シーン2
春香と立夏が好きになる男子か……。
千秋と別れた後で二人に聞いてみたが秘密だと言われてしまった。
そりゃ人の色恋沙汰に軽々しく知りたいと思うわけじゃない、でも二人共俺の幼なじみだぞ? 二人の彼氏ってなったら俺だけじゃなく冬子姉さんや千秋とだって無縁ってわけにはならないはずだ。
それが理由のはずなのだが、何とも言えないモヤモヤした気持ちを感じていた。
休み時間、当人がいないタイミングで朝の事を快斗に話して「誰なんだろうな?」と言ってみると……。
「……アホか、お前は……」
……と呆れられた様子で返された。
「何だよ……?」
「言ったまんまだよ……まあ、これ以上は俺が言う事じゃないから言わんがな」
どうやら快斗は春香達の好きだという相手が誰だか分かっているようだ、もちろん本人達から聞いたのではなく察しているという事だろう。 つまりは快斗の知っている奴で春香や立夏も当然知ってる奴とうわけだが……そうなると十中八九俺の知っているはずなのだが……心当たりは全くなかった。
「……何の話なの?」
そこへ当の立夏達が戻って来た。
「何って……朝の事だよ」
「朝……ああ、なるほどね」
納得しながら自分の席に着く春香だが、答えを教えてくれるつもりがないのは顔を見れば分かる、それは立夏にしても同じだろう。
そもそも三時限目の開始を知らせるチャイムが鳴ってしまってはどのみち聞きようもなかったが。
放課後になればいつも通りに部活の時間だが、その前に校門へと向かった。
今日は休みであるかそもそも部活動をしていない生徒が外への向かう流れに逆らうように赤いランドセルを背負った黄色い髪の女の子が歩いてくる。 明らかに異質な存在であっても誰も気にした風でもないのは、今となっては彼女の来訪は日常の光景になっているのだ。
「あ! 晴夜兄ぃ~!」
「おう、来たな千秋」
まだ小学六年の千秋が俺達の中学までやって来る理由はボードゲーム部の活動に参加するためだ。 学校側の許可は姉さんが取ってあるので教師がやって来て注意されることもないし、最初の頃はともかく今では自分の学校同様に何の気兼ねもなく出入りしている千秋だ。
それでも気が向いた時にはこうして迎えに出て行くのは、妹を心配する兄心なんだろうなと思う。
「ねえ、今日はどんなゲームで遊ぶの?」
千秋と並びながら「……ん? さあ、立夏からは聞いてないな?」と答えると、「そっか~」と明らかに何か企んでいると分かる笑いを見せた。 だいたい何かも分かるのではあるが、この場ではあえて何も言わない事にした。
二人で部室に入るとすでに全員が揃っていた。
窓際で立ち話をしていた二人の女子生徒が揃って俺達に顔を向ける、茶色の長い髪の方が俺のお隣さんの青空 春香で緑のツインテールの雨空 立夏は現在分け合って俺の内に同居中の幼なじみだ。
「お、来たな?」
パイプ椅子に腰かけている肩くらいまでの黒髪の女性は初雪 冬子さんというこのボード・ゲーム部の顧問であり俺達の担任教師、更に言えば幼なじみのお姉さん。
「……で、今日は何をするんだ?」
そしてクラス・メイトの当麻 快斗とその一つ下の小石川 瑞樹さんがこの部活のメンバーだ。
「そうだねぇ……」
部長である立夏が棚に並べてあるボード・ゲームを見繕い始めると、「ねえ、立夏ちゃん!」と千秋がランドセルを開と、漫画の単行本くらいのサイズの箱を取り出して俺達に見せた。
「それって……ああ、ロバだね」
千秋は「うん!」と頷く、当然というか立夏は知っているようだが俺にはどんなゲームなのかさっぱりだ。
「それは千秋ちゃんが自分で買ったものなの?」
「そうだよ、春香ちゃん」
どうやらお母さんと買い物に行った時にデパートの玩具売り場で見つけて買ってもらったらしい。 箱のイラストが可愛い動物だったからみたいでどんなゲームかは自分でもまだ分かってないようだ。
「……はぁ……それでどんなゲームなんですか先輩?」
「すごく簡単だけど面白いゲームだよ。 千秋ちゃんはなかなか見る目があるね?」
「ほう? それは将来有望な部員だな?」
立夏と冬子姉さんに褒められて嬉しそうな千秋だ。
「ならまあ、さっそくやってみようぜ?」
快斗に促されてみんなが席に着くと立夏が蓋を開けて中身を取り出した、どうやらカードを使うゲームのようだ。
カードをシャッフルして山札を作ると全員分の手札を作り配ってから「このゲームはね……」と立夏がルールを説明し、そして山札の上のカードをめくりゲームを開始した。
「……3か……」
カードは1から6の数字とロバの絵のものがあり、場のカードと同じかひとつ上の数字を出すことが出来る。 スタート・プレイヤーの春香は4のカードを出した、続く二番手の冬子姉さんは「むう?」と渋い顔をしながら山札からカードを一枚引く。
手札に出せるカードがない場合はカードを引くことが出来るが、それをすると場に出す事は出来ない。
選択としてはこの勝負から降りる事も出来るが、残った手札の数字分だけマイナス点となる、ちなみに俺には”3”が二枚で”4”と”5”と"ロバ”が一枚ずつある。 数字の合計の15プラス、ロバはマイナス十点なので合計でマイナス二十五点になるのだ。
「4だ!」
「私は5ね」
快斗と瑞樹さんもカードを場に出していく、俺も迷うことなく5のカードを出すと隣から「ぶ~~」と不満そうな声がした。
「……千秋?」
「晴夜兄ぁ~6出してよぉ~?」
「いや……そんな事言ってもなぁ……」
千秋も仕方ないという顔でカードを引いた。 俺としても別に意地悪をしたいわけではないのだが、そういうゲームなので仕方ないだろう。
こんな感じでゲームは進み俺と千秋以外はゲームから降りていた、俺と彼女の手札は一枚づつで俺の数字は2だ。 そして場のカードの数字は1なのでこれで手札を出し切って上がりとなりこのゲームは終わる。
ふと千秋を見れば期待と不安の入り混じった表情で俺の顔を見上げている、おそらく上がる事の出来る手札を持っているのだろう。 このゲームは誰かがマイナス50点になるまで続くのでこれで終わってもまだ続くのだが……。
俺は山札からカードを引く……出せるカードがあるなら出さねばならないとは説明されていないので別にルール違反ではない。 もちろん、こんな事をやる奴なんているはずもないので当然だが。
「やった~上がり~~!」
千秋が嬉しそうに3のカードを出すのを良かったと思う反面、少しの罪悪感も感じていたのだった……。




