シーン13
――4月6日――
玄関で大きなあくびをした時、「せーや、休みボケ?」と制服姿の立夏がやって来た。
「お前が遅いからだろうが……」
「しょーがないじゃん! 今日に限ってなんかうまく決まらなくてさ……」
髪の毛がうまくセット出来なくて支度に時間がかかったわけか、しかし結局はいつものツイン・テールなんだし多少乱れていても大して変わらないと思うが、言葉にすると大抵俺が文句を言われるので黙っておく。
長年、春香や千秋と付き合っていれば、理解は出来なくとも女の子とはそういうものだとは学習する。
「まあ、いい。 初日から遅刻はしたくないし、さっさと行くぞ?」
少し意地悪をして立夏を置いて行くそぶりを見せると、「……ちょ! ちょっとまってよ~」と慌てて追いかけてくる。
いつも通りに家の門の外で待っていた春香が、「少し遅いよ?」と言ってくると、俺は後ろの少女を指さして「こいつのせいだ」と言ってやった。
「……立夏ちゃんの?」
「ちょ……だから髪の毛が……」
表情からすると、それだけで春香は察したようだ
「じゃあ、しょうがないね」
「しょうがないのかよ!?」
俺がツッコミを入れると、「当然だよ?」と笑う春香。
「女の子っていうのはね、そういうとこは拘るんだよ? 晴夜君もまだまだみたいねぇ……」
肩を竦めながらわざとらしい溜息を吐く、春香も女の子だし立夏の味方なようだ。
そんなやり取りの後、俺達は誰からともなく学校へと向かう歩き出す。 三年前からずっと歩き続けてきた道を、今日はこれまでの二人ではなく三人に変化して歩く。
それは世界全体からすれば何も変わっていないに等しいのだろうが、俺達にはきっと大きな変化なんだろうと思えた。 そして、良いにしろ悪いにしろこれからも少しづつ何かが変化していくのだろう。
実際に俺達は一年後には高校生となり、更にさん年経てば大学へ進学か就職を選択しなければならない。 その時にはきっと春香や立夏とは別々の道を歩む事にもなっているかも知れない。
でも、それでもいい。 例え別々の道を歩もうとも俺達の幼なじみという絆は決して切れる事はないと信じている。
そう、この時はまだ、それでも俺達の幼なじみという関係だけは一生変わるものじゃないと思っていた……。
プロローグ編 終