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シーン20


 一時間後の永遠さんの家の居間には、幼なじみの全員が集まっていた。 家主の永遠さんは邪魔にならないようにどこかへ出かけて、アインちゃんだけが残っている。

 「……それでいったいどうしたというんだ春香?」

 冬子さんだけでなく、立夏ちゃんや千秋ちゃん、それに晴夜君も急な呼び出しに困惑している……確かに迷惑だったと思うけど、わたしにしてみたら決意が鈍る前に実行したかった……。

 わたしは無言で立ち上がるとみんなの顔を見渡す、やっぱり怖い……特に晴夜君はいったいどんな反応をするんだろう……怒るのかな……。

 わたしは深呼吸して気持ちを落ち着かせると口を開いた……。

 「えっと……ずっと黙っていたんだけど、わたし……四季ちゃんに酷い事を言っちゃっていたの……」

 みんなの顔が驚きに変わる……わたしは自分の嫉妬心から四季ちゃんに何を言ったのかを説明した……そして言い終わった後に俯いたのは、晴夜君達の顔を見るのが怖かったから……。

 しばらく誰も何も言わなかった……。

 「……そうか」

 最初にそう言ったのは冬子さん、声からは怒ったりしている様子はない。

 「お前はずっとそれを一人で抱え込んでいたのか……」

 冬子さんの言葉を遮るように「どうしてだよっ!?」という晴夜君の声が響いた。

 「晴夜君……」

 「四季は何も悪くないだろ? なのに何で……」

 立ち上がった晴夜君は、わたしに対して怒っているというよりは信じられないという驚きの声に聞こえる……彼にはその時のわたしの不安は理解しにくいのだろう……。

 「やめてよ、せーや! 春香ちゃんだって悪くないよ……だってボクも……」

 「そうだよ……千秋だって晴夜兄ぃを取られちゃうかもって思っていた……」

 立夏ちゃんと千秋ちゃんの告白に驚く、二人もわたしと同じ気持ちだったんだ。

 「そんな……だって俺は……」

 「晴夜、みんな分かってはいる。 例えお前が四季の恋人になったとしても春香達をないがしろにしないという事はな……だが、これは理屈じゃない感情の問題だ、ましてあの時はみんな今よりもずっと子供だったんだからな?」

 両方の拳を握りしめて振るわせる晴夜君。 きっと自分にとって大事な友達が同じくらいに大事な四季ちゃんに負の感情をぶつけるというのを信じたくないんだろう。

 「……ごめんなさい晴夜君……みんなも……ごめんなさい」

 だから、わたしには謝るしか出来なかった……。

 「……もういい、春香。 誰もお前を責めはしない……そうだな?」

 立夏ちゃんと千秋ちゃんは頷いた……でも、晴夜君は……。

 「分かってる……春香が悪いわけじゃない……でも、それじゃあ悪いのは四季なのかよ……」

 その晴夜君の頭を冬子さんが不意にポカリと殴ったから、わたしは呆気に取られてしまった。

 「ね、姉さん?」

 「四季も悪くはない……というか、喧嘩両成敗という事だと分かれ!」

 冬子さんの喧嘩という日常的な表現が、この時のわたしには何故か不思議な言葉に感じられた。

 「どんな仲良しな者同士でも些細な事で……いや、仲が良いからこそ喧嘩をするのだ、なぁなぁな付き合いでなく誰かと真剣に向き合うとはそういう事だ」

 確かに殴り合いとかまではないけど、わたし達の間でだって喧嘩はあった。 でも最後には仲直りはちゃんとしていた。

 そうだ、四季ちゃんがあんな事にならなければ、きっとこれは良くあった口喧嘩のひとつになっていたはずなんだ。

 「どっちが悪いとかではない、だがな? このままでは四季と春香は仲直りも出来ずにずっと喧嘩をし続けるのだぞ晴夜?」

 「そんな事を言ったって……」

 「そうだ、春香は四季に謝る事も出来ないし、四季も春香に謝れない。 だからお前が決めろ、お前は四季の”婚約者”なのだろう? そのお前なら四季がどうしたいかと分かるはずだ?」

  

 

 俺には分かっている……あいつが、四季が春香の事を嫌いになるわけがない。

 だって四季はいつも春香の……いや、みんなの事を楽しそうに俺に話していたのだから……そんなあいつがきちんと謝っている春香を赦さないはずはないんだ。

 でも……俺でいいのか?

 あの日、俺は待ち合わせの場所に遅れそうになって……でもその途中で道路の反対側に四季がいて……きっと俺を心配して来てくれたんだろうと思う。

 その時に俺が焦って道路に跳び出さなければ……四季は俺を庇って死ぬ事なんてなかったはずなのに……。

 確かに俺は四季を裏切らないために”婚約者”でありつづけないといけないけど、そんな俺にあいつの代弁者になる資格があるのか……?

 不意に右足に暖かくフワフワした感触を感じて見下ろせば、アインの紅い瞳と目があった……そしてその口が何か言葉を発してでもいるかのような動きをした。

        ――あなたでなければダメなんですよ――

 ありえないが、俺にはアインがそう言ったように思えた。

 「……ごめんな、春香……」

 「晴夜君……?」

 そうだ、資格があるとかないとかじゃない、きっと四季は春香が救われることを望むはずだ。 だったら、その望みを叶えるために俺が出来る事があるならしなければならないはずだ。

 「あ……ごめんなさいか? 四季ならきっと、お前にそう言うと思う……それに俺も、ついカッとなって……」

 「ううん……晴夜君の気持ちもわかるから……」

 その時、俺と春香の頭の上に同時に姉さんの手が乗せられた。

 「それでいいんだ。 一時の感情で争ってしまってもな、少し頭を冷やせば簡単に解決出来るというのが私達の絆という事だよ」

 本当にその通りだと思う……そして、やっぱりこの”姉”にはまだまだ叶わないなと、俺は本心からそう思った。


  本当に良かったと僕は思った。 僕のしたことで春香ちゃんが傷つき、その挙句にみんながバラバラになってしまったら悔やんでも悔やみ切れないよ。

 話は終わったけどみんなはまだ帰っていない、鍵も持っていないから家主が帰ってくるまではこの家を留守には出来ないし、何より永遠さんにお礼も言いたいんだろう。

 『それにしても……やっぱり永遠さんてすごい人だよね?』

 それは間違いなく本音だったんだけど、アインさんは「いえ、そんな事はありません」と否定した。

 僕とアインさんは”心の声”で会話出来るので、僕の声はもちろんアインさんの声も晴夜君達には聞こえてはいない。 

 「すごいのはあの方ではありません。 四季、あなた達の絆があったからこそ解決出来た……それだけの話です」

 『僕達の絆……かぁ……』

 「ご主人様の知識や経験、それに魔法の力はあなた達を手助けする事は出来るでしょう。 でも、それは本当に手助けに過ぎないんですよ?」

 互いに手を伸ばし合っても僅かに届かない……その僅かな距離を届かせるような事は出来ても、そもそも本人達が手を伸ばそうとしていなければ助けようがないんだアインさんは言う。

 「今回の事にしてもそうですね? 春香さんはあなたに謝ろうと心から願っていても、その方法を知らなかった……だからご主人様はその方法を教えただけです」

 そう、そしてその方法をとったとしても赦されるかどうかは晴夜君達次第なんだから……って考えて僕はふと思う、そもそも僕は春香ちゃんを責める気はないんだから、永遠さんの魔法で僕と春香ちゃんが直接話をすれば良かったんじゃ……?

 それを聞いてみると、「まあ、それもひとつの手ではあります」と認めた。

 『じゃあ、何で?』

 するとアインさんは少し考えてから、ちょっと意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 「教えてあげるのは簡単ですが、ここは自分で考えてもらいましょう?」

 『ええ!?』

 「ヒントは教えましょう、最短距離で目的地へ着くことが必ずしも最良ではない……そういう事です」

 僕は「訳が分からないよ……」とアインさんに言ったけど、彼女はそれ以上は何も言ってはくれなかった……。

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