初めてのお留守番
休日が終わり、また学校が始まる。
私は無言で不機嫌に顔を顰める総司さんと
笑顔で送り出してくれる一さんを一度振り返ってから、意を決してドアを開けた。
ダイさんは、今日は半休。
午後から仕事に向かうらしい。
まあ、直ぐにゴールデンウィークなんだからまた暫くは一緒に過ごせるんだけど。
“……帰って来て2人が居なくなってたらどうしよう?”
ふと過ぎった考えが私の足を止めた。
引き返したい。
……いや。いや、待て。
出会いも突然だったんだ、別れもそうなるんじゃないか?
そんな予感はあるけれど、やっぱりさみしい。
さみしいけれど、本来2人は幕末の動乱を駆け抜けて来た人達なのだ。
この令和の世は、ぬるくてやっていけないんじゃないだろうか?
考えれば考える程に心が乱れて、ぐっと息を詰める。
「お別れが何時になったとしても、笑顔で居たいな」
じりじりする胸を抑えつつ、零した。
校門が目の前に聳え立つ。
現実を、現在を生きよう。
斎藤side
カナが学校に向かった。
この世界では男女の区別なく、貧富の境目は余りなく教育を受ける事が出来るという。
俺の時代では学問は男のもの。
少しでも賢いと、女は賢しいと言われて貶められた。
個人の趣味も、公共の風俗とやらを乱さなければある程度は自由で許されると言う。
まあ、俺のように小動物を好んで愛でる者も居て。
そういった事柄はそれは許される範疇だという。
おかしな目で見る輩はそれなりに居る様だが、あの当時よりマシなんだそうだ。
甲斐甲斐しく俺と総司の昼食や間食をカナが作り、
いんたーほんとやらが鳴っても相手をしないようにダイに言われた。
合鍵を持っているのはカナとダイだけ。
入ってくる者は居ない筈だ、との事。
「成程、俺達が応じなければ話しかけられる事もないな」
きっと色々話し込まれても、この世界の事はあまり分からない。
下手に応じればどこかしら不自然なモノが生じてしまい、却って相手を混乱させたりして迷惑をかけてしまうだろう。
……そうだ。
俺はふと総司を振り返る。
「総司も頼むぞ?」
釘を刺す。
「……うん」
朝が弱い総司はカナが出かけてしまうのが凄く嫌らしい。
学校に男が居るから、その不機嫌に拍車が掛かっている。
でも、カナが見ているからか返事をきちんとしている。
新選組でもその素直さがあったらもっと慕われたろうに……困った奴だ。
結局無表情のまま、総司はカナを送り出したのだった。
総司side
溜息が出る。
っていうか、がっこうとかいうのに通っている男どもがやに下がってるのを想像して。
バキ!
「あ……」
すとれす?発散とやらの為に貰った竹刀の握りを、握力だけで握り潰してた。
うん、兎に角ムカつく。
だってカナだよ?
あんなに凛々しくって可愛いカナと机並べて勉強できるだなんて、極楽じゃないか!
この世界は男女平等だって話だけど羨ましすぎる。
あっちだとそんなの無いしなぁ。
学問なんてやってる暇があったら働かないと生活が成り立たない、貧しさの中僕は居たから。
一だって一応武士だったけど貧乏で、僕と似たり寄ったりだったらしいし。
あ、武家だからって結構色々やらされてたらしいけどさ。
ここから、がっこうとやらは結構近いって聞いて。行こうとドアに向かった僕は、
「ダメだ」
一に遮られた。
「俺達は合鍵を持っていないし、おーとろっくの何たるかも分からない。
迂闊に動くと戻れなくなる。そうなると……」
カナが泣く
「卑怯だろ、それ……」
カナの事出されたら僕だってどうにも出来ない。
……結局、折れた。
「代わりに……付き合ってくれるよね?」
竹刀を構えれば、仕方なさそうに一が奥を指さした。
ダイやカナがきんとれしている場所の方だ。
「楽しませてよね」
手応えある相手との手合わせで、己を宥めるしかなかったんだ。