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シーン21


            ――5月2日――

 

 冬子姉さんが「むぅ?」と渋い顔で見つめる先にあるのは、遊園地の入口に並ぶ長蛇の列だ。

 「予想はしてたが……これは流石に多すぎだろ?」

 「しょうがないよ、冬子姉ぇ。 だってゴールデン・ウィークだし……」

 この近辺では一番大きく、乗り物やアトラクションも充実しているのがこの遊園地だから、寧ろこれくらいが当然なのかも知れない。

 「これ……入れるまでどのくらいかかるの~?」

 千秋も流石に少し嫌そうな顔になっているな。 実際のところ、ひょっとしたら入場するだけで一時間近くは掛かるか……?

 そう見積もって言ってみる。

 「だが……ここまで来た以上は何も遊ばずして帰るわけにはいかん!」

 「い、いや……みんなで美味しいごはんとか食べて帰ってもいいと思うけど……」

 春香もこの人ごみで楽しめるかどうか不安そうだ、実際これじゃ入園してもどれだけのアトラクションで遊べるか分からんしな……。

 「ならばお前達はそうするがいい! 私は一人でも行くからな!」

 子供めいた駄々を捏ね始めた……普段はプライベートでも”冬子先生”は多少は意識した振舞いなんだけど、今日は100パーセント”冬子姉さん”だな、これは。

 俺がやれやれという風に春香達を見ると、同じような顔でみんな肩を竦める。 もちろん冬子姉さんを残して帰るわけには行かないから、この長蛇の列に並ぶしかない。

 それでもまだ不満そうな最年少の少女に、「諦めろ、千秋……」と彼女手を握って歩き出した。


 案の定というか中は中で歩くのにも苦労するくらいで、人気のある定番アトラクションは早々に諦めるしかなかった。 それでもいくつかのアトラクションを楽しんだ後、最後にどうにか観覧車には乗れた。

 四人乗りのゴンドラに俺と姉さんと千秋、立夏と春香は二人で乗る事になった。



 「……ねえ、立夏ちゃん」

 「ん? どうしたの?」

 周囲の世界から隔離されたかのように感じるゴンドラの中で、向かい合って座る立夏ちゃんが戸惑っているのは、きっとわたしの表情が真剣なものだからだと思う。 

 正直に言ってこの場で言うべきかどうかはまだ少し迷ってはいたんだけど、こういう風に二人きりになれたんだからやっぱり言っておくべきだと私は覚悟を決めた。

 「……立夏ちゃん、わたしね……晴夜君の事が好き……もちろん一人の男の子としてだよ?」

 立夏ちゃんは一瞬キョトンとなってから、「えぇぇえええええええっ!!!?」と大声を上げた。

 「そ、そそそそれって……せーやに告白するって事っ!?」

 立夏ちゃんのその反応からは彼女の方は晴夜君をどう思ってるのかは分からない。

 「ううん……それはまだ出来ないよ。 だって晴夜君の心にはまだ四季ちゃんがいるし……それに抜け駆けはフェアじゃないしね?」

 「四季ちゃんに事は分かるけど……抜け駆け?」

 わたしはそれには答えずに「立夏ちゃんは晴夜君をどう思ってるの?」と聞いた。

 「へ? ぼ、ボク!? いや……ボクは……その……」

 好きとも幼なじみだとも即答しない……やっぱりねと思う。

 わたしは考えた末に、みんなの晴夜君に対する気持ちを確認する事にした。 そしてそれが終わってから彼に気持ちを伝えようと思う、もしみんなが彼の事を好きだとしてもだ……。

 それで立夏ちゃん達も告白し、晴夜君がわたし以外を選んだとしてもその子を恨んだりは絶対にしないつもり……逆にわたしが彼と恋人になって誰かに恨まれても、それは仕方ないと思う。

 でも……そんな事はないだろうとわたしは信じている、わたしの大好きな人達はお互いの事が晴夜君と同じくらいに大好きなはずだって信じているから。

 「今すぐじゃなくていいよ? でもね、出来れば立夏ちゃんも自分の気持ちと向き合ってほしいの……」

 「ボクの気持ち……?」

 立夏ちゃんは自分の胸に右手を当てた、それで彼女もまったく自覚がないというわけでもないのが分かった。

「……うん、分かったよ春香ちゃん……」

 まだ戸惑っている声だったけど、立夏ちゃんはそう答えてくれた。

 ふと気が付くとゴンドラが頂上付近に到達していた、少し前まではこの時間はもう暗くなっていたように思えてたけど、今は夕焼けのオレンジ色が街並みをとても幻想的に染めていた。

 春という季節が終わりに向かい、そして夏がやって来るのもすぐなんだなって、わたしは頭の片隅で思っていた……。

 


                     春編 終


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