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シーン5


             

 


                   ――7月9日――


 昼休み、弁当も食べ終えて春香や立夏とのんびり雑談をしていると、「そういや、お前ら夏休みはどっかへ行くのか?」と快斗が聞いてきた。

 「夏休み? いや、そんな予定もないが……」

 「おいおい……マジか?」

 快斗の驚きと呆れが混じった声は、少しオーバー過ぎに聞こえた。

 「あのなぁ……せっかく立夏ちゃんが帰って来て最初の夏休みだぞ? 何のイベントもなしなのかお前は?」

 「イベント?」

 「イベントって……?」

 快斗の力説に春香と立夏は不思議そうに顔を見合わせる。 俺もすぐには分からなかったが、快斗の事だから……。

 「あのな……イベントとか、お前のやってるゲームじゃないんだぞ?」

 この言葉で二人も分かったらしいのは表情で分かる。

 ゲームの場合転校生がやって来るなどして主人公の環境が変化してからスタートする場合が多い、つまり立夏が帰って来たのが俺にとってのそれだと言いたいのだろう。

 「いやいや、お前の置かれてる環境はまさに美少女ゲームだぞ?」

 言いたいことは分からないでもない、幼なじみとはいえ他の連中と比べて仲良くやっていけてるとは思う。 しかし、俺はゲームの主人公ではないし立夏達もヒロインではないだろう。 

  だが、直後にそんなイベントを起こしそうな人の存在を思い出していた。

 「穏やかで優しいお隣さん、元気な女の子の同居人……」

 「わたし……?」

 「同居人……まあ、ボクか……」

 「自分に懐いてくる可愛いらしい妹、それにあれこれ面倒を見てくれる頼りがいのあるお姉さん……これだけの女の子に囲まれてどこが主人公じゃないってんだ?」

 いや、まぁ……そう言われてしまえば言い返せないが……。

 「じゃあ、晴夜君はそのうち、わたし達の中から一人を選んで恋人になるのかなぁ?」

 そう言って俺の顔を覗き込んできた春香の顔は少し意地悪そうなものだ。 春香自身は美少女ゲームはやらないがある程度の知識はあるから、こういう風に揶揄ってくるのだろう。

 「おいおい……冬子姉さんとは十は歳が離れてるし千秋は従妹だぞ? それに……」

 言い切る前に聞こえた「じゃあ、ボクや春香ちゃんは?」という立夏の声が妙に真剣だったから、俺は思わず顔を立夏の方へと向けてしまう。 俺に見つめられた彼女は、「……あ、え~~と……」と困った風に頬を掻いた。

 「……俺にとって二人は大事な親友だよ、これまでもそうだったし、これからもそれは変わらない……」

 俺の答えに立夏はがっかりしたような表情をし、「……だよねぇ」という春香の声も残念そうに聞こえた。 その意味をまったく理解出来ない程に俺も鈍感な男ではなかったが、それも自意識過剰なんだろうと心の中で言い聞かせる事にした。

 「……親友……か」

 揶揄う雰囲気の消えた友人の声に顔を上げると、その表情は俺を咎めるかのようなものだった。 友人になってから初めて見たように思う表情は、次の瞬間には溜息を吐き呆れへと変わった。

 「……主人公って奴はな、だいたいはそういう風に言うんだぜ?」

 

 

 放課後、部活を終え快斗と瑞穂さんが帰った後、俺達は部活顧問の冬子先生こと冬子姉さんに言われて部室に残っていた。

 「夏休みになったらみんなで海に行くぞ!」

 冬子姉さんが宣言するのに、「ええっ!?」と驚きの声を上げたのは千秋だけだった。 俺も驚いたと言えば驚いたが、それ以上に予想通りだったというのが本音だった。

 おそらく……いや、間違いなく春香と立夏も俺と同じなのだろう。

 「……むぅ? お前らリアクションが薄いな……?」

 「いや、姉さんの事だから何か言い出すとは思ってたし……」

 俺が言うと立夏達もその通りだという風に頷くので、「む……そうか」と顔を顰めた。

 「ぶ~~! ひょっとして千秋だけ分かってなかったの~!?」

 今度は千秋が不機嫌そうに口を尖らせるが、実年齢より幼い容姿の千秋の場合はそんな仕草も可愛く見えてしまう。

 「みたいだな?」

 なので少し意地悪い言い方をすると、「ぶ~~~!」と予想通りに頬を膨らませる従妹の少女だ。

 「……まあまあ千秋ちゃん……それにしても、どうして海になんて?」

 そんな千秋を宥めてから姉さんに尋ねる春香。

 「妙な事を言うな、夏と言えば海しかないだろう?」

 別に山という選択肢もあるはずなのだが……まあ、そこを気にする姉さんでもないからいいのだが。

 「具体的にどこに行くかとか細かい事はこれから決めるが、とりあえずそのつもりでいてくれ」

 少し一方的な言いようにも聞こえるが、姉さんは決して俺達に無理強いする事はない。 同時に、俺達が喜ぶと思いこういう事を提案をしているので、本当に都合が悪くない限りはみんな乗ってくると信じているのだ。

 だから反対意見が出ず、寧ろ全員が嬉しそうにあれこれ話し始めた。 なので、この日は家に帰るのがいつもより少し遅くなった。 



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