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シーン5


              ――9月11日――

 

 「いってきま~す~」

 いつも通りに玄関でお見送りしてくれるお母さんに背を向けて千秋は駆け出す。 今朝は少し寝坊しちゃったんだ、全然遅刻を心配するような時間じゃないんだけど晴夜兄ぃ達と一緒に行こうと思うと少し遅いんだよね。

 今までもずっと毎日一緒に登校してたわけじゃないんだけど、出来るなら一緒に行きたいんだよね。 晴夜兄ぃはもちろん、春香ちゃんや立夏ちゃんとみんないっしょに学校へ行くまでお話しするのって楽しいんだよ。

 だから、見慣れたセーラ服の後ろ姿を見つけた時にはホッとしたんだけど、すぐにいるはずの晴夜兄ぃがいないのに気が付いて「どうしたの?」って聞いてみた。

 「せーやは今日はお休み、少し熱を出しちゃってさ」

 「……え?」

 驚く千秋に春香ちゃんは「大丈夫よ?」って微笑んだ。

 「少しダルそうだったけど大したことはなさそうだったよ?」

 「そーそー、寧ろ学校がサボれるって嬉しそうなくらいだったねぇ……」

 立夏ちゃん達が言うなら本当に大丈夫なんだって思えるけど、それでもやっぱり心配だし学校が終わったらお見舞いに行こうかなって考える。 それを二人に言うと、そうしてあげてって言ってくれた。

 「……ところでさ、春香ちゃん達が好きな男の子ってもしかして晴夜兄ぃなの?」

 二人の姉の後ろを歩きながら聞いてみると、驚きの声を出して千秋を振り返った。

 「……あー……うん」

 「……やっぱり分るかな?」

 立夏ちゃんも春香ちゃんも否定しなかった。

 「でもさ、二人共告白とかしてないよね?」

 晴夜兄ぃの様子を見れてれば確認するまでもなく千秋にもそれは分かる。

 二人は顔を見合わせた後に真剣な表情で千秋の目を見つめてきた。

 「まだ……その時じゃないからだよ?」

 「そう、今はまだ言えないんだ……」

 どういう事なんだろう?って首を傾げてから春香ちゃんの顔を、そして立夏ちゃんの顔を見返てみるけど、二人共何も言わなかった。

 「だからね? この事は晴夜君には言わないでね千秋ちゃん」

 春香ちゃんが人差し指を自分の唇に当てながら言うと、「お願いね?」と立夏ちゃんは千秋の頭に優しく手を乗せた。 そんな二人が何だか大人に見えて、反対に自分がまだまだ子供のように思えて、複雑な気持ち……。

 「……うん」

 それでも千秋は頷く、理由は分からないけど春香ちゃん達が言いたくないなら千秋が晴夜兄ぃに言うわけにはいかないから……。

 

                                                              

 

 「……晴夜の様子はどうだったんだい?」

 縁側に腰かけている永遠さんを見上げて、「割と元気そうでしたよ」と僕は答えた。

 晴夜くんが学校を休んでいるって聞いた時には少し心配になったけど、今さっき窓から覗き見たら、ベッドで横にこそなっていたけど退屈そうに漫画を読んでいた。

 黒猫のアインさんの中に憑依しているみたいな状態じゃなかったら話し相手になってあげたいなって思う……いや、そもそも晴夜くんと話が出来るなら全部の問題が解決してるんだよねぇ……。

 「大事を取って休んだというところでしょう、まぁ……多少は学校をさぼりたいというのもあったのでしょうね?」

 アインさんが苦笑する。 晴夜くんは性格的には真面目な方なんだけどそういう風に思う事だってあるよねって思う……っていうか、僕達みんなそうだろうしね。

 「偶にさぼるくらいはいいけどね? 逃げてはダメだけどね」

 「……どういう意味なんですか永遠さん?」

 「誰かに迷惑を掛けないなら少しくらいの悪さは赦されるわ、ニンゲンは神や仏じゃないんだものね? でもね、立ち向かうべき事から逃げ出していけないって事よ」

 永遠さんは僕の目をしっかり見据えながら答えのにドキリとなった。

 僕の目的は晴夜に僕の気持ちを伝える事、でも時々だけど……そうはしないで今のまま彼の傍にいたいって考えてしまう事もあるんだ。 でもね、それは晴夜くんをずっと苦しめちゃうだろうし、永遠さんやアインさんにも迷惑を掛け続ける事になる。

 頭ではそう分かってはいるんだけど、この時にはまだ永遠さん達に対して頷くことが出来なかったんだ……。

 


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