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シーン10


                 ――4月17日――

 

 雨も上がりすっきりした空の下を、今日も今日とて三人で学校へ向かっている。

 「……え? じゃあ、晴夜君と立夏ちゃんは家に帰ってからもゲームをやってたの?」

 昨日の家でのことを話すと春香は予想通りに驚く、そりゃ部活で十分にやったんだから家に帰ってまでやってるとは思わんよな。

 「うん。 なんかボク的にはまだまだやり足りなくてさ~」

 そう言って笑う立夏を見つめる春香の瞳が、一瞬だが険悪なものになった気がした。

 「……春香……?」

 「ん? どうしたの晴夜君?」

 しかし、この時にはすでにいつもの穏やかな茶色い瞳だった。 気のせいだったのかとも思いながら、「……あ、いや……何でもない」とだけ言った。

 いつも穏やかで笑顔を絶やさない春香だが他人に対して負の感情を抱かないとは考えない、春香は美少女ゲームのキャラではなく感情を持った生身の女の子だからだ。

 それでも俺達幼なじみの誰かに対してそういう感情を向けるとは思えない、あるとしたらよほどの理由があるはずだ。 だが、俺はいつも春香達といるのだから二人の間にそんな”余程の事”があるなら気が付くはずだ。

 しかし、何かが頭の中で引っかかってた。

 「晴夜兄ぃ~」

 そこへ聞こえた千秋の声、どうやらいつも通りにここからは四人で登校になったか。

 「ねえねえ立夏姉ぇ、今日は何をするの?」

 「部活の事? そうだなぁ……昨日とは違うやつをいくつか持ってきたけど……まあ、みんなで集まった時に決めればいいんじゃない?」 

 そういえば今日は学生鞄の他に小さなリュックを立夏は背負っていた、おそらくはその中身がそれなのだろう。

 ちなみに、千秋は部活動後は冬子姉さんが責任をもって家まで送って行くという事で許可が出てらしい、なので千秋の都合の悪い時はもちろんだが、姉さんが都合の悪い時も参加は不可だ。

 俺達にしても自分の都合を優先していいそうだ、部活動とはいえ立夏の趣味の延長線上だと言ってもいいし、あまり俺達を縛り付けるのを姉さんも立夏も良しとはしないのだろう。

 とはいえ俺は可能な限りは参加しようと思っていた、せっかく立夏と姉さんが立ち上げたのであるから、短期間で廃部と言うのは避けたい。 それに何より、仲間と集まってわいわいするのは楽しいと感じていたからだ。

 ただ……どうしてその集まりに四季はいないのだろう……?

 いや、それは簡単だ、俺がこうして生きているからだ……それも違うか、あの時に俺がちゃんと周りも見ずに跳び出しなどしていなければ四季も死なずに済んだのだから。

 「……晴夜兄ぃ?」

 千秋に呼ばれて俺は我に返った。

 「……どうした?」

 「どうしたって……今、し……ううん、何でもない……」

 見れば春香と立夏も心配そうに俺を見ている、どうやら暗くなりかけた気持ちが顔に出てしまっていたようだ。

 「悪い……でも何でもないよ?」

 笑ってそう言ってみせたが、それでも三人の表情はしばらくは曇ったままだった。



 その日の昼休みに、わたしは立夏ちゃんに呼ばれて屋上に来ていた。 女の子だけの話があるって事で晴夜君はこの場にはいない。 

 「……それで立夏ちゃん何の話なの?」

 わたしが聞いてもしばらくは言おうか言うまいか迷っていた風だったけど、やがて覚悟を決めたように口を動かす。

 「あのね……せーやってやっぱりまだ四季ちゃんの事を引きずっているの?」

 多分そうだとは思ってた。 本人は無自覚だったと思うんだけど、きっと立夏ちゃんも「……どうして四季は……?」という晴夜君の小さな呟きが聞こえていたんだ。 

 「……多分ね、わたしも晴夜君に直接は聞いてないから……」

 聞けるはずはなかった、それはきっと彼を傷つける行為だろうと思うから……四季ちゃんの事について触れたらきっとつらい気持ちになるだろうから……。

 「ずっとせーやの傍にいた春香ちゃんが言うなら、そうなんだろうな……」

 立夏ちゃんの言う通り、彼女が転校して、四季ちゃんが亡くなった後はわたしが晴夜君の隣にいた。

 「ボクね……ずっと春香ちゃんに悪いと思っていたんだ……」

 「え?」

 実は立夏ちゃんは四季ちゃんが亡くなった時、彼女のお葬式に出席するために両親と一緒に一度帰って来ていた。 その時に自分の知っている晴夜君からは想像もつかないくらいに沈み込み、ずっと自分を責め続けている彼を見て何とかしてあげないとと思ったみたい。

 もちろん、自分だけじゃなくてわたしや冬子さん……それにまだ幼いなりに千秋ちゃんもそうだったんだと思う。 でも自分はお葬式が終わったら帰らないといけない、彼の傍で何かをしてあげる時間はなって言った。

 「だからね、こっちに帰ってくる時は少し怖かった……せーやがまだあの時のままなんじゃないかって……まあ、何年も経てばいくらなんでも……ってのが当たり前なんだろうけど……」

 「そうだね……それに晴夜君もそんなに弱い男の子じゃないから……」

 「うん……でもさ、やっぱりそれって春香ちゃんがずっと傍にいてくれたからだと思うんだ? 冬子姉ぇもだろうけど、きっと春香ちゃんがせーやを支えていてから……」

 買いかぶり過ぎだよと思う、わたしは本当に傍にいただけだった……晴夜君の為に何かをしてあげられることはなかった。 ひょっとしたら、わたしのせいでいなくなってしまった女の子の事で悲しむ晴夜君に対して何も……。

 その思考はドンドンと後ろにある出入り口のドアを叩く音に中断する。

 「おーい、春香に立夏! 入っていいか?」

 わたしは立夏ちゃんは顔を見合わせた後に、「うん、いいよ?」と答えると晴夜君が入ってくる。 女の子同士の話だって言ったから気を遣ったんだろうな、晴夜君も結構律儀なんだから。

 「どうしたのせーや?」

 「どうしたもこうしたもな、もうすぐ昼休みが終わるから様子を見に来たんだよ」

 あ、もうそんな時間だったんだ……屋上もチャイムは聞こえるけど時計はないんですよね。

 「何の話をしてたんだ?……って言っても俺に言えないから屋上に来たんだよな……」

 「そうい事だよ、せーやには秘密……悪いけどね」

 晴夜君は分かりやすく、だろうな……って顔になった。 少なくとも、今はこれでいいと思う……晴夜君がまだ四季ちゃんとの約束を引きずっているとしても、それを私たちがどうにかしようもないのだから……。



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