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伯爵令嬢の華麗なる暇潰し  作者: 水野沙彰
本編 第三章
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旅の道程3

リヒャルトは、宿泊するつもりの宿でその報せを受け取った。ラインハルトが予測して先回りしていたのだ。

ネーレウスとの国境のすぐ手前の街だ。単身で馬で出発したリヒャルトは、アリアンヌ達よりも早い。途中道が悪い箇所もあったが、概ね順調に旅を続けていた。部屋に入ったリヒャルトは、荷物を放り、慌ててその報せを広げる。そこには、アリアンヌがラインハルトの許可を持ってリヒャルトを追っていることが書かれていた。


「──アリアンヌ」


しばらく相談屋は休むからと言ったアリアンヌの言葉に安心した自分が愚かだったのだろうか。それとも、素直に言うことを聞いてくれると自信があったのか。

リヒャルトは部屋のソファにどさりと座った。旅の疲れが一気に押し寄せてくる。

アリアンヌがウーヴェに直接傷付けられることはないだろうが、ツェツィーリエが何事もなくアリアンヌをネーレウスまで向かわせるとも考え難い。そもそも、ツェツィーリエはアリアンヌが旅に出たことを知っているのか。レイモン達は怒っているだろうか。アリアンヌは──無事でいるだろうか。

頭の中を膨大な思考が渦巻いて、リヒャルトは目を閉じ顔を上向けた。アリアンヌは何故追って来たのか。それすらリヒャルトには分からないのだ。


「待っていて欲しいって……書いたよな……?」


ぽつりと呟いた言葉は、暖められていた一人の部屋の中に消える。アリアンヌのことが心配だった。ティモテが付いているはずだと気を紛らわせる。

モーリスとラインハルトに無理を言って、執務を溜めてきたのだ。ラインハルトは本来の目的の為にもなるからと大喜びで送り出してくれたが、モーリスは終始諦めたような表情をしていた。彼らの為にもリヒャルトは、今引き返してアリアンヌを迎えに行くわけにはいかなかった。



──どうか、無事でいてくれ……


リヒャルトはここまで自身が旅してきた二日間の行程を思う。悪路もあった。馬車であるならば、きっと馬よりも過酷な場所もあるだろう。アリアンヌの華奢な身体であの道を行くのだと思うと、心が痛む。

リヒャルトは両手で顔を覆い、深く溜息を吐いた。





翌朝、アリアンヌ達一行は予定通りに隣町に支店のある商会で馬車を借りた。アリアンヌとナタリーが中に、ティモテが御者台に座った。計画通りの配置だ。ティモテは腰に剣を携える。ナタリーも短剣を懐にしまい、万一の時にも戦える装備だ。

出発した馬車は決して乗り心地が良いとは言えなかった。町を出てしばらくは舗装されていたが、しばらく行くと道はまさに悪路で、馬車に座るアリアンヌとナタリーにも直接振動が伝わった。悪路に入って速度を上げたお陰で、通常よりも揺れが強いのもあるのだろう。たまに御者台に座るティモテからも揺れを驚くような声が聞こえてくる。


「アンナ様、こちらを」


「ありがとう。……本当に揺れるわね」


ナタリーがアリアンヌの座る座面に、折り畳んだブランケットを差し出した。アリアンヌは感謝してそれを下に引く。ナタリーは苦笑した。


「ええ。これ……は、なかなかですね」


ナタリーが馬車の中にある手すりに掴まりながら答える。アリアンヌももう先程から手すりから手を離せずにいた。乗り物に酔い辛い体質である自分に感謝する。


「ナタリーは平気?かなり揺れているみたいだけれど……」


「まだ大丈夫……ですが、一時間続くと厳しいです」


素直に答えたナタリーの顔色は確かにあまり良くなかった。地図の通りなら、一時間もかからず抜けられるはずだが──と、アリアンヌが思考したとき、ティモテの声が聞こえてきた。


「アンナさん!……本当に出てきました。飛ばしますよ!」


がらがらと大きな音を立てて馬車が更に速度を上げる。アリアンヌは驚き、窓に掛けてあるカーテンを僅かにずらした。徒歩だが相応の人数が道の左右から出てきている。ナタリーもアリアンヌとは反対側の窓から様子を確認したようだ。


「アンナ様、多いですね」


「──ええ。これは……待ち伏せされていたようね」


アリアンヌは、誰にとは言わなかった。彼らが純粋な盗賊なのか、誰かに雇われてここで待ち伏せしていたのかは分からない。盗賊であれば正規の道の復旧作業が終わる前にここで罠を張って稼ぐ為であろうし、そうでなければ──アリアンヌはそこで思考を止めた。どちらにしても狼藉者の集まりなのだけは確かだった。


御者台にいるティモテは速度をどんどん上げていく。しかし、とうとう前に回り込まれ、ティモテも馬を止めた。


「──アンナさん。とりあえず、しばらくは出て来ないでくださいね」


厳しい声で言ったティモテは、馬車から離れないような位置で、近付いてくる男から順に斬り伏せているようだ。ナタリーは顔を青くして、カーテンを開けられないもどかしさにぎゅっと目を伏せている。アリアンヌは深く深呼吸をして、覚悟を決めた。

扉が外側から無理矢理開けられたのは、それからしばらくしてのことだった。

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