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浅葱の雨  作者: 亥天夢
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居候、ふたり

 幕末きっての剣豪二人。


その実、こうして一緒に居て思うのは……


部屋は幾つもあるけれど、総司さんは一さんと同じ部屋に落ち着いた。


2人の愛用の刀は脇差や短刀と一緒に同じ金庫に納められた。


2人共が鍵をそれぞれ持ち、室内だけで手入れを許された。


「勿論、食事にお邪魔する時は部屋に置いていくよ。カナに何かあったら悪いしね?」


総司さんは、優しく笑ってそう言ってくれた。


「無論、は……いやカナに危害なぞ加えるものか!誓って言える」


そこは力まなくってもいいと思うんだけど……今更ながら。





一さんってば、まだカナって呼ぶの慣れないんだね(笑)


らしくていいけど。


と言うか、きっと総司さんが砕け過ぎ……いや、これは打ち解け過ぎなんじゃないだろうか。


「総司さん、どうして僕を信用してくれるの?」


思わず聞いたら、楽しそうに僕を抱き締めた。


「こんなに純粋で優しい子、今まで会った事も無いからだよ」


って、何気に褒められまくりな気がする!


その上総司さんてば、あの当時の人らしくないくらいスキンシップが多いよね。


「……褒めても何も出せないよ?」


「何も要らないよ。さ、今日の朝餉はなあに?」


「今日?焼きおにぎりにお味噌汁と焼き魚だよ。日本食って難しいよね」




「カナは料理上手だから楽しみだ」


さりげなく褒めてくれる一さんに顔が和んでしまう。


剣豪。その上イケメンで優しいのか……モテたろうなあ。


しみじみそう思った。





 その後はちょっとグダグダかなあ?


なんやかやとダイさんと絡んでる居候二人のやり取りが、なんか可愛い。


兄さんが死んでからは、たまにくるダイさんのお仲間が泊まるくらいだから。


こんな賑やかなのは、ホント久しぶり。


「ずっとこうして居られたら……」


零れた言葉に絶句する。

有り得ないし、あっちゃいけない事だ。


でも、二人が居なくなるのを想像したら胸が鈍く痛んで。


立っていられなくなった。


「「カナ!」」


ハッとした時には、両側から総司さんと一さんに抱き締められていた。




「……有難う2人とも。だい……」


「違うだろう」


「話して、カナ」


向けられた真っ直ぐな目に、目頭が熱くなる。


「困らせるから、言いたくない」


涙を見せたくなくて俯けば、覗き込むように

総司さんが顔を近付けてくる。


「いいから言って」


そのまま抱き込まれて、頭を撫でられる。


「あんたになら困らせられても悪くない。聞かせてくれ」




抱き込む一さんの袖をキュっと握った。


「あ、の。皆でこうして暮らせたらなあって……」


上手く言葉が出てこない。

きっと呆れられただろう。


「2人は帰らなきゃいけないのに……ごめんなさい」


人付き合いが苦手で何時も孤立してしまう

僕は、こういう時何も出来ないから嫌だ。




 黙り込む私を凄い勢いで拐い、抱き締めてくれる人が居て。


「か、可愛い!」


「ダイさん……」


私は乾いた笑いを浮かべ、馴染みある香りにほっと息をついた。


「ダイ、独り占めするな」


「カナは欲が無いね。益々気に入ったよ」


暫く三人の攻防が繰り広げられていたけど、ダイさんの一人勝ち。


「こっちにおいで、カナ」


「むむっ?!ダイ独り占めする気かっ」




帰りたいだろうにおくびにも出さないでくれる2人に涙が出る。


私は身勝手だ。


人は嫌いの筈。味方はダイさんやその仲間だけ。


家族は人間じゃない。……今はいない兄さん以外は。


でも、まだ会ったばかりの2人と居ると胸の辺りがあったかい。


あまりにも慣れない感情に戸惑いながら、視線を上げれば。


「「カナ」」


心配そうに私を見詰める2人に出くわす。


「他人に興味がなかった筈なのに、2人が帰ってしまう事を考えたら凄く……淋しいんだよ。身勝手だし、自分が嫌になって」


叱られるのを覚悟して俯いた。




斎藤side


 はな……じゃない、カナは可愛い。


身勝手だと言うが、突然やって来た俺や総司を大切に思ってくれているのが分かる。


俺が知る女は、甘えるのが当たり前なてらいがあった。


だが、カナは我を通すような真似はした事がない。


『2人が帰ってしまう事を考えたら凄く……淋しいんだよ。身勝手だし、自分が嫌になって』


そう言うと、唇を噛んで俯いてしまった。


こんな可愛い事を言われたら、もう止まれない。


「俺は嬉しいんだが」


堪らなくなってその身を抱き締めてしまった。


斎藤side end





沖田side


 ……はあ、色々クるよね。ほんっとこの子は。


俯いてしまったカナに苦笑してしまう。


僕も一も女には苦労しなかった。

と言うか、向こうから寄って来たんだけどね?


堅物の一は、不器用過ぎて結局は花街の女に金を落として欲を散らしていたようだったけど……


僕は寄ってくる女は孕まないようにだけ用心して、それなりに優しく相手してあげてた。

優しくされて付け上がるような奴は、影で手を回して……ああ、詳しくは聞かないで?


時代が違うと、生き方も変わってくるのかな?

だとすると、この時代に生きる女って皆こんなに綺麗なんだろうか。


ふと気が付けば、一がカナを抱き締めていてイラっとくる。

この胸の痛みは、初めて感じる。


新選組随一の剣客の癖に奥手の一。

腹立ちが過ぎて、一が好きになった子を何時も横取りして、すぐに飽きてたのを思い出す。


胸の奥がじりじりして焦げ付きそう。もう、夢中だった。


「一、邪魔!カナに触るな」


悔しいけど、僕はこの子が好きなんだ。譲れない。


沖田side end




僕は思わず硬直した。


だって、えっと……どう言ったらいいんだろ?


ダイさん以外の異性に抱きつかれた事なんてないから。


……兄ちゃんやそのお仲間以外は、だけど。


親を名乗る化け物たちは人にもカウントしてやる必要ないだろ?




「一さん、総司さん……」


あったかい。


それに二人とも ほんっとイイ匂いがするんだ。


思わず二人の腕に自分の腕を絡ませて引き寄せた。


「ありがとう、二人とも」





安心しきって微笑む奏に大五郎は内心複雑だった。


大事にしてきたのに、こんな笑顔は初めてで。


“正直、妬けるね”


心でひとりごちてその場を後にした。



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