シーン3
――4月12日――
ベッドから降りてカーテンを開いた私は、窓の外の紅い瞳と目があう。
「……アイン……ちゃん?」
お隣さんである晴夜君の家の更に隣に住む時坂 永遠さんのところの黒猫が、窓の外の屋根の上に立っていた。 わたしの事をジッと見つめてくるアインちゃんは、何かを言いたそうに思えたけど、猫の気持ちなんて当然分からない……。
どうしいのか分からないでいると、「アイン!」と永遠さんの声がし、アインちゃんはクルリとわたしに背を向けて去っていく。
どうしてかは分からないけど、わたしは慌てて着替えて部屋を跳びだして家の外へ出るとアインちゃん姿を探していた。
「……誰を探しているんだい?」
顔だけをわたしに向けて声をかけてきた永遠さんの前方立ち塞がるようにアインちゃんが立っていた、それは、まるでアインちゃんがわたしが来るまで永遠さんを引き留めてくれていたようにも思えてしまう。
「……え……あ、え~と……アインちゃんが家の屋根の上にいて……それで……」
こんなんじゃ全然分からないだろうなと思ったんだけど……。
「ああ、そうかい。 ふふふ、この子もそういうお節介なところがあるからねぇ……」
……と返ってきて、わたしの方が分からなくなった。 お節介ってどういう意味なんだろう? このおばあちゃんは時々こういう不思議な事を言う人だ。
「……ねえ、春香ちゃん」
「はい?」
「探し人というものわねぇ、案外近くにいる人を見落とすものなのよ?」
最初は何のことを言っているのか分からなかったけど、少し考えてボードゲーム部の部員勧誘の事だと分かった。 でも、どうして永遠さんが知ってるんだろうと疑問に思ったけど、もしかしたら晴夜君がこのおばあさんに相談したのかも知れない。
「悪いと思って遠慮しちゃう……あるいは良く知っているせいで”この子には誘っても無理だよな”と最初から諦めてしまう……そういうのはないかい?」
永遠さんの笑顔は、まるでもう答えを知っているようにも見える。 もちろん、わたし達だって快斗君とか学園の友達の事を話す事もあるけど……。
「……ん?」
そういえば快斗君にはまだ話をしてなかったなと気が付く、真っ先に名前が出た気はするんだけど、「あいつはそういうの興味ないだろ?」って晴夜君が言ったから完全に選択肢から抜けてた。
「どうも分かったみたいねぇ?」
「はい! ありがとうございます、永遠さん」
わたしがお礼を言うと、「年寄りのお節介だよ? 気にしなさんな」って穏やかな顔を返してきました。
縁側に腰かける永遠さんを見上げながら「これでうまくいくといいな……」と僕は呟いた。
晴夜くん達が今何をしているのかを永遠さんから聞いた時に思った事は、立夏ちゃんがそんな趣味をねぇ……だった。 とはいえ、僕が出来る事はないので陰ながら応援しているだけのつもりだったのだけど、その後も永遠さんは細かい状況を度々教えてくれたんだ。
本人達に聞けない事もない気がするけど、それにしても詳しすぎるし……まあ、永遠さんの事だから何かの魔法なんだろうなとは思うけど。
それで一週間近く経っても部員が集まらないで困っているらしいと知って、何とか出来ないかと聞いてみたら、快斗くんとかいうクラスメイトの事、でも気づくか気づかないかは晴夜くん達次第だからって笑って言われちゃった。
でもさ、僕としてはそれってちょっと意地悪な気がして、でも僕の声はみんなには聞こえないしどうしようもなくて困ってたら、急にアインさんが走り出したんだ。
「アイン?」
後から永遠さんの困惑の声を聞きながら『ど、どうしたの?』って尋ねたら、『ご主人様の扱いは心得てますよ?』って答えが返ってきた。
あとは知っての通り、アインさんが春香ちゃんを誘い出して追ってきた永遠さんと引き合わせたってわけ。
「まったく……アインにはかなわないわねぇ……」
「今回はあなたが少し意地悪だと思っただけですよ?」
このアインというヒトは永遠さんの師匠が与えてくれた使い魔って聞いたけど、どうもそういう風な関係にはみえない。 確かに永遠さんの事をご主人様って呼ぶんだけど、こうしていると永遠さんのお姉ちゃんみたいだった。
「でもね? あたしはただ単にあの子らが見落としてた可能性を教えてあげただけだからね? 上手くいくはどうかは本人しだいだよ?」
その言葉が僕に対してものだとはすぐに分からなかった。
『…………まぁ……ダメだったらダメでしょうがない……かな?』