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優しさの答え

翌日昼過ぎには、リヒャルトの言っていた通り、ラインハルト名義で夜会用の衣装一式が届けられた。公爵家のメイドによってアリアンヌの私室に運び込まれたいくつもの箱を、アリアンヌはナタリーとニナと共に見る。


「これは……本当に一式ですね」


ニナはぽかんと口を開けたまま唖然としている。ナタリーですら、箱を見つめたまま動けずにいた。アリアンヌは嘆息する。


「リヒャルト様、ドレス一式とは仰っていたけれど……これはお飾りから小物まで全て入っていそうね」


ラインハルトに用意させたと思うとアリアンヌは平常心でいられない。それでも開けずにいるわけにはいかないと、ナタリーとニナに声を掛けた。


「まずは開けてみましょう、話はそれからだわ。それに一度着てみなければいけないでしょう?」


「そうですわね、ご用意致します。ニナ、アリアンヌ様がお待ちの間に紅茶を」


ナタリーはニナに指示を出し、アリアンヌをティーテーブルへと誘導した。ナタリーは箱を開けては並べるを繰り返す。時折息を飲み、嘆息しながらもナタリーは作業を続ける。しばらくすると、アリアンヌの私室のソファとテーブルが、ドレスと小物と宝飾品で埋められた。



「──アリアンヌ様、ご用意できました」


ナタリーは疲れた表情を隠さずアリアンヌに声を掛けた。アリアンヌは並べられた一式を確認し、息を飲んだ。

シルクで作られたワンショルダーの薄水色のドレスには、胸の周りと裾に銀糸で精緻に刺繍が入れられており、裾には小粒のエメラルドとサファイアがいくつも縫い付けられている。シルエットは着ていないのでまだ分からないが、パニエがあるのでプリンセスラインになるようだ。同じ素材でグローブもある。

靴も小物も全てエメラルドとサファイアが使われており、引き立てるように髪飾りはパールの付いたピンが沢山用意されていた。


「これは……すごいわね」


アリアンヌの言葉にナタリーも頷く。ニナは言葉も出ないようだ。


「アリアンヌ様、これは──」


「リヒャルト様は汚しても破いても良いように陛下に用意させたと仰っていたけれど……」


「えっ、これ駄目にするんですか?!」


ニナが目を丸くして言った言葉に、アリアンヌも頷いた。


「とてもじゃないけれど、一晩で駄目になりました、なんて言える物ではないわね」


アリアンヌが苦笑する。ナタリーはアリアンヌに向き直った。


「一度合わせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


「もちろんよ。……これは着るのも大変そうね」


高価なドレスと宝飾品を前に、三人は溜息を吐いたのだった。





そして、問題はすぐに発覚した。ドレスを着て身支度を整えるのに、ナタリーとニナだけでは不可能だったのだ。シルクのドレスは、袖を通した状態のまま背中に三角の布を縫い付け、そこをリボンで締め上げるデザインだったのだが、ドレスの銀糸の刺繍と宝石の重さによって、支える人が二人いないければ縫い付けができないのだ。髪もドレスに合わせて凝った結い方にしようと思うと、身支度に人手が足りないのは明らかだ。


「……モーリスに相談しましょう」


アリアンヌはナタリーとニナと共に、この時間モーリスがいるというサロンに行き、事の次第を説明した。モーリスは複雑そうな表情だ。


「オリーヴにも手伝わせましょう。以前お話しましたが、以前は王城で侍女をしていたので、お力になれるかと」


アリアンヌは表情を緩め、ナタリーに笑いかけた。


「ですって、ナタリー。良かったわね」


アリアンヌに対し、ナタリーは難しい表情を崩さないままだ。


「アリアンヌ様、それでも難しいかと思われます」


ナタリーの言葉にモーリスも頷く。


「そうなのです。お話によりますと、装飾品も多いとのことですので。あと一人、誰か行かせます。女性のお世話をした経験のある者はおりませんので、お手伝い程度しかできませんが……」


「ありがとう、モーリス。構いません、よろしくお願いしますわ」


アリアンヌが踵を返し部屋に戻ろうとしたとき、サロンの入口の方から声が掛けられた。



「──あのっ!」


立ち止まり顔を向けると、緊張からか顔を真っ赤にしたエリスが立っていた。モーリスは厳しい声でエリスを注意する。


「エリス、お許しもなくアリアンヌ様の足を止めるなど──」


「構いませんわ。……どうしたのかしら、エリス?」


アリアンヌはモーリスの言葉を止め、エリスに言葉の続きを促した。エリスは震える両足を揃えて立ち、俯かないようにか両手を制服の横で強く握っている。勇気を振り絞って、エリスはアリアンヌと視線を合わせた。


「アリアンヌ様!わ……私に、お手伝いさせてください……!」


エリスはアリアンヌが初めて聞くはっきりとした大きな声で言った。アリアンヌは目を見開く。モーリスもエリスをじっと見ていた。


「エリス?」


「申し訳ありません、お話はお伺いしました。私の実家では、姉妹で協力して身支度をしていたので、お手伝いできると思いますっ!お願いします。私を……私を使ってください!」


アリアンヌはエリスの熱意に驚き、無言でエリスを見つめた。事情の分からないナタリーが不思議そうにしている。


「私は、アリアンヌ様に優しくして頂きました。だから……だから、私もアリアンヌ様のお役に立ちたいのです。お願いします」


アリアンヌはエリスに頷いた。


「……手伝ってくださるのは嬉しいわ。でも……よろしいの?」


アリアンヌははっきり何がとは言わなかった。それでもエリスは察したのか、頬を染めて頷く。


「はい、良いんです。あの後、色々考えましたが……私が好きだったのは、あの日あの時のあの人でした。リヒャルト様にはアリアンヌ様と幸せでいる姿が一番お似合いです。……私は、アリアンヌ様に優しくして頂いているだけでは嫌なんです!私にも何かをさせてください!」


はっきりと話すエリスの瞳には、選択を迷う色は微塵もない。アリアンヌはティモテに言われた言葉と、あの夜リヒャルトに言われたことを思い出した。残酷だと言われた優しさを、エリスは優しさで返そうとしてくれているのだ。


「ありがとう、エリス。よろしくお願いしますわ」


アリアンヌは嬉しくて、頬を染めて笑った。

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