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伯爵令嬢の華麗なる暇潰し  作者: 水野沙彰
本編 第三章
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旅の道程2

翌朝、街で昼食用のパンを買ったアリアンヌ達は、朝早くに馬車で出発した。ネーレウス王国は王都ナパイアから南方に位置している。順調に進めば二日後には国境を越え、更に二日後にはネーレウスの王城に着くはずだ。

アリアンヌとナタリーとティモテは、予定通り辻馬車に揺られている。途中、休憩を挟み馬車を乗り換えつつも、どうにかその日の目的地までたどり着いた。問題が分かったのは、宿を取り、部屋で食事を済ませようとしたときのことである。


「この先の道が、こないだの雪で通れなくなってるんだよ」


気安げにアリアンヌ達の行先を聞いた食事を運んできた女が、困ったような表情で言った。アリアンヌは目を見張る。


「まあ、どうしましょう──」


「迂回路はあるんだけどね、そっちは治安があまり良くないって聞くから」


アリアンヌは地図を広げて示す。女はアリアンヌに分かるように、線の引かれた場所とは異なる、いくらか雑木林にかかっている道を指で辿った。


「これは……」


ナタリーが咄嗟に顔を顰める。見るからに道も悪そうだ。


「盗賊が出るって噂もあるから、抜けるなら明るい時間にした方が良いよ」


「あの、正規の道の復旧作業は?」


「そうだな。まだ水が引かないから、多分あと二週間くらいだと思うけど」


アリアンヌは、女の言葉に溜息を吐きそうになる自らを叱咤する。気遣ってくれているのだからと、笑顔で礼を言った。

食事を終え、ティモテを部屋に呼び、話し合いをする。


「──復旧を待って向かうか、悪路を行くかってことですか?」


地図を見て言うティモテに、アリアンヌな首を振った。


「復旧を待つなら、帰るのと同じよ。安全に山中を行く方法を考えたいわね」


「アンナ様……そのような方法があれば皆がそう致します」


ナタリーは嘆息して言った。


「そうなのよね……」


アリアンヌも溜息を吐く。ティモテが苦笑して言った。


「つまり、なるべく何もなく抜けられれば良いんですよね?それなら──」


「あるの!?」


アリアンヌは途端に瞳を輝かせる。ナタリーも興味のある目をティモテに向けた。


「いや、可能性を高くすれば良いんでしょ。それなら出来ないことはないかと思いまして。馬車は速度重視で二人乗りの小さいものにして、御者は僕がします。で、隣町で普通の辻馬車に乗り換える。だから、隣町にも支店がある商会とかで借りられたら良いんですけど。そのまま返せますし」


「貴方、御者もできるの?」


驚いたように言うアリアンヌに、ティモテは無邪気に笑った。


「まぁ、馬を扱うのは得意ですね。……ただ、正直早く抜けようってだけの作戦なので、万一の時には僕が戦うことが前提ですが──」


僅かに目線を下げたティモテに、ナタリーは不安そうな表情を向ける。


「もっと安全な方法はないのでしょうか?護衛を雇うとか……」


「護衛を雇ったところで、一人や二人では意味がないでしょう。大勢雇うと、今度は金持ちだと吹聴しているようで格好の的になります。不安もあるでしょうが、僕、それなりに強いので。ナタリーさんは安心してアンナさんだけ守っててくれれば」


首を傾げたティモテに、ナタリーはぐっと息を飲んだ。アリアンヌはそんな二人の攻防に笑う。そして、明日の予定を告げた。


「では、明日は朝から馬車を探しましょう。可能であれば、午前の内に隣町まで出たいわ。国境付近の状況にもよるけれど、夜にはネーレウスに入りたいわね……二人とも、そのつもりでいてちょうだい」


ティモテは一礼して部屋を去った。

ナタリーはまだ僅かに不安そうな表情だ。アリアンヌは意識して柔らかい笑顔をナタリーに向けた。少しでもナタリーが安心してくれれば良い。


「大丈夫よ、本当に盗賊が出ると決まった訳でもないし……ティモテはああ見えて元は近衛騎士だから、多分結構強いわ」


「近衛騎士──?」


ナタリーは驚いたように目を見張った。当然のことだろうとアリアンヌは苦笑する。ティモテ自身は隠しているつもりはないそうだが、それでも自ら吹聴することもないのだ。


「そうよ。だから大丈夫」


クローリス王国において、近衛騎士と言えば、学問と武芸に秀でており、かつ立場がある人間が就く職業だ。それでもかなりの狭き門で、貴族子弟からは憧れの職業でもある。

ナタリーは驚いたが、リヒャルトが王弟であったことを思い出し、納得する。


「──そうでしたか。では、私はアンナ様をしっかりお守り致します」


ナタリーは決意も新たに右手を左胸に当てたる。アリアンヌはナタリーの仕草に微笑んで窓の外に目を向けた。外の寒さで結露した窓からは何も見えない。


「大丈夫よ。──きっと」


何も見えない窓にアリアンヌは願いを込めるように呟くと、ナタリーと共に寝支度をして寝台に潜り込んだ。

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