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浅葱の雨  作者: 亥天夢
3/7

闇に紛れて、更なる遭遇

 斎藤一が落ちてきただけでも凄いと思ったんだけどな~?


「奏?いい名前だね。ね、カナって呼んでもいい?」


砕けてるなぁ、この人


「っ!恩人になんて口の利き用だ!」


一さん、固過ぎ!


「2人とも、兎に角行くよ!」


ダイさんはマイペース過ぎます!




ダイさんが帰ってきてから昼間の話をした。


ってか、ラインで報告してるけどね。


「襲われたりとかは無かったか?」


抱き締められたりとかってのが有ったくらいだし、一応気にしてくれてるんだろう。




 一さんは紳士だ。


買い物の時も人が通る方に居てくれて。

人が近付いてくるとそれとなく警戒して僕を気遣ってくれたんだ。


それが、兎に角自然で。殆ど話なんてしなかったのに、楽しかった。


お礼を言ったら、此方こそ休日に忝いって頭を下げられたから慌ててしまった。



 今?一さんなら部屋で刀のお手入れ中。


届いた道具に目を輝かせてたよ(笑)




 ダイさんの帰宅は早くて、上機嫌で言った。


「大将の餃子食べに行こう!」


一さんは確かに食べた事無いだろうな。僕も二つ返事で承諾した。


「そうと決まったら、早速行こう」




 部屋に迎えに行ったらお手入れも終わってて丁度良かったみたい。


一さんは不思議そう。ってか、餃子が分かんないだろうな。


「一さん、今から清国……大陸って言う方が分かるかな?


所謂外国の料理を食べに行こうと思うんだ。一緒に来てくれる?」


私の顔を見て、優しく目を細めた。


「お前が行くなら行こう」




 後ろから竹刀が一さんを狙って振り下ろされたけど、紙一重で避けられる。


だけじゃなくて!


「痛ぇ!」


一気に壁に叩きつけられた。でもこれ、かなり手加減されてる。


だって、間髪入れず立ち上がる事が出来てるから。


「……って、お前態と……」


「ああ。花山が悲しむだろう?」


うわ、神対応。一さんって凄い。


感動で胸が熱くなった。




 実は兄さんが居たグループのOBだと言う大将が経営する中華のお店。


凄く大盛りで味が良くって価格も安いから、男性客が殆どなんだけど。


「……凄いな」


一さん、分かり易い反応有難う。


そう、煩いし煙草臭いし。んと……男臭い?って言うのかな?


「花山、大丈夫なのか?」


「兄さんの知り合いの店でもあるから結構小さい頃から来てるんだよ。

だから慣れちゃったな……一さんは嫌?」


「屯所みたいで懐かしいがな。煙草は殆ど副長しか吸わないんだが、騒がしくて汚くて……」


ふと、ドアの向こうに視線を遣った一さん。


なんと、駆け出したじゃないか!!!




「「はじめ!!」」


当然、僕もダイさんも揃ってその後を追った。


兎に角、走って、走って、走って……



行き着いた先は公園で、白く桜の花弁が舞うように散っていて。


気が付けば、僕は一人……ダイさんや一さんと完全に逸れてしまっていたんだ。





 ふと、空気が動いた。


咄嗟に左に避けた僕のすぐ傍を硬質な何かが過ぎった。


プツッと髪が切れる音がして、それが刃物だと悟る。


「へえ、僕の攻撃を避けるなんてやるね」


明る過ぎる月灯りの下、金色に染まる柔らかそうな髪が視界を塞ぐ。


身に纏うのは着物のようで、その手にはあろうことか刀が握られていた。


「って、なんで刀なんて!一さんじゃあるまいにっ」




 そこで、何故か相手が凍りついたように動かなくなった。


「一さん?」


訝しげに呟く相手の目を見ながら、ゆっくり向き直る。


「斎藤一さんって言う人。凄く強くて、真面目な人だよ……多分」




   キチィ……ン



 刀を鞘に収めたのが見えて、ほっとする。


「何で多分なの?」


声が穏やかで驚かされる。


「昨日会ったばかりだから。一さんは歴史に名を残す程の人だし、間違ってないと思う」


「へぇ……じゃあ、沖田総司は?」


「え?」


畳み掛けるように続けられる。


「沖田総司は、その名は歴史に残ってる?」




 沖田総司と言えば、ファンが多い天才剣士。


新選組は嫌いじゃなかったから一通り知ってる。


「僕は歴史はそこそこ詳しいよ。知ってる事でいいなら話そうか?」


素直に頷くから笑いがこみ上げてくる。


「手荒な真似して、ごめん。切れちゃったね……」


何時の間にか前に立ってたその人、申し訳なさそうに僕の額を人差し指で撫でた。


「信じるの?僕の事」


「君からは嘘の臭いがしない。信じるよ」


「う、嘘の臭い?!」


「うん。変わってるでしょう?僕、なんか分かるんだよ、そういうの」




 それから一気に打ち解けた僕達は、古びたベンチに隣り合って座り話し込んだ。


「花山っ」「奏!」


一さんとダイさんの割り込みが入るまで。



一さんは、彼をきっと睨み据えた。


「総司、何故花山を斬った!?」


「……そうだね。それに関しては間違いなく僕の非だ。この通り、許して欲しい」


深々と頭を下げるもんだから、慌ててしまう。


「いやその……元々一さんを追っかけてて逸れたのが原因だし。

彼は追っかけられたから気が立ってたから攻撃したんじゃないの?」


激昂していた一さんが見る見るうちに打ち萎れていくのが分かった。


「す、済まない……総司の姿を見て思わず追いかけてしまった」




 うん?ちょっと待って……




 思わずさっきまで話し込んでいた相手を見上げた。


「総司って!君、沖田総司なの?!」


だから、さっきも【沖田総司】に拘ってたって訳?




 虚を突かれたみたいに押し黙ってた男は、大きく頷いた。


「そうだよ。だから、僕の攻撃を避けた君には心底驚かされたんだ。

本当にごめんね?長州の間者でもない女の子に斬り付けてしまって……」


「総司?!花山がおなごと見抜けたのか」


驚き頻りの一さんに、沖田さん(いいよね?さん付けで)が笑いながら宣った。


「こんな可愛い子、分からない方が無理だよ」




 字幕が出るならガーンとでも出るんじゃないかな?


一さんたら、それ聞いて固まっちゃった。




「改めて名乗らせて。僕は沖田総司。君の名前を聞かせてくれる?」


僕はダイさんを振り返ってから、少し考えた。


「僕は花山(はなやま) (かなで)。こちらに居るダイさんと一緒に暮らしているんだ」


「奏か……音楽を奏でるってあれで合っている?」


「うん、そうだよ」


「いい名前だね。ね、カナって呼んでもいい?」




 砕けた人だな~


ちょっとしか話してないのに打ち解けてくれてるから、びっくりだよ。


そんな事を思ってた僕を後目にダイさんと一さんがいきり立った。


「総司っ、恩人になんて口を……」


「気安いぞっ、総司!」




……ダイさん、呼び捨ててるじゃん



気安いのはどっちなんだか。



「僕は別にいいよ?なんなら一さんもカナって呼んでくれていいから」


ごにょごにょ言い募るのを笑顔で押し切った。


「僕も名前で呼んでくれないかな?乱暴な事をしたお詫び。ね?」


きらきらした琥珀色の瞳に魅入られて、ぼんやりしてしまった。


「ああ本当に可愛い、カナは!僕も一と一緒に連れて行ってくれないかな?」





 一さんが真顔になってダイさんに頭を下げた。


「済まん、ダイ。俺も総司もこの世界の事が全くわからんのだ。

どうか、匿って貰えまいか?」


ぎゃあぎゃあ騒いでいたダイさんもすっかり真顔になっていて大きく頷いた。


「勿論、そのつもりだよ。奏がこんなに楽しそうにしてるの久しぶりに見たし。

この世界から消える最後の時まで、俺の家に居ればいい。必要な物は全て揃えよう」


どっしりと構えてて頼もしいダイさんの態度に総司さんも神妙に聞き入っている。


「ただし……奏に手を出すなよ?」



 ってぇ、だぁああ……



「ちょ、ダイさん!2人程のイケメンが僕相手に盛る訳無いじゃんかっ」


「おいおい。意味は分からないけど、君に失礼だろう?それ」


「そうだぞ、は……いやカナ!カナは確かに可愛いおなごなのだからなっ」


思いも寄らないセリフを聞かされ目を白黒させる。


意味分かってないのに、凄いな!

フォローありがとう、2人とも☆彡






「さて!取り敢えず総司にはスエットに着替えて貰って仕切り直ししよう。

ラーメンや餃子が待ってるよ」


ダイさんが鼻歌交じりに言うんだけど。


総司さんは、状況が読めないらしくぽかんとしてるんだよね。


だからそっと耳打ちした。


「ここじゃ着物姿は目立つんだよ。スエットっていうのは今一さんが着てるみたいな服の事。これに着替えるから」


ダイさんよりも長身で体格のいい人だしサイズが合わないかもしれないけど、急場凌ぎ。


「そうなんだ、君といいダイといい本当に親切だね。ありがとう」




 四人揃って食べた中華は、何時にも増して美味しかった。


この奇妙な同居生活が何時まで続くのかは分からないけれど。


人嫌いの筈の自分が彼らの存在を不快に思わないのだから、不思議なものだ。


直ぐに終わるのは惜しいかもなんて事を感じる位に、楽しく感じたんだ。







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