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伯爵令嬢の華麗なる暇潰し  作者: 水野沙彰
本編 第三章
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アリアンヌとディートヘルム1

アリアンヌはリヒャルトのエスコートで、ネーレウス貴族達の間を挨拶して回った。定型文の挨拶しか話せないアリアンヌの為に、リヒャルトは会話の合間で通訳をしてくれている。今のアリアンヌにできることは、真っ直ぐに立ち、優雅な微笑みを絶やさずにいることくらいだ。それでも今日のアリアンヌにとっては、華やかなドレスも、微笑みも、全てが有効な武器として機能していた。そしてリヒャルトがアリアンヌを大切に扱っている姿を見せることで、まだ若く初々しい婚約者同士であると微笑ましく思わせてもいる。

リヒャルトにとっても、そのような印象を与えていることは今後ネーレウス王国で動くにあたって、強みになり得ることだった。

以前話せない振りをしていた時の両国貴族同士の国境上の夜会とは異なり、精力的に社交を行うリヒャルトは、自らが良い印象を与えるよう立ち回っている。


「アリアンヌ、そろそろ挨拶も終わりだ。私は税務官長殿のところへ行って話してくるよ」


「では、私は一度席へ戻りますわ」


「疲れただろう?……そこまで送ろう」


リヒャルトはアリアンヌを席まで連れて戻り、給仕から受け取った果実水をアリアンヌに手渡した。


「少し休んでおいで。後で戻ってくるから」


心配そうにアリアンヌの瞳を覗き込むリヒャルトに、アリアンヌは首を振った。


「いえ、ご心配なさらないでください。異国のドレスや装飾を見ているのも、とても楽しいですわ」


リヒャルトは、柔らかく笑うアリアンヌの頬に名残惜しそうにそっと触れると、人混みの中へと戻っていった。





とはいえ、アリアンヌに今できることはあまりなかった。なにせ言葉が殆ど分からないのである。中にはクローリス王国の言語を話せる人もいるのだろうが、アリアンヌにそれを判別することも難しい。まして貴族令嬢の中でともなると、ほぼいないのは間違いない。

果実水を片手に、アリアンヌは華やかな夜会会場を眺めていた。


「アリアンヌ嬢、少し良いかな」


斜め前からアリアンヌに声を掛けてきたのは、ディートヘルムだった。アリアンヌは慌てて立ち上がり、礼を取ろうととする。それを片手で止め、ディートヘルムは笑った。


「いや、かしこまらないでくれ。リヒャルト殿は話し込んでいるようだし、良ければ私と少し話さないか?」


「恐れ入ります。お気遣いありがとうございますわ」


アリアンヌに断ることなどできるはずもない。ディートヘルムのエスコートでアリアンヌはテラスに出た。欄干に少し体重を預けて外を見れば、庭の篝火が葉を落とした木々を照らしている。何もないアーチが見えるので、おそらく春になれば沢山の花に彩られるのだろう。

庭園に目線を向けるアリアンヌの横で、ディートヘルムは口を開いた。


「ネーレウスはどうだったかな?」


普段は豪胆で快活な印象のディートヘルムだが、相手が年若いアリアンヌであるからか、いくらか声を落とし、柔らかい印象だ。 アリアンヌは顔をディートヘルムに向ける。


「私は今回初めて訪れましたが、賑やかで彩りに溢れている国だと感じましたわ。急に来てお騒がせしてしまいまして……申し訳ございませんでした」


殊勝に謝るアリアンヌに、ディートヘルムは首を振った。華奢なアリアンヌと並ぶと、ディートヘルムのがっしりとした体型が強調されているようだ。


「いや、構わない。──面白いものも見れたからな」


「面白いものでございますか?」


アリアンヌはきょとんと首を傾げた。ディートヘルムは笑う。


「リヒャルト殿のことだが……あれを変えたのは貴女だろう?」


ディートヘルムの言葉に、アリアンヌは驚き首を振った。


「いいえ、私は何もしておりません。……リヒャルト様は、すごい方ですわ。周囲の方の心を動かして、気付けば人の中心にいるような──」


ぽつりと言ったアリアンヌに、ディートヘルムは優しく語り始めた。


「アリアンヌ嬢は知らないかもしれないが、前に会った時、彼奴は様々なものを諦めた表情をしていたんだ。……私はこれでも、大叔父だからね。姪のこともあってあまり会ったことは多くないのだが、やはり気に掛かっていた。今回、貴女といるときのリヒャルト殿が人間らしくて、安心したよ」


アリアンヌはディートヘルムの温もりを感じる声に自然と安心させられていった。


「人間らしくて……でございますか?」


「彼奴は何でもできてしまうだろう。そつなくこなして、気持ちを閉じ込めていたようだったが……貴女が絡むと、随分と感情が表に出るようだ」


ディートヘルムは愉快だと言わんばかりに快活な声で笑った。アリアンヌはリヒャルトを案じていたであろうディートヘルムに安心した。リヒャルトからは、家庭の匂いがしない。一人きりの公爵邸で暮らしているからと言うにはもっと深いところで、孤独に慣れているようだとアリアンヌは思っていた。心配して心を寄せている血縁者の存在は、そんなアリアンヌの不安を拭っていく。

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