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そして夜会へ

そして夜会当日。アリアンヌはリヒャルトに贈られた衣装に身を包み、迎えを待っていた。

菫色のドレスはシルクでできており、淡い光沢を放っている。首回りはデコルテをすっきりと見せるようになっていて、袖はパフスリーブだ。裾はパニエでふわりと広がる意匠で、膝より少し下で表面の生地をドレープ状にし、同素材のリボンを数ヶ所飾っていた。中が覗く部分は白いレースをふんだんに重ねたスカートだ。ドレスと同じ素材のグローブがアリアンヌの白い肌を肘より少し上まで上品に覆い隠している。装飾品は、エメラルドやサファイアを使ったもので揃えられていた。大粒のサファイアのネックレスにはエメラルドがチェーンの部分に配置されており、揃いのデザインのイヤリングと共に存在を主張している。ドレスと同色で作られた靴は、中心にエメラルドとサファイアが飾られているものだ。ドレスの胸元に付ける薔薇のコサージュにも、他の飾りとに合わせ、花弁のところに小さいエメラルドとサファイアがいくつか使われていた。

しかしアリアンヌが最も驚いたのは髪飾りだ。それはステンドグラスを真似た意匠だった。中心から外側に向けて、エメラルドグリーンからサファイアへと色を重ねて、グラデーションになるように作られている。表面の繊細なカットでキラキラと輝くそれは、アリアンヌがリヒャルトに貰ったガラスの蝶を夜会用にそのまま大きくしたようなデザインだ。今日のアリアンヌはその蝶の髪飾りをサイドに編み込みを作りハーフアップに纏めた髪に飾っている。



約束の時間に迎えにやってきたリヒャルトは、シャリエ伯爵邸のサロンで、アリアンヌの姿に見惚れ、嘆息した。


「アリアンヌ嬢。やはり貴女は私にとって、ただ一人の妖精姫だ。とても綺麗だよ」


微笑むリヒャルトの言葉に、アリアンヌは恥ずかしさで頬を赤らめた。


「ありがとうございます、リヒャルト様。……とても素敵な贈り物でしたわ」


少し屈んで髪飾りが見えるようにしたアリアンヌに、リヒャルトは笑った。


「以前贈ったときにはあまり使えないと言われたからね。今回は、ちょっと使えるようにしてみたんだ」


「まぁ、リヒャルト様ったら」


アリアンヌも笑い、リヒャルトのエスコートでロージェル公爵家の馬車に乗り込んだ。





今日は、クローリス王国では感謝祭だ。今年の収穫に感謝し、来年の豊穣を願うこの祭りは、それぞれの領土特有の楽しみ方がある。王都ナパイアでは、祭りの名物料理の屋台が立ち並び、市民がそこへオシャレをして出掛けるというものだ。また深夜になると広場でダンスが行われ、そこで日付が変わる時に踊っていた人と結ばれるというジンクスもある。同じ日、王城では貴族が夜会に参加し、やはり深夜まで続けられるのだ。





馬車は、慣れた様子で混雑を避けて王城へと到着した。先に馬車を降りたリヒャルトが、アリアンヌに手を差し出す。その手を取りアリアンヌは馬車を降りた。

今日のリヒャルトは、深い緑に銀糸がアクセントに使われた夜会服に、クラヴァットとチーフをアリアンヌのドレスに合わせ菫色で揃えている。二人が並ぶと、誰が見ても仲睦まじい恋人同士という様相だ。

控室を抜けて、大広間の前でコールマンに名を呼ばれるのを待つ。


「なんだか、緊張しますわ」


身を寄せリヒャルトの耳元で囁くように言ったアリアンヌに、リヒャルトは頷くことで返した。



「リヒャルト・ロージェル公爵ならびに、アリアンヌ・シャリエ伯爵令嬢」


コールマンに名を呼ばれた瞬間、大広間がシンと静まり返った。アリアンヌはリヒャルトのエスコートで、優雅に見える微笑みを貼り付けて入場する。次の人の名前が呼ばれる頃には、多くの人が噂話に花を咲かせているのだろう。

相変わらず煌めくシャンデリアと、華やかに敷き詰められた深紅の絨毯が王族の権威を象徴しているかのようだ。既に挨拶を済ませた貴族達は、既に各々の会話に花を咲かせている。


アリアンヌとリヒャルトは、まずは王族が座っている奥の席へと、挨拶するべく足を向けた。今日もまた参加者が多い。王族席では、ラインハルトが妃と先代王妃ツェツィーリエとともに、並ぶ貴族の挨拶を順に受けているのが常だ。しかし少しずつ列が進み、今日は違っていることがアリアンヌ達にも確認できた。なんと、先代国王であるフェリシアンと、その側妃カトリーヌもいたのだ。フェリシアンは地方の空気が良かったのか、心理的負担が減ったのか、退位した直後よりも幾分か体調が良さそうに見える。ラインハルトと妃の少し後ろで、ツェツィーリエとカトリーヌに挟まれる形で座っていた。

それを確認して驚いたアリアンヌは、右側にいるリヒャルトの横顔を見た。アリアンヌより緊張した様子のリヒャルトは、厳しい顔でじっと王族席を見つめている。アリアンヌはリヒャルトにエスコートされている右手で、リヒャルトの左手を軽く握った。はっとした様子でアリアンヌを見たリヒャルトは、それで少し肩の力が抜けたのか、微かに微笑みを浮かべた。

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