シーン16
病院の待合室にはみんなが集まっていた、そう……晴夜君を含むみんなが。
「晴夜兄ぃ……ほんとうに大丈夫なの?」
今にも泣きそうな千秋ちゃんに「ああ、全然平気だよ?」と明るい笑いを返す晴夜君には軽い擦り傷以外の外傷は全くないし、病院の検査でも異常はなかったみたい。
あの車が加速したのは高齢の運転手がアクセルとブレーキを間違えて踏んだのが原因だった……晴夜君を跳ね飛ばしコンビニに突っ込むくらいの勢いだった……はずなのに、晴夜君を含めて店内にいた人達、運転手にも怪我らしい怪我はまったくなかった。
到着した警察や救急隊もどうなっているんだ?と首を傾げるくらいに奇跡的な状況だったの。
「まったく……心配させるなよ……」
冬子さんだけじゃない、わたしがした電話で幼なじみのみんなが駆け付けた時の表情はまるで親しい人物が亡くなりでもしたかのようなものだった。 もちろん快斗君や瑞樹ちゃんもとても心配そうだったよ。
晴夜君が車とぶつかった……それはどうしても四季ちゃんの時を思い出させてしまうから……わたしも含めて。
「大丈夫だよ、こう見えて俺は頑丈だ……まあ、ぶつけられたのが俺で良かったよ」
「晴夜君……?」
「せーや?」
わたしと、おそらく同じ事を思った立夏ちゃんが彼の顔を見つめる。
自分が死んでも良かったとか考えているのではないか? 四季ちゃんのところへ逝きたがっているのではないか?……そんな疑念だった。
「晴夜……どういう意味だ?」
冬子さんが問うその表情も険しい。
そこへ「……だな?」と言ってきたのは快斗君だった。
「男たるもの女の子を危ない目に会わせちゃいけないからな?」
「ああ、そういう事だ」
にやりと笑う快斗君に晴夜君も笑い返した、本当にそういう事なのかな?
確かに晴夜君でなくても危険な目に会ったのが自分だけで済んだのは良かったって思うのは分かる、逆の立場ならわたしだって晴夜君や立夏ちゃん達が巻き込まれなくて良かったとは思うに違いない。
「快斗も偶には良い事を言う……でもですよ晴夜先輩!」
瑞樹ちゃんが身を乗り出して晴夜君を睨んだ、その迫力に「な、なに?」と少したじろいでいるみたい。
「女の子を、春香先輩達を心配させて良いって事もないんですからね! そこんとこは決して忘れないように!」
「そうだよ! 千秋もすっごく心配したんだからね!」
「……え?……ああ、ごめんな……」
素直に謝る晴夜君を見ながら冬子さんは大きく息を吐いた。
「……まあ、別にお前が悪いわけでもないからな……ともかく今日はもう家に帰って安静にしていろ。 ゲームはまた日を改めて買いにくればいい」
もちろん全員が頷いた。
「千秋や当麻達は私が車で送って行くから、春香と立夏は晴夜を頼む」
わたし達はもちろんと頷いた。
「あ、俺達は歩いて帰りますからいいですよ先生」
「そうですね、私達より晴夜先輩を送ってあげてください」
冬子さんは少し考えた後に、「すまんな、二人共……」と感謝の言葉を述べた。
家に戻ったわたしはベッドに寝そべりながら「……動けなかった……」と思わず呟いていた。
晴夜君が危ないと思った時に咄嗟に叫ぶ事こそ出来たけど、四季ちゃんのように晴夜君を助けようと動くことが出来なかったのだ……。
確かに咄嗟で動きようもなかったのかも知れない……でも、もしも動けていたとしても跳び出せていたのかも分からない。 だって、わたしだって自分が死ぬのは怖いから……嫌だから……。
四季ちゃんだってきっと自分が死ぬつもりでもなかったと思う……というよりもそんな事はきっと考えていなかった、ただ晴夜君を、自分の婚約者の男の子を助ける事しか頭になかったんだと思う。
「四季ちゃんには出来た……でも、わたしには出来なかった……」
わたしは自分の気持ちに気が付いていた……そう、わたしは晴夜君が好きなのだ、幼なじみとしてではなく一人の男の子として……。
でも……わたしには四季ちゃんには出来た事が出来なかった、今の気持ちを言葉にするなら敗北感なんだろうと思う。




