表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢の華麗なる暇潰し  作者: 水野沙彰
本編 第三章
80/136

旅の道程1

昨日はインフルエンザ1日目で高熱が出てました…

今日はいくらか元気になってきたので更新します。


お待たせしました。

引き続きよろしくお願いします!

店内はランプが多く吊られている、活気ある様子だった。ティモテが慣れた仕草で店員と会話し、三人で席に座る。何を頼むべきか分からずにいるアリアンヌの代わりに、注文する品をさくさくと決めて行った。


「アンナさんはお酒飲む?」


「いえ、いらないわ」


「──じゃあ、エールを一つと、この薔薇水と……」


ナタリーはその手際の良さに驚いている。アリアンヌは以前一度見ているので、当然のこととして任せていた。注文が終わって、ナタリーが口を開いた。


「ティモテさん、慣れてますね」


ティモテは複雑な表情で笑う。


「いや、近衛の頃に上司に色々と扱かれていたので……自然と身に付いてました」


「そうでしたか。助かります、ありがとう」


ナタリーの自然な笑顔に、ティモテは少し身体を引いた。いつも職務に忠実なナタリーの、年相応の反応を初めて見たせいだろうか。ティモテはナタリーから目を逸らした。

運ばれてくる大皿の料理を、ティモテは三人分に取り分けた。中でも赤く染まった料理は、村独自のもののようだ。見た目にも辛そうなそれに、アリアンヌは恐る恐るフォークを口に運ぶ。


「……あら?辛くないのね」


目をぱちぱちと瞬かせるアリアンヌに、隣の席の男が陽気に声を掛けてきた。


「おっ、お嬢ちゃん旅の人かい?それ、皆結構驚くんだよ」


アリアンヌは見知らぬ男に笑いかける。


「本当、びっくりしました!王都では食べたことがなくて……」


「そうか、お嬢ちゃんは王都から来たのか!最近じゃ向こうでも露店で売るようになってきたんだが、まだまだ知名度は低くてなぁ。そっちのお兄さんは知ってたのか?」


男はエールを飲んでいるティモテにも声を掛けた。ティモテはグラスを置くと笑う。


「はい。以前露店で食べました。香りは強いのに辛くなくて、騙されてる気持ちになりましたよ」


「お、お兄さん分かってるじゃないの。そう!それが良いんだよ。……にしても、びっくりするくらい美人なお嬢ちゃんだね。お兄さんの恋人?」


揶揄う口調の男に、ティモテは慌てたように首を振る。


「止めてくださいよ。そんなの聞かれたら、僕が殺されますって」


「なんだ?お嬢ちゃん、他に恋人いるのか。さっきから、様子を窺ってる若いモンが何人かいたようだが……おい!お嬢ちゃん、恋人いるってよ!」


男の大きな声に、アリアンヌは驚いて身体を引いた。店のそこかしこで大きな笑い声が起き、小さな落胆の声が交じる。背を叩かれている男もいた。ナタリーはその様子に呆れた表情で、ティモテは可笑しそうにからからと声を上げている。


「……っと、悪い悪い。これでちょっかい掛けてくる人間も減ると思うからさ。この街は華やかじゃないが、良いところだよ。旅の途中だろうが、楽しんでってよ」


男はそう言うと、ティモテにグラスを合わせるように自らのグラスを前に出した。苦笑したティモテはそれにグラスを重ねる。小気味良い音が響き、近くにいた男も何人か集まってきた。中にはアリアンヌに直接声を掛けてくる男もいたが、アリアンヌが和かに対応していると、気付けば席を移動し、街の娘達の輪の中にいた。一緒にいるナタリーは相変わらずの主人の様子に思わず笑みが溢れている。


「アンナちゃんって、すっごく肌綺麗よねぇ。今いくつ?」


まじまじと見てくる町娘といった風情の女性に、アリアンヌは微笑んで答える。


「十六歳です。ですが、私の肌が綺麗なのはナタリーのお陰で……」


ちらりとナタリーに視線を向ける。アリアンヌはこの状況にナタリーを巻き込もうとしていた。


「ナタリーちゃんって、アンナちゃんのお友達なの?」


「いえ、友達でもありますが、我が家の使用人なんです」


「はー。やっぱりアンナちゃんって、良いとこのお嬢さんか!おっきい商家の娘さんか何か?」


アリアンヌは曖昧な微笑みで対応する。話の中心に引きずり込まれたナタリーも、アリアンヌの美容について聞かれ、どことなく楽しそうだった。





しばらくして、アリアンヌは一人、店から出た。店内の活気に火照った頬に、真冬の夜風が冷たい。

店の脇に置いてある樽に寄り掛かるようにして、夜空を見上げる。夜空には、満天の星が輝いていた。王都から僅か半日程度で、これほどの星が見えることに驚く。



「──リヒャルト様」


ぽつりと呟いた名前は、白い息と共に夜の闇に吸い込まれた。リヒャルトは今どの辺りにいるのだろうか。暖かいところにいれば良いが、無理をして夜も駆けてはいないだろうか。アリアンヌは心配になる。

夜空を眺めていると、扉が開けられた音がして、ティモテがアリアンヌの元へと歩いてきた。


「アンナさん、勝手に外に出られては、護衛も何もないでしょう」


僅かに顔を背けて拗ねたように言うティモテに、アリアンヌは笑った。


「ごめんなさい、ティモテ。……貴方、本当に酔わないのね。結構飲まされていたのではなくて?」


「まあ、このくらいじゃ効かないですよ。……途中からこっそりお茶にしましたし」


「そう。──でも、私は多分安全よ。だから心配しないで」


アリアンヌは確信した声音で夜空に向かって言う。ティモテは首を傾げた。


「ふふ、戻りましょうか。そして、明日に備えてそろそろ帰りましょう」


「そうですね。……明日は今日より長い距離を移動します。ゆっくりお休みになってください」


「ええ、そうするわ」


アリアンヌはティモテと共に店に戻る。店の常連であろう客達に挨拶をすると、ナタリーを連れて宿へと引き上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★☆3/2書き下ろし新刊発売☆★
「捨てられ男爵令嬢は黒騎士様のお気に入り5」
捨てられ男爵令嬢は黒騎士様のお気に入り5
(画像は作品紹介ページへのリンクです。)
よろしくお願いします!


★☆5/5書き下ろし新作発売☆★
「皇妃エトワールは離婚したい〜なのに冷酷皇帝陛下に一途に求愛されています〜」
皇妃エトワールは離婚したい
(画像は作品紹介ページへのリンクです。)
ベリーズファンタジースイート様の創刊第2弾として書き下ろしさせていただきました!
よろしくお願いします(*^^*)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ