探査日誌
今書いている別のに詰まって、気分転換に勢いで書いてしまいました。
反省していません。後悔もしていません。でも公開します。
勢いで書いたので、推敲が十分でないかもしれません。
変なところがありましたら、お知らせください。
他の作品には、勝らずとも劣っていますが、楽しんでいただければ。
探査日誌
探査日誌 2413.523.09
微弱な搬送波を観測した。ここからおよそ四十五光年先の星系からのものと考えられる。文明を持つ生命が存在するようだ。
本船は進路を変え、その星系に向かうことにした。
探査日誌 2413.523.09補足
電波はその星系の第三惑星からのものだった。文明を発生させた惑星の例に漏れず、巨大な衛星を持っている。これが惑星の自転軸を、即ち環境を安定させていると考えられる。
私の母星も含め、文明を発生させた惑星は輪、もしくは衛星がその役割を担っている。しかしここまで巨大な衛星という例は珍しい。
長距離探査によると、惑星の周辺には人工物が漂っていた。この段階に達していれば、我々を捕捉するだけの能力があるものと考えられる。
本船は電磁波及び重力場による探知から遮蔽しつつ、当該惑星に接近した。
探査日誌 2413.523.14
惑星は海陸比がおよそ7:3、窒素、酸素、水を主成分とする大気を持つ。
知的生命体は内骨格、概ね左右対称な構造を持ち、四つの肢を持つ。肢は、一対が歩行、一対が作業に用いられている。その使い分けは厳格で、中枢神経に近い方が作業に用いられる。内骨格の知的生命としては、多く見られる形態である。
代謝は酸素を用いている点で、我々や我々の知る知的生命と共通している。しかし、酸素を循環させるために鉄を用いている。
我々が知る多くの知的生命は銅を用いてガス交換を行うが、この惑星は鉄がその質量のおよそ三分の一と非常に多いため、そちらを使うよう進化したのだろう。
鉄は我々にとっては猛毒だが、銅よりもガス交換の効率が高く、我々を基準にすれば、きわめて高い持久力を持つ種族であると予想される。
基礎代謝が大きく、一般的な知的生命体より多くの食物を摂取する必要がある反面、環境に対する適応能力が極めて高く、我々よりも劣悪な環境、特に低温の環境に耐えうると予想される。それを裏付ける証左として、大気圧が三十%以上異なる低温・低圧な範囲にもコロニーが存在することが挙げられる。
探査日誌 2413.523.16
この知的生命は有性生殖を行う。胎生であり、妊娠出産を目的とした性と、遺伝子の多様性を目的とした性に分かれており、単為生殖はできないようだ。
知的生命に多く見られる傾向だが、決まった発情期というものが存在しない。生殖行動は専ら社会的目的、ときには経済的目的にも用いられ、常に発情状態にあると言える。
探査日誌 2413.524.18
社会形態は、その文明水準と比較すると原始的だ。統一された社会体制では無く、政治及び経済体制の異なるブロックに分かれている。各々のブロックにおいては使用される言語が異なるばかりか、度量衡が異なるブロックすら存在する。
政治体制は、基本的には多数決を原則としているが、意見の比較やシミュレーションに基づいた評価を行うことはあまり見られない。むしろ利害調整によって多数派を形成する傾向がある。また、少数派や、特に政治的に弱い立場からの意見を積極的に採り入れることは、文明の発展度と比較して少ないと言える。
このレベルに文明が発達した惑星で、ここまで社会的発達が遅れているものは少ない。
探査日誌 2413.524.18 補足
この惑星では、未だに宗教的価値観が強い影響力を持っているようだ。
この惑星で最も力を持つブロック『合衆国』――現地の呼称に倣う――ですら、一神教が力を持っている。また、宗教的価値観が政治判断に影響を及ぼすブロックすら存在する。
ここまで多様な社会体制が乱立した社会が、前宇宙文明レベルに達する例は少ない。
探査日誌 2413.525.08
いくつかのサンプルから、この惑星の知的生命が標準的なそれらよりも遺伝子の多様性を保持していることが分かった。このことから、この生命体は圧倒的な速度で進化・発展してきたものと推測される。同様に、社会体制の多様さは、その発展の速さや期間の短さから、進歩に伴う平準化の影響が少なかったからと推定される。
文化人類学的にも、生物学的にも興味深い種族であるため、しばらく滞在し観察を続けることになった。
探査日誌 2413.525.08 補足
先に、遺伝子の多様性について記録したが、この星の生命体としては、むしろ多様性に乏しいことが判明した。
近縁種――現地の呼称に倣い『ゴリラ』と呼ぶ――と比較すると、遺伝子の平準化は著しく進んでいる。通常、個体数と多様性の間には明らかな相関があり、同一惑星の近縁種においてはそれが近い範囲に収まる。
文明を得た知的生命は個体数が増加するため、その相関からは外れるのだが、この惑星ではそれが極端だ。
これは過去にこの種族が大絶滅を経験していたことを示している。おそらく、個体総数が二万を切るレベルまで減少した時期があったものと推測される。
この星の現住生物の多様性は、我々の想定を遙かに上回るレベルであるため、調査船団の追加派遣と保護観察領域指定が要請された。
船団派遣はすぐに決定されるだろう。遺伝子資源を狙った非合法な介入を許さないため、我々は警戒レベルを上げるとともに、哨戒及び防衛船団の即時派遣も併せて要請した。
個人日誌 2413.525.16
調査を進めるとともに、この知的生命体は極めて好戦的であることが判明した。宗教・外見・貧富の差……、およそあらゆる差違に基づいて差別や衝突をくりかえしている。文化人類学的には興味深い対象かもしれないが、文明人からは見るに堪えない愚行が多い。
探査日誌 2413.527.10
知的生命体の歴史記録を解読している。それぞれのブロックで公式記録が食い違う例が少なくない。そしてやはり、戦争があまりにも多い。
戦争で人工的な生存競争をつくり淘汰圧を高くするという、世にも恐ろしい方法で強制的に進歩した種族、そう評する者までいる。
私もその意見に全面的に賛成だ。強制的な進歩で、あと五世代を経ずに宇宙文明に達するか、その過程で自らを滅ぼす、あるいは生存環境自体を破壊してしまうか、どちらもありそうだ。
個人日誌 2413.527.11
遺伝子資源を目的にこの文明に介入するという噂がある。
確かにこの星は資源という意味では魅力的ではあるが、正直なところ、ここまで好戦的な種族が宇宙に乗り出すことには恐怖を覚える。進歩に対するどん欲さ、好奇心の強さ、学術的には興味深い種族ではあるが、個人的にはつきあいたい種族ではない。
探査日誌 2413.529.09
チームに分かれて観測を行うこととなった。チームに分かれるのは、あまりにも政治・経済のブロックが多くその多様性も富むため、手分けせざるを得ないためだ。
個人日誌 2413.529.18
今日のミーティングで観測対象が決まった。
私が受け持つのは、比較的穏和な民族性を持ち、文明水準の高いブロックだ。宗教的価値観から距離をおきつつも自然や環境に対する畏敬を持つ。特に美食に対して貪欲な民族である点は、我々に近い。
探査日誌 2413.531.12
この民族に対する初めの印象は、宗教的価値観に頼ることなく、自然にたいする畏敬や謙虚さを得るに至った、この惑星の知的生命体の中では進歩した集団だった。しかしそれは誤りで、宗教観が他の民族とやや異なっているに過ぎない。
この生命体の歴史を見る限り、宗教は社会の存続を目的として発展した例が多い。例えば公衆衛生など、その時点の文明水準では説明できない経験則を社会で共有するために、人類以上の意志や存在として『神』を仮定し、それとの約束として運営する。一神教ではそれがより顕著となり、その縛りによってほかの宗教観と対立することもある。
この民族の宗教観はより原始宗教に近い。
精霊信仰に近いが、無生物や概念にも神が宿ると考え、別の宗教の神すらも自分たちが信じる神の一柱と考える。よく言えば寛容で懐が深いが、無節操でもある。
ただし、それがこの民族が宗教的価値観に基づいた戦乱から距離を置くことができた理由の一つであろう。この民族の戦争は、ほぼ生存のための資源獲得等に限られる。宗教が全面に出ている場合も、その宗教的価値観が当時の社会体制や経済体制に不都合な場合で、宗教的価値観同士の戦争は現時点では確認できていない。
探査日誌 2413.533.17
この民族の食習慣は、一言で説明するなら『悪食』である。
とりあえず食べる。有毒な場合はそれを取り除いて食べる。ここまでは他の民族にも見られる行動だが、有毒なものを無毒化して食べる。毒物すらを嗜好品として食べるという、他の民族では見られない行動をとる。
この生命体に限らずこの星の生命体全般にとって危険な神経毒を含むものすら嗜好品としている。そして、原理が不明なまま、無毒化プロセスを行う。
本来は生存のための食であるが、食のためにときに命をかける。見方によっては、突出して『文化的』な民族とも言える。
個人日誌 2413.536.12
この星では、星全体を覆う通信網の他に、各ブロックやさらに狭い地域を対象とした放送がある。この技術が国策や娯楽にも用いられる。
これを比較分析するチームもあるが、そのミーティングで私の調査対象を羨ましがられた。
各ブロック(国家)の多くに、国営放送が存在する。私の担当地域では、特に幼児期向けに作られたプログラムや自然科学を扱ったプログラムの質が突出して高く、その内容が興味深いそうだ。
まだまだ先のことだが潜入調査対象地域として人気があるらしい。
探査日誌 2413.540.15
事故が起きた。
この星系の外縁部で、非合法な接触を試みた船団が哨戒船団と偶発的に衝突した。隣接したグリッドにワープアウトするという、通常は起こらない事故だ。哨戒船団の警告を無視して逃走。その際に偶発的に戦闘が行われた。
小規模とはいえ、人為的なエネルギーの変動や爆発による電磁波の拡散は、この星の文明水準なら確実に観測できる。第四惑星軌道のやや外側で隠蔽作業を開始したが、難しいものと思われる。
およそ七時間後にはこの惑星に到達する。
探査日誌 2413.540.15 補足
ミーティングが行われる。隠蔽しきれない場合はファースト・コンタクトが行われるが、どのブロックに対して行うのかが問題だ。
対象とどのような形で行うかが協議される。
探査日誌 2413.540.16
隠蔽工作はある程度の効果を発揮したものの、完全には遮断できなかった。自然現象と見る向きもあるが、この星最大のブロックでは、事態を深刻に受け止めているらしい。
やはり、ファースト・コンタクトは避けられないものと考えられるが、発達過程文明に対する文化汚染が危惧される。
探査日誌 2413.540.17
現在、ファースト・コンタクトを行う対象の選定に紛糾している。
かつては惑星上の全ブロックを対象としていたが、伝えられた技術の独占や奪い合いによって争いが起き、結果としていくつもの文明が消滅したことの反省からである。
対象となるブロックは、ある程度の文明水準にあることや、域内でそれなりに力を持っていることが最低条件ではあるが、覇権を求めず自制的であり、協調路線を選択できることも重要だ。
実のところ、これに該当するブロックはこの惑星上に存在しない。次善として、最も大きな力を持つブロックが有力な候補として挙がっている。
個人日誌 2413.540.20
先のミーティングに私も参考人として呼ばれた。ファースト・コンタクト対象の1つとして、私の担当地域が挙がっている。
有力候補が技術を得たときにどう行動するか、シミュレーションを行っているが、その整合性を直接観察した立場でも評価するためだ。
結果、私の担当地域が最有力候補の1つとなった。
他にも担当地域について意見を求められものもいたが、論外でシミュレーション評価すら時間の無駄だと、不機嫌そうにデータキューブを置いて席に戻るものもいた。
そんな対象を観察させられた同僚には同情する。
探査日誌 2413.541.09
対象地域は6つに絞り込まれた。積極的にでは無く消去法で絞られた結果で、そこには私の担当地域も含まれている。
我々の存在を匂わせる情報を通信網に流し、その反応も評価する。この発展段階でのファースト・コンタクトは前例が無く、かなり神経質になっている。せめてもの救いは、文明水準が比較的高く、情報を個人レベルに伝播させやすいことのみだ。
探査日誌 2413.541.09 補足
科学系のフォーラムを対象と考えていたが、方針が変更となった。より多くの対象に読ませることできること、時間で情報が押し流されないことを条件に探す必要がある。
また、我々の存在をどのような情報で知らせるか、我々がどのような精神を持っているか、この星の現住生物をどう考えているかを公平に伝える方法をどうするか、非常に困難な条件が並んでいる。
むしろ我々の姿を見せてしまってもよいのではないか? そう考えたが、それはファースト・コンタクトの後でなくてはならない。
探査日誌 2413.541.15
ほぼ方針は固まった。いくつかの地域でこれが行われる。
そしてその反応によって、我々のファースト・コンタクトに望むことになる。私の担当地域はどのような反応を示すのだろうか? それはこの集団にとって、この星の住民にとって、どのような影響を与えるのだろうか?
個人日誌 2413.541.15
もしかしたら、私がこの任務に就いて初めてファースト・コンタクトに関わる事になるかも知れない。
私は、互いが互いを知ることができれば良いと考えると同時に、それを通して我々自身をよりよく知ることができればよいと考えている。