シーン6
――4月15日――
俺の隣を歩く立夏が「ごめんね~付き合わせちゃって」と言ってきた。
「いや、別に俺も暇だったしな?」
昨日と違い今日は春香が放課後に用事が出来てしまったため、俺は立夏と下校する事になったのだが、その際にゲーム・ショップへ寄り道しようと誘われたのだ。
俺も何度か行った事があるその大型のショップにはコンピュータ・ゲームだけでなくトレーディング・カードゲームも売られたのは知っていたが、ボードゲームもあったのは気が付いていなかった。
「それでどうだったんだ?」
「品揃えはまあまあだったね、部活で使えそうなものも結構あったよ……」
楽しそうにそこまで言って、「……でもねぇ……」と表情を曇らせた。
「どうした?」
「……問題は予算……要するにお金だよねぇ……」
確かに中学生の小遣いで買うには高いものも多かったように思う。 この前やったカードだけでやるものならともかく、凝ったコマだのボードだのが入ってのるならそりゃ高くなるだろうな。
「ボクが好きでやる事だからそりゃボクがゲームを用意するのが筋なんだけど……」
言い出しっぺはどちらかというと姉さんだろと言うとすると、立夏が餌をねだる子猫めいた顔で俺を見ていた……つまりは俺に協力してくれという事だな、これは。
ゲームとかなら好感度アップの選択肢か何かな状況だが、残念ながらこれはゲームではないので……。
「無理! 俺は俺で買いたいものがあるの」
……と、バッサリと切り捨てた。
「え~~~~!? それってエッチなゲーム?」
「なわけあるかっ!!」
どうしてそういう発想になるんだと思っていると、「じゃあさ、さっき見てたゲームは何?」と疑いのまなざしを向けてきた。 立夏に付き合ったついでにテレビ・ゲームのコーナーも覗いた時の事だろう。
「あれは元十八禁ってだけだ、別にそういうシーンは入ってないぞ?」
「元ではあるんだね……」
ゲーム雑誌で見かけて興味を持ち快斗に聞いてみたところ、元のパソコン・ゲームは名作と言われてるらしいので俺もやってみようかと考えていたのだ。
「ホント?」
「ホントだよ」
この様子からすると立夏はボードゲームはやるがコンピュータ・ゲームの方はあまり興味はないようだ。 まあ、両方やってたら小遣いがいくらあっても足りないような気もするから当然か。
「……でもさ? せーやだって男の子なんだし、そーゆーのに興味津々でしょう?」
「……ない……とは言わないがさ、別にそこまであるわけじゃない……」
実際のところは年頃の男だし興味は十分にあるけど、女の子……それも幼なじみの前で正直に言えるわけもない。
「ふ~~ん? まーそういう事にしといてあげるね?」
だが、幼なじみだけにその辺はすっかり見透かされているようだった。
そんなこんなで家に到着、玄関に入り「ただいま……」と言いながら靴を脱ぐ。 その後に立夏も「たっだいま~~」と明るい声で続く。
「ん~~?」
「どうしたんだ?」
「いやさ~? 今更な気もするけどさ、昔はお邪魔します~だったせーやの家に今はただいま~っていうのもさ? ちょっと変な気がしてさ?」
その立夏の気持ちもわかる気がした。
「何だかさ? せーやの家にお嫁さんに来たみたいじゃない?」
「はぁ? まったく何を言い出すんだよ……」
それはそれで分からない理屈ではないが、中学生の言う事でもないだろう。 それともまだ中学生だからこそ、そういうものに憧れもするのだろうか? いずれにせよきっと男の俺には分からない心理なんだろう。
「あらあら? 立夏ちゃんが晴夜のお嫁さんなら大歓迎よ?」
そこへ出てきたのは俺の母さんだった。
「へ? そ、そうですか? あははは……」
「母さんも何を言うんだか……てか、立夏も照れるなっての!」
冗談で言い合っているだけのは分かるが、それでもこっちとしては反応に困る。
なお、仮に本気だったとしたらもっと困る……と変な事を考えてしまった。 俺と立夏は言うなれば親友というべき間柄だ、本気なんて万が一にもあり得ないはずだ。
「そう? 将来どうなるかなんて分からないわよ?」
立夏と俺が結婚なんて絶対にありえない……って言うと、それはそれで立夏に女の子としての魅力がないと言う風にもとれてしまうし失礼か。
「……そうかも知れないけどさぁ……」
だから、そう適当に言葉を濁し、さっさとこの場を立ち去る事にしたのだった。