準備は出来ないからな」

 「場所はやっぱりここなの?」

 「ああ、ここでいいだろう春香」

 テーブルを並べてゲームをするスペースは二つ……無理すれば三つは作れるかも知れないが、それだと飲み物なんかを用意する場所がない気がする。 それを言ってみると、隣の空き部屋をその日だけ使えるように交渉中と返ってきた。

 「どのみち私達で大人数を相手には出来ないだろう? 交代で学園祭を回る時間も必要だしな?」

 「姉さんの言う通りだな」

 俺の言葉に全員が頷くと、「決まりだな?」と笑みを浮かべた。

 


 その日の帰り道の話題は、もちろんと言うべきかボード・ゲーム喫茶の事だった。 心配もあるが、仲間同士で何かをするという事に対して楽しみとも想うのは俺だけではないだろう。

 「冬子さんもよくも思い付いたものだよねぇ?」

 「だよねぇ……まあ、冬子姉ぇらしいこどね?」

 そう言って笑い合うのを聞きながら、心の中で同意する。

 「まあ、基本的には来た連中にゲームをやってもらおうってだけだけど……」

 「……ん? 何か心配事であるのせーや?」

 「いやな? 俺……てか、立夏以外は実際のとこそこまでボード・ゲームに詳しいわけじゃないだろう?」

 これまで遊んだゲームのルールくらいはある程度覚えてはいるが、人に教えられるレベルとはとても言えない。 ましてや、まだ遊んだことのないゲームなどルールすら分からないのである。

 そう言うと「ああ、そっかぁ……」と思案顔になる春香だ。

 「でも立夏ちゃん一人だけずっと部室にってわけにもいかないし……立夏ちゃんだってせっかくの学園祭を視て回りたいよね?」

 春香に問われた立夏は「まぁ……そうなんだけど……」と肩を竦めて答える。

 「まあ、基本的に初心者前提だから重い……ルールが複雑で時間がかかるようなゲームは使えないけど……」

 それでも俺達だと難しいか、他者に教えるためにはルール・ブックの丸暗記だけじゃなくゲームの要領もある程度知っている必要があるだろう。 例えば、まず最初は何をするべきかなどの説明も出来た方がいい。

 そのためにはやはり実際に遊び経験するのが一番なんだろう、そう言うと「まあねぇ……」と頬を掻く立夏だ。

 「まあ、ボクは部長でその責任もあるし……って言っても二人は納得しないよねぇ……やっぱり……」

「当然だろ?」

 「もちろん、立夏ちゃん一人に押し付けられないよ」

 バツの悪そうな顔をする立夏を見ながら考えてみる、姉さんはこの問題に気が付いているのだろうか……しっかり者の姉さんだって人間なのだから、うっかり失念しているというのもあるだろう。

 明日にでも相談してみるというのが妥当だと思うが、何でもかんでも姉さんに頼ってばかりでもいけないと思う。 

 「さっき少し言ってたけど、具体的にはどんなゲームを選ぶの?」

 「そうだねぇ……初心者さん前提だとすると……インストも含めてプレイ時間が長くても一時間くらいで、なるべく勝敗に拘らないでわいわい遊べるゲームかな?」

 学園祭での出し物である、自分のとこと出し物や他に見て回りたい所もいくつもあるだろうし、俺達のところだけで二時間も三時間も使いたくないだろう。 そうなると必然的にルールも簡単なものになるだろう、それなら学園祭までに何とか覚えられるかも知れない。

 ただ、そのためには当日使うゲームを早めに決める必要があるだろう。 極端な話だが、例えば学園祭の前日に決められても覚えるのは不可能だ。

 「……晴夜君?」

 「……ん? ああ、結局のところ俺達が使うゲームのルールを覚えるしかないんじゃないかってさ?」

 「まーそうなるよねぇ……」

 立夏が言うと同時に俺の家の前に到着したの気が付く、いつもならここで春香とは別れて家に入るとこなのだが、話も中途半端なところだったし「春香、都合がいいなら俺ん家で話の続きをしないか?」と提案してみた。

 「……ん? わたしはいいよ?」

 


 折り畳み式のテーブルを設置して春香と立夏が向き合って座っているところへ、冷蔵庫にあった麦茶を注いだコップを彼女らの前に置くと座る。

 「晴夜君の部屋に入るのも久しぶりな気がするね?」

 「……ん? そうだったけか?」

 春香とは一緒にいる時間も多いし立夏は割と頻繁にやって来るから久しぶりと言う感覚はなかったが、言われてみればそうだった。 そもそも、中学にもなれば男子の部屋に女子が遊びに来ることも珍しいんだろうな。

 「……まあ、それはいいとして話の続きなんだけどさ、とりあえず立夏に学園祭で使うゲームを早めに決めてほしいんだ」

 「それって当日までに全部覚えようって?」

 同じような事は考えていたのだろう、驚いた様子もない春香に「そういう事」と頷いて見せた。 それから立夏を見やると、少し考えこんでいる様子だ。

 「……そうだねぇ……ゲームを決めるのはいいけど、全部を人に説明できるレベルまで覚えるのは出来るかな……?」

 言ってから「……あ! ち、違うよ!?」と少し焦った様子で右手を振った。

 「分かってるよ、俺達の頭が悪いって言うんじゃなくてそれだけ難しいって事だろ?」

 「だよねぇ……ルールを暗記するだけでも結構な情報量あるしね」

 立夏の表情がホッとしたものに変わる。

 俺も春香もこれまで遊んできたからそれは分かっているが、他に方法があるとも思えないしやるしかないだろう。 それにこれまでに遊んできたゲームだっていくつかはあるだろうし不可能という事はないはずだ。

 「……ん~~でもなぁ……二人……というかみんなにはそんなに苦労をさせたくないんだよねぇ……」

 みんなとは俺達だけじゃなく快斗や瑞樹さんも含むボード・ゲーム部のみんなだろう。 それは部長としてとか、言い出しっぺは姉さんとはいえボード・ゲーム部創設に俺達を巻き込んだという申し訳なさだと思うが……。

 「立夏ちゃん、わたし達だって立夏ちゃん一人にだけ苦労してほしくはないよ?」

 ……という春香に「そういう事だな?」と同意した。

 俺達の顔を交互に見ながらしばらく唸っていた立夏だったが、「……とにかく学園祭で使うゲームは決めとくね」と肩を竦めながら言った。

 


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