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予想できた襲撃

引きずり出されるように馬車から降ろされたアリアンヌに、ティモテははっと振り返った。その隙に攻撃しようとしてきた男二人を斬り捨てて、慌ててアリアンヌの元へと向かおうとしたが、その間にまた別の男が割って入ってくる。思うように動けずにいるティモテは苛々しているようだった。

腕を掴んでいる男は、アリアンヌの顔を確認すると、嬉しそうに表情を歪めて笑った。男の好みだったのだろうが、全く嬉しくない。アリアンヌは表情を歪めて振り解こうともがくが、思うように抜け出せずにいる。ナタリーが慌てて自らを掴む男を組み伏せ、アリアンヌを捕らえている男に斬りかかった。男は斬りつけられた腕を庇うようにアリアンヌから手を離す。ナタリーはその隙をついて逃げるためアリアンヌの手を掴み強く引いた。


「走って!」


剣を合わせながらナタリーに向かって声を上げるティモテに、ナタリーは頷き走り出した。アリアンヌは必死で着いていこうと足を動かすが、ナタリーの速さには届かず、どうしても足が縺れてしまう。

男達が追いつくのはすぐだった。ナタリーとアリアンヌは引き離され、アリアンヌを男が押し倒すように捕まえる。ナタリーが悲鳴を上げてアリアンヌの元へ向かおうともがくが、拘束が強いのか動けないようだった。流石のアリアンヌも恐怖に目を閉じたが、安全を確信していた理由を信じ、悲鳴の代わりに大きな声を上げる。



「──ウーヴェ!」



次の瞬間には、アリアンヌの上に掛けられていた体重は消えていた。呻くような声がいくつか至近距離で聞こえ、アリアンヌはびくりと肩を震わせる。少しして恐る恐る目を開いたアリアンヌが見たのは、先程までアリアンヌを押し倒し囲んでいた男達が地に伏せっている姿だった。


「お前、俺が着いてきてるの知ってたろ?……人使いが荒いオヒメサマだ」


深夜にアリアンヌと話をしていたときよりも砕けた口調のウーヴェは、周囲を警戒したままアリアンヌに言う。アリアンヌは身体を起こしながら強がり、揶揄うように言い返した。


「まぁ!貴方が私達の後を勝手に着いてきたのでしょう?」


「何を言う。国王に謁見した時から既に着いてくると思ってただろ」


「……あら、分かってて来てくださるなんて、お優しいのね」


ティモテは剣を振るいながら驚くようにウーヴェを見ている。ナタリーは驚いて拘束が緩んだ男達をすぐに殴り落としていた。


「で、俺はどうしたら良い」


ウーヴェはアリアンヌを振り返って尋ねた。アリアンヌは澄んだ湖面のような碧い瞳をきらりと輝かせ、ウーヴェに指示を出した。


「この男達を捕まえて。手段は問いません」


「……殺しは?」


「なるべく避けてくださいませ」


ウーヴェは喉の奥でくつくつと音を立てて面白そうに笑った。


「甘いな、──了解」


駆け出したウーヴェの代わりに自由になったナタリーがアリアンヌの元へと駆け寄ってくる。アリアンヌは震えそうになる足を叱咤し立ち上がり、ナタリーに身を寄せた。





そこからは圧倒的だった。元々戦って倒すだけならばティモテだけでも充分な戦力だったのだ。ただ人数が多く、アリアンヌを守りながらでは思うように動けなかったため、男達に遅れを取ってしまっていた。

ウーヴェが加わってからは、ナタリーがアリアンヌに付いているのもあって、ティモテとウーヴェは二手に分かれて端から男達を落としていた。アリアンヌはその光景に驚きを隠せない。まさに騎士と言うに相応しい剣舞のような動きで次々と斬り伏せていくティモテと、左右の手に短刀を持ち、時にはそれを投げ、代わりに紐状の武器を使う等多彩な動きで相手を行動不能にしていくウーヴェ。ナタリーが手を出す間も無く、対照的な二人の動きがあっという間に男達を戦闘不能に追い込んで行った。




「アンナ様、こいつらどうします?」


全員を捕らえた後、ティモテがアリアンヌに問いかけた。アリアンヌは深く嘆息する。道には、明らかに行動不能な男が何人も転がっており、動ける人間は馬車に積んであった資材のロープで縛り上げられている。

道にはあちこちに血の染みがあり、このままでは次にここを通った人間が気を失ってもおかしくなかった。アリアンヌもこの様な光景を見たことはなく、気を張っていなければ叫び出してしまいそうだ。


「……ティモテ、ここからだと、進むのと戻るの、どちらが近いかしら?」


「そうですね。進んだ方が近いです」


ティモテは僅かに考える素振りを見せた後で答えた。アリアンヌはそれに頷く。


「では、先に進みましょう。進んだ先の街で警備隊に報告します。──ウーヴェ」


アリアンヌは姿勢を崩して居心地悪そうにしているウーヴェに声を掛けた。


「……何ですか」


「貴方、この人達を知っている?」


アリアンヌは注意深く聞く。ただの盗賊ではない可能性もあるのだ。ウーヴェは何人かの男を確認するように見てから首を振った。


「いや、俺がいたときには見たことがない。雇ったとしたらつい最近だな」


「そう──」


当然のように聞くアリアンヌに、ティモテとナタリーは不思議そうな表情をした。ナタリーが先に口を開く。


「アンナ様。この男は何者でしょう?」


「そうね、紹介していなかったわ。彼はウーヴェ。私の部屋に忍び込んでいた刺客よ」


アリアンヌがさっぱりと言った言葉に眦を釣り上げたのはティモテだった。ティモテはシャリエ伯爵邸で警備に当たったときにその気配を知っていたので心当たりはあったのだろう。

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