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伯爵令嬢の華麗なる暇潰し  作者: 水野沙彰
本編 第三章
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未来に描く姿

アリアンヌとリヒャルトは、数日間ネーレウス王城に滞在することになった。この機会にネーレウス王国の視察を兼ね親善大使として行動するよう、ラインハルトからの書状が届いた為である。そして、なんとその書状を持ってやってきたのは、アリアンヌの二番目の兄であるマリユスだった。王城でマリユスと再会したアリアンヌは、驚き目を見開いた。


「マリユスお兄様……!」


「アリアンヌ!どれだけ俺らに心配掛けたと思ってるんだ?帰ったら父上に説教されるぞ、覚悟しておいたほうがいい」


アリアンヌは上目遣いでマリユスを窺う。


「お父様……怒っていらっしゃった?」


「それはもう。俺を大使に仕立て上げる程度には怒っていたな。……無事で良かった」


マリユスは苦笑し、アリアンヌを抱き締めた。素直に甘えて擦り寄ったアリアンヌの頭を、マリユスは雑にぽんぽんと叩く。


「お兄様、髪が乱れてしまいますわ」


アリアンヌは擽ったいのを堪えるような笑い声を上げ、マリユスの手を捕まえようと手をわたわたと動かした。





即席のクローリス王国親善大使となったリヒャルトとマリユス、アリアンヌの三人は、ネーレウス王国内の施設を回ることとなった。研究機関や教会、商人ギルドの本部等様々な場所に立ち寄り、主にリヒャルトがクローリスの王弟として会話をしている。マリユスは補佐として働いていた。

アリアンヌには通訳が付けられており、孤児院にもなっている教会では子供達と触れ合っていたが、銀行の視察をしている今は、リヒャルト達の邪魔にならないように少し距離を置いていた。


リヒャルトは、ネーレウスの王立銀行職員から受け取った資料に目を通しながら、実際の動きを見て、何かを質問してはメモを書いてを繰り返している。アリアンヌはそれを眩しい思いで見つめた。リヒャルトが以前話してくれた時には、隣国ネーレウスの王女であったツェツィーリエは、リヒャルトが両国の友好の証、ひいては外交の要となることを夢見ていたと言っていたと思い出す。


「アリアンヌ」


声を掛けてきたのはマリユスだ。


「お兄様、どうなさいましたの?」


「あー……いや、ロージェル公爵殿は、すごいなと思ってな」


マリユスは人差し指で頬を小さく掻いた。アリアンヌはマリユスを見上げて頷く。


「ええ、尊敬しますわ。……あの方の隣に立ちたいのですが、私にはまだまだ遠いようです」


寂しそうに言うアリアンヌに、マリユスは嘆息した。


「アリアンヌ、これは兄からの余計な助言だが。──公爵殿はきっとこれから先、国交における重要人物になると、父上も仰っていた。今アリアンヌが学んでいることは、公爵夫人となるための嗜みであって、公爵殿と共に戦うためのものではないんだ。……それでもアリアンヌは、隣に立ちたいと思うのか?」


マリユスは知っている。パブリックスクールに通っていた頃、多くの生徒達の憧れとして語られていた伝説の卒業生は、リヒャルト・クローリスだった。知識、振る舞い、戦闘能力に優れ、皆に等しく優しい第二王子。クローリス王国で使われている大陸共通語以外に、友好国の言語はもちろん、地方の民族言語や海の向こうの国の言葉など、七ヶ国語を学んでいたはずだ。今はリヒャルト・ロージェルと名を変え臣籍降下しており、また声を出さずにいた時期もあったが、それで失われた能力は何一つない。マリユスにとって、リヒャルト・ロージェルという男は、並び立つにはあまりに遠い存在だった。


「──そうですわね。私は、諦めたくないのですわ。リヒャルト様をお一人にしたくないのです。陛下とリヒャルト様はご兄弟とはいえ、歩む道は違います。だからせめて私は、リヒャルト様と共に歩んでいきたいと思っているのですわ」


アリアンヌはリヒャルトの方に目を向けた。彼が今使っているのは、ネーレウスの言語だ。アリアンヌにはほとんど分からない。


「アリアンヌ、お前結構かっこいいのな」


マリユスは苦笑した。アリアンヌは前をじっと見ている。


「まずは、ネーレウスの言語からですわね。……リヒャルト様の血の半分はこの王国のものです。私、もっと頑張らなければいけませんわ」


アリアンヌはリヒャルトを見つめている。アリアンヌはリヒャルトと同じ能力が欲しい訳ではない。ただ同じものを見聞きし、隣に立っていられるだけのものが欲しかった。

リヒャルトは会話の途中でふと顔を上げ、アリアンヌの視線に気付く。僅かに目を細めたリヒャルトは、アリアンヌに向かってとけるように笑ったのだった。





最後の夜は、クローリス王国親善大使を送る夜会が開かれるという。アリアンヌは昼食後、ナタリーと共に夜会用のドレスをマリユスの荷物から引っ張り出していた。マリユスが出発する時に、もしもの為にとレイモンに言われ、ニナに準備させてきたのだそうだ。少し前まではコーディネートや服飾関係を苦手にしていたニナだが、最近はナタリーの監督の元、経験を重ねていた。もちろん腕も上がり、こうしてニナによってコーディネートされた夜会の衣装が届いている。


「……ニナ、ありがとう」


「ええ、ニナは頑張ってくれました。お着替え致しましょう?」


ナタリーの手伝いでアリアンヌはクローリス王国を象徴するラピスラズリ色のドレスに着替えた。

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