シーン8
――7月26日――
夏休み……と言うか、長期の休みに入ると多少は起きる時間が遅くはなるものの、昼近くまでベッドの中という事もない。 いつもより一時間くらい遅く起きた後に朝食を摂ってから宿題を始めるのは、小学生の頃からの習慣だ。
「……さて、どうするかな」
今日の分を済ませて携帯の時計をみると十時を少し過ぎたところだった、今のところ予定はなかったのでとりあえずテレビを付けてみると、液晶のモニターにいきなり不気味な怪物が映った。
概ねニンゲンの形でありながら昆虫めいた姿と体色のそいつは……。
「……こいつは確かバルサン星人か……そっか、再放送か……」
母さんや父さんの子供の頃からシリーズが続くこの特撮巨大ヒーロー番組は、俺も良く視ていた。 中学生にもなって進んでみるようなものでもないが、ちょっとした暇つぶしに視て悪いものじゃない。
その時、ノックと共に「せ~や~~」という立夏の声が聞こえたので、俺は彼女を招き入れた。
「……何してるの……ってテレビかぁ。 あ! これってウルトラガイだよね?」
「ああ、テレビを付けたらやってたんだよ」
立夏は「ああ。夏休み恒例のアニメや特撮の再放送だね」と言いながら俺のベッドに腰かけた。
立夏や春香もこのウルトラガイは知っているし好きな方だ。 どうも、俺が男の友人と話ていたのを見て少し興味を持ったらしい、ちなみに俺も女の子向けのアニメとかは視たし、それで立夏達と話もした。
互いに影響されたというのもあるだろうが、小学校の低学年の頃はまだ男の子向けや女の子向けという事をあまり意識する事がなかったからだろう。
このバルサン星人の回のストーリーは、不幸な事故で母星をなくした数十億の彼らが地球へ移民にやって来る。 最初は話し合いで解決しようとするものの、地球が受け入れてくれないと分かると力に訴えてきたので、ウルトラガイがそれを撃退するというものである。
「それにしてもさ? 巨大化して襲ってきた一体は仕方ないとしても、宇宙人の宇宙船攻撃して無抵抗なヒトらまで殺す事はないんじゃない?」
「……まあ、でも数十億のバルサンが巨大化して襲ってきたらひとたまりもないしなぁ……」
小さい頃視た時には悪い宇宙人が倒されて良かったと思っただけだが、確かに彼らとて被害者だし、ずっと宇宙を放浪していれば早く新しい星で落ち着きたいと思うのも分からないわけではなかった。
それに交渉役の星人が独断で暴走しただけで、あるいはまだ話し合う余地が残っていなかったわけでもない可能性だってあるだろう。
しかし、だからと言って地球だって侵略されるわけのはいかないし、ウルトラガイの行動も間違ってはいないと思う……と言うか思いたい。
「難しいよねぇ……」
「ああ……」
たかだか子供向け番組なのだが、ニュースで見る現実の移民問題を思うと、まるでこの番組に製作者が現代を予言したのではと思ってしまう。
「何が正解かなんて、そんな事は簡単に分かるもんじゃないだろう……あるいは人間には永遠に分からないものだってあるかもな?」
「うん、そうだよねぇ……」
そう言った立夏の表情がひどく深刻そうに見えたが、それも一瞬ですぐに元の明るい立夏になっていた。




