落ち着かない時間
奏はふうと溜息ついた。
“大丈夫かな……”
一は、また武士の魂の手入れでもしているだろう。
無闇に出歩くなんて無いだろうから問題ない。
心配なのは総司だ。
彼は猫を思わせる気まぐれさがあって、退屈が嫌いらしい。
考えてみたら、二人の時代は教育なんて重要視されていない。
寺子屋なんて主に男しか居なかった。
……例外が居ない事も無かったが。
だから男女共学なんて寝耳に水だった筈だ。
聞いて目に見えて不機嫌になってしまった。
“今日は早く帰ろう”
何時も人より遅く帰ってるからそれはそのまま、10分だけ早く帰るとしよう。
そう決めた。
「花山?」
隣の席の男子が声をかけてきた。
「何?」
落ち着けないけれど、隙は見せない。
そんな自身の習慣に、今回は感謝する。
授業を上の空で過ごす訳にはいかない。
ダイさんに顔向けができないから。
「どうした?珍しく反応が……」
「鈍いでしょ、分かってる。ちょっと悩んでてね。見苦しくてごめんね」
「や、見苦しくなんかないって!なんか、あったんか?」
あったといえばあったのだが、それはここで言っても仕方がない事だ。
「うちにお客さんが来るもんだからね。晩ご飯何にしようかなって」
言えばきょとんとした目で此方を見た。
「え……?」
「人数がはっきりしなくてね?
折角だから温かいもの食べさせて上げたいんだけど」
ふうん、と零してにかっと笑う。
「優しいな、お前って」
「そう?」
「出前とかでいいんじゃね?」
「あの人たちの食欲半端ないからね……こりゃ炭水化物パーティになるかしら?」
二人して吹き出してしまう。
「そりゃすっげぇな。でも花山料理上手じゃん?」
ガンバレと拳を握って見せて彼は教室を出た。
爽やかな子だ。
確か、バドミントン部のエースだったっけ。
名前、は知らないけど。木田君だった筈。確か。
家庭科の調理実習の時に一緒になる事が結構あって、私の庖丁捌きに目をキラキラさせてたのは印象深かったっけ。
今日びの女の子って料理しないって子もそれなりにいるからなぁ。
教室に誰も居ない事を確認して、心でよし!と呟く。
前もって気になる場所は片付けておいたし、問題なし。
さっさと帰ろう!
教室を出る足取りは軽かった。