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伯爵令嬢の華麗なる暇潰し  作者: 水野沙彰
本編 第二章
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戦闘準備

「──アリアンヌ様は?」


アリアンヌの部屋を出て扉を閉めたその時、リヒャルトはすぐ横から囁くように声を掛けられた。気配は感じていたので驚きはしなかったが、リヒャルトは思わず苦笑する。


「ニナ。……今眠ったところだよ」


リヒャルトの言葉に安堵したニナは肩の力を抜いた。そしてアリアンヌの隣室であるニナの部屋へ案内する。リヒャルトがここで誰かに見られては問題だ。リヒャルトは足音を立てないよう気をつけてニナの後について行った。ニナの部屋に入ると、扉を閉めたその場でニナが話し始めた。リヒャルトも長居するつもりはないので、立ったままで問題ない。


「本当は私がお慰めしたかったけど……良かった。ありがとうございます」


「……いや、私は何も。だけど、ニナがそう思っていると知ったら、アリアンヌは喜ぶだろう」


「そうでしょうか」


「ああ、もちろんだ。……ニナ、頼みがある」


リヒャルトはそれまでの柔らかい表情を引き締め、ニナに向き直った。ニナも姿勢を正す。扉の向こうから部屋へ戻る使用人の声が聞こえ、リヒャルトは用心のため声を落とした。


「アンナは、明日の昼にはアリアンヌへと戻る。ニナもアリアンヌ付きの侍女として扱うので、そのつもりでいてくれ」


ニナは驚いたようだったが、すぐに満面の笑みになった。


「アリアンヌ様、お決めになられたのですね。……でしたら、私は全力でサポートするのみですわ」


「それともう一つ。トレスプーシュ侯爵家の夜会に、アリアンヌの侍女として同行してほしい。……頼めるか?」


「え、これまでそういった仕事はナタリーが──」


ナタリーはもう一人の侍女だとリヒャルトは知っている。確かにどこに出しても問題のない上品な侍女だとリヒャルトは思った。


「今回は事情が違う。……敵陣に乗り込むようなものなんだ。護衛としてティモテは連れて行くし、私ももちろんアリアンヌを守るが、女性の控室までは目が届かない。アリアンヌの側についていてもらいたいんだ」


ニナはリヒャルトの言葉に目を見開いた。


「アリアンヌ様は、危険な目に遭われるのですか?」


「そうならないように潜入者も手配している。ラインハルトが動いているから大丈夫だとは思うが、相手はわざわざ招待状を送って来たんだ。用心しておきたい」


ニナは俯いて両手を握りしめた。あの時話していたトレスプーシュ家の夜会が、ラインハルトが動き、リヒャルトがニナに同行を頼むほどのものだと、ニナは今まで知らなかったのだ。ニナはキッと顔を上げ、リヒャルトを睨むように見据えた。


「──もちろんです、リヒャルト様。私が全力でアリアンヌ様をお守りします」


リヒャルトはニナの様子に引き締めていた表情を緩ませ、くつくつと笑った。





翌朝、アリアンヌはニナと共に使用人の朝礼へ行かなかった。代わりに、既に片付けられていた本来の部屋へと移動する。使っていた部屋に大きな荷物などはなく、数回移動するだけで運びきることができた。

本来の部屋は、ロージェル公爵家の『奥様の部屋』だ。リヒャルトの部屋の隣にあり、寝室がリヒャルトの寝室と扉一枚で繋がっている。双方から鍵を掛けられるような作りだ。

アリアンヌは、ニナに着替えを任せた。今日からは伯爵家の令嬢として、婚約者の家を訪ねているのに相応しいドレスを着なければならない。詰め込んだままだった荷物を開くと、ナタリーが用意してくれたであろうコーディネートのメモと共に、何着ものドレスが出てきた。


「わー!ナタリーさん、ありがとうございます!」


ニナはナタリーのメモに安心して、その中から一つを選んでアリアンヌに着せ付けた。アリアンヌの手伝いを借りながらでも、一人で着せるのは大変だ。いつもより時間をかけながらも、どうにか着替えを終え、髪を整え、薄くメイクをする。

身支度が終わった頃には、もうすぐ午前も終わろうとしていた。


「ありがとう、ニナ。大変だったでしょう」


「いえ!アリアンヌ様のお着替えを手伝わせて頂けるなんて、楽し過ぎです!」


ニナは久しぶりにアリアンヌの世話を焼けて嬉しそうだ。アリアンヌはロージェル公爵家へ来てから一番元気な様子のニナに苦笑した。──実際、令嬢として着飾ったアリアンヌは、家だからと控えめではあるが、美しく精巧な人形のような仕上がりだ。

今日の服は、アリアンヌの瞳と同じ碧のエプロンドレスだ。中には立ち襟のフリルが付いた白いブラウスを合わせている。ワンピースの裾はパニエでふわりと広げられ、パニエのレースが足首の少し上辺りから覗いている。胸元には少し大きめの紺色のリボンが付いており、同じリボンがスカート部分の所々に飾りのフリルと共に縫い付けられ、揃いの靴にもリボンがついている。大人びた色使いの中に可愛らしさを取り入れたデザインだ。

髪は緩く編み込みサイドに流し、ドレスと揃いのカチューシャを着けた。昼用の小粒のダイヤモンドのブレスレットを合わせ、レースの扇を手に持つ。伯爵令嬢のアリアンヌにとって、美しさは武器の一つだ。着飾ると、戦いに挑む前のように気持ちが引き締まる。


「──明日にはナタリーに来てもらえるように手紙を出しているから。今日一日、よろしくね、ニナ」


「もちろんです、アリアンヌ様」


部屋の扉がノックされる。アリアンヌは悠然とした微笑みを浮かべ、入室を促した。

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